第6話 …悠仁

 窓際で踊るカーテン。

 部屋に吹きそよぐ風。

 そして、自然を感じる爽やかな部屋と眼鏡をかけたイケメン風のこの男、楚良そら

「それで、ことは何でここに?」

「1つ相談があって来たんだ。」

 もちろんそれは、ストーカーの事だ。

 部屋にあった椅子に教室から持ってきたバックを置き、あれ・・を取り出した。


「ん……こと、そのノートは?」

「俺のストーカー犯が持ってたノートだ。」

「ストーカー……ね。」

 吉野よしの楚良そら

 推理小説をよく読んでいる……まぁ、簡単に言うと推理オタクというやつだ。

 ただし、楚良そらはロリコンである。


 俺の周りには多くの人間がいるが、そのほとんどがアホだ。

 頼れるのがこのアホしかいない、というのも何か悲しい話だが、一応事実だから仕方ない。


「そのストーカーについての話なんだけどさ、昼休みももう終わるし、また放課後に来る。」

「あぁ、先に読んどけって事だな。」

 話が早くて助かる。

 俺含め、馬鹿ばっかりの学校だと思うし、現状はこれが最善だろう。


 ─────────────────

 ギィィッ。

 ドアきしむ音もどことなくデジャブを感じる気がする。

 もちろん、部屋の中に、楚良そらの姿は……。

「後ろだ。」

「デュワッ。」

 再び"ウルトラなマン3分後に死ぬ巨人"を踏襲とうしゅうしたリアクションをしてしまった。



 という事があって今に至る。

 洗いざらい"怪しいところ"も"怪しくないところ"も全て話した。

「成程、そうか。」

「何かわかったのか?」

「あぁ。」

 眼鏡をクイッと押し上げて楚良そらは言った。

「そう、お前の妹がロリであるということがな!」

「ところで、この2月3日のことなんだけどな……。」

「無視かよ。」

 楚良は、推理小説の話をする時は爽やかだが、女子児童の話になるとキモオタへと遷移せんいする。

 校長の親族という特異なポストを使って生きているようなやつだから、少しヤバめではある。


「昼からの時間を通して読んでみての感想だが……。」

「おう。」

「1つ目は、なぜ悠仁ゆうじんが教職員にこのノートを預けなかったか。だ。」

 悠仁?

 確かにあいつは、困ってる奴を助けがちな生粋のヒーロー体質ではある。

 少なくとも、友人の相談は断らないし、俺のストーカー事件にも対応してくれた。

 俺になすり付けるより、自分で解決する方が速いし、確実だって事くらい分かるはずだ。


「2つ目は、少しのわざとらしさだ。」

 わざとらしさ?

「例えばこの日。」

 ─────────────────

 2月8日。

 1週間ぶりの雨で、傘を差す先輩。

 先輩より身長が小さい私も、傘をさして歩いて───。

 ─────────────────

 確かに、全く必要のない場面で"身長"の話をしている。

 少し演出感が出ている気もする。


「そして最後。3つ目は、矛盾だ。」

「矛盾?」

 ─────────────────

 2月18日。

 今日の国語の時間に、先輩が朗読をした。

 スラスラと読む姿は──。

 ─────────────────

「これのどこが矛盾なんだ?」

 特におかしいところは無いはず。

 俺の見間違いか?

こと、お前は留年でもしたのか?」

 留年……?

 あっ、そうか!後輩と一緒のクラスで国語を勉強することなんて無いはず。

 ましてや、普通科で。


「ここに書かれていることに矛盾が生じた以上、今までの情報は当てにならん。」

 そうか、ノートの内容が全て嘘である可能性があるって事か。

 手がかりは減っていくばかり……、どころじゃない。

「じゃあ、1から情報集めか?」

「いや、まだいくつか残ってるだろ。」

 現時点の確定情報で言うと、

 ・同じクラス

 ・俺より背が低い

 ・多分、中学が一緒。

(一緒じゃないと知らない事を知っている。)

 ・楚良そらはロリコン。

 これぐらいかな?


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 男ばっかりの話でむさ苦しいだろうし、久しぶりにロッカーの中から話そ……。

 ガチャ。

「ふぅ、ちょっと休憩に来ました。」

 こいつは、俺をなんだと思ってるんだろうか。

「ふふっ、なんですか?その顔は。」


「私たちは、大好きな人は眺めてるだけじゃいつか満足できなくなるんです。」

「そうなのか?」



「そうなんです。

 だから、大好きな人にまみれたくなるんです。

 大丈夫、ここでお腹を開いたりしませんよ?

 ちゃんと、血の一滴も無駄にしないように色々と準備します。

 だから……。」

 彼女をこんなふうにしたのは誰でも無い俺だし、彼女自身だ。

 ""でも、俺に責任は取れない。""


「それまで、待ってて下さいね。」

 彼女は笑った。


 その屈託くったくの無い笑顔。

 その猟奇的で親愛に満ちた深みは、多分俺にしか分からない。


 その曇りのない目の奥。

 そこにいつもまとわりついている悲劇は、幕を閉じることなく続く。


 俺は、そんな彼女の笑顔に何が返してあげられるだろう。


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 ■作者より


『ヤンデレ系スポーツ女子のせいで僕は今ロッカーに監禁されています。』

 の略称は何がいいのか分からないので、とりあえず『ヤンデレロッカー』にしときます。

 何かあれば、案を下さい。


 山響やまなりのTwitter

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