第2話 拾い物

 ……とは言ったものの、家に帰って見てしまった。

 ほんとにデリカシーねぇな。

 そりゃあ、妹にも嫌われるのも全然頷うなずける。


 俺は、ノートの表紙をめくって1ページ目を見た。

「うわっ……文字ばっかじゃん。って、あれ?」

 そこに書いてあった内容は、なんとも既視きしかんに溢れるようなものだった。

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 2月1日。

 急に雨が降ってきたから、帰り道で傘を買っていた。

 でも、濡れて帰るところも見てみたかったから、ちょっと残念。

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 これは……日記?

 理科ノートってのは表紙だけで、中身は日記を書いて……いや待てよ。

「そういや、俺も笠を買ってたような……。奇遇だな。」

 奇遇だよな?

 たまたま同じだけだよな?

 少しだけそんな心配をしてしまう。

 "視線"の事もあるし、その犯人の可能性もある。


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 2月2日。

 お友達と帰っているところをけていたら、また急にキョロキョロし始めた。

 さすがに、そろそろバレてると思うし、気をつけて行動しよう。

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 これは、友人と帰った日のことじゃないか?

 となると、やっぱりこのノートの持ち主がストーカーなのか……。


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 2月3日。

 試合があったせいで、先輩を見に行けなかった。

 その腹いせに、野田のカツラを隠した。

 結局試合後までカツラは見つからずに、野田はハゲ散らかした頭をさらしながら試合を観戦することになった。


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 野田って言ったら、バスケ部の顧問だったよな。

 ということは、このノートの持ち主はバスケ部?

 というかカツラだったんだな、野田先生。

「ん?先輩……。」

 バスケ部の後輩……俺にそんな奴いたっけ?

 バスケ部の知り合いは同級生のあいつしかいなかったはず。


 その後はとりあえずそのノートを最後まで読み続けた。

 情報としては、

 ・バスケ部。

 ・俺の後輩。(俺は今、2年生だから1年生)

 ・中学が同じ。

 ・俺より身長が低い。

 と言った具合だった。

 結果から言うと全く分からない。


 記憶をどれだけ漁っても、情報をどれだけ反芻はんすうしても該当がいとうする人物はいなかった。

「仕方ない、明日あいつに相談してみるか。」

 バスケ部のあいつなら分かるかもしれん。


 ***


 ここからは、次の日の朝の事。


「え……ストーカー?」

「そうなんだよ。協力して欲しくて。」

 今話しかけているのは、幼馴染の倉敷くらしきゆいだ。

 文武両道、質実剛健。

 生徒会長に立候補していた事もあり、中々に頼れる性格をしている。

 それゆえに、多くの後輩にもしたわれていて風紀委員でもある。

 そしてなにより、女子バスケ部の部長だ。


 若干の思考を(している振りを)して、彼女は妥協したように言った。

「まぁ、部活に支障が出ても困るし良いよ。」

「良かった……。ありがとな。」

 一瞬驚きつつも、「おうっ」と返すゆい

 俺に、頼れる幼馴染が居て良かった。

 そう思えた日だった。

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