第18話 幼い頃から馴染んでるやつ

 あの、なんとも言えないラブコメ展開のせいで"1時間だけ1緒に寝る"という状況に持ち込まれた。

 1時間だけ……それは寝てるのかどうかも怪しいような気もする。


「よしっ、準備完了。」

「寝る時間に気合い入れんなよ……。」

 妹から借りたパジャマに着替えて来たゆいが、ガッツポーズをしている。

 特に珍しいことも無く、"男子高校生の部屋"って感じがする部屋のドアを開けて、電気を点ける。


「久しぶりだなぁ、ことの部屋。」

「先月来ただろ?」

「まぁね。」

 先月も……いや、先々月も泊まって居る。

 ゆいとは、幼い頃から馴染んでるだけあって、親同士も仲がいい。

 その為か、泊まる事になんの抵抗もない"幼馴染"という名のモンスターが生まれてしまった。


「それじゃ。」

 カチッ。

「ん?暗い……。」

 どうやらゆいは、部屋の電気を消したようだったが、まだ8時過ぎ。

 幼児じゃあるまいし、寝るにはまだ早すぎる。


ゆい、寝るのはまだ早いんじゃないか?」

「いやいや、1時間しかないんでしょ?」

「まぁ、きっちり測る気は無いけどな。」

 1時間制限をつけたせいで、ゆいが生き急ぎ始めてしまった気もする。


「さぁさぁ殿方、オフトゥンへ……。」

「もう、どこからツッコんでいいか分からん。」

 とか言いつつも、一応は布団……じゃなくベットの上に座った。

 それを見届けたゆいは、満足そうにベットにダイブしてごろごろし始めた。


「ねぇ、ことは私の事どう思ってるの?」

「は?何だよ、急に。」

「いや、ただ聞いときたくてさ。」

「……。」

 急にマジトーン。

 いつもアホでいると思ってたが、急にマジになると、逆に何か怖い。

 欠伸あくびをし始めたゆいに、背中を向けたまま答える。


「俺は、ただの"幼い時から馴染んでるやつ"位の感じだよ。それ以上でも、以下でもない。」

「……。」

「まぁ、馬鹿で変なところが真面目なお前なら、良い人もすぐ見つかるさ。」

「……すぅ。」

 ゆいは、寝ていた。

 さっきから何も喋らないと思ったら、ただ眠ってただけだったか。

 まぁいい、丁度しなきゃいけない事もあるしな。


 ***

「こんばんわ。」

「奇遇ですね、ねいさん」

 俺の家の庭の茂み、そこに隠れていたのはねいさんだった。

 ゆいが言っていた、"1時間視線が止まる"現象は、つまり……その時間以外は続いている、ってことになる。

 "じゃあ今、近くにいるんじゃね?"的な思考で家の近くを調べていたら、ねいさんを見つけてしまった。


「"さん"をつける必要はありませんよ?せめて、"様"にして下さい。」

「"せめて"の使い方、知ってます?」

「それで、私に何か用ですか?」

「それは、こっちが聞きてぇよ……。」

楚良の計画発動より先に、犯人確保に至ってしまった訳だが、聞きたいことが多すぎる。


ねいさんが、ストーカーだったのか。」

「いえ、厳密には全く違います。証拠も無いのに、罪を着せないでください。」

「何で、そこまで強気になれるんだ……?」

そこはかとなく、謎である。

しかし、確かに"ここに居た"ってだけで確証も何も無いのは確かだ。


「ストーカーの件なら、添い寝をしている相手に聞いた方がいいと思いますよ?」

「え?何だよ、その意味深な言動は……。」

「さぁ、何でしょうね。」

気になる……が、ゆいはストーカーするような状況にあるわけじゃないしな。

俺がいない間に家に来ては、俺のR指定書籍を発見し、妹にチクる。

そんなことをしているゆいが、ストーカーする必要も無い。


「もう用はないようなので、私はこれで失礼します。」

「え、この状況で帰れると思ってるの?」

「そんな……私も襲う気ですか?」

「"も"ってなんだ、ゆいとは……健全な仲だ。」

彼女の中で、俺はそんなにアクティブな事をする奴に位置づけられていたのか……。

そんなことを考えている間に、彼女は小走りでどこかへ行ってしまった。


ねいさんとは、今日初めて会って……、ストーカーは一ヶ月前から……もう、訳が分からん。」


***


「はぁ……。」

部屋の中の暗がりを見たが、ゆいはどうやら快眠のようだ。

メチャクチャになった頭の中を、自分でできる限り整理したが、何も進展は無かった。


「うぅ、頭がおかしくなりそうだ……。とりあえず、寝よう。」

階段を降り、リビングにあるソファーに手をかける。

 少し高めの値段に設定された、形をベットに変えることが出来るタイプのソファーだ。


「ここを、こうして……よし。」

夏に妹と寝た時から、久しぶりに組み立てたソファーだったが、錆び付いては無かったみたいだ。


改めて、少し整理しよう。

一ヶ月前の……2月のあの日から始まった視線は一旦、3月の初めに止まった。

そして、一昨日からはねいさんが尾けているのは確定事項。


やっぱり、全然わからん。

一体、どうしたら………。


***


「はっ……!」

いつの間にか、寝てしまった。

眠い目を擦りつつ、リビングのカーテンを開ける為に立ち上が……。

立ち上が……。


何だこの、手は・・……。

そして、この背中に抱きついている奴は……。


「うぅ、おはよう。こと。」

「ゆ、ゆい。」


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ヤンデレ系スポーツ女子のせいで僕は今ロッカーに監禁されています。 山田響斗(7月から再開予定) @yamadanarito

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