第37話 音の正体


ギターで何曲か演奏をしたころには、太陽は完全に見えなくなり、赤色の空が見えるだけとなった。あともう1時間もすれば周りは完全に暗くなるだろう。

そろそろどこで今日の夜を過ごすかを決めなければならないのだが、一応はまたさっき演奏していた所で寝ればいいだろうということになった。まだまだ探索できるところは残っているので、明日も城を見て回るつもりだからだ。

ただ、先ほどは自転車を城の中には入れなかったが、中に入れることができそうな壊れた城門を見つけたので、そこから自転車を入れることにした。別に盗む人なんかいないと思うが、なんだかできるだけ近くにあったほうが安心するのだ。


「……あー、あったあった」


その門から出て、遠回りでこの中に入る前に自転車を置いた所まで行った。勿論、自転車はさっき置いたところから寸分も動いていなかった。当然といえば当然だ。

鍵を解除し、自転車を押してとっとと戻ろう……そう思ったのだが、アンジェラが立ち止まったまま動かない。


「……ん? どしたん?」

「えっと……なんか、音がしない?」

「音?」

「うん。なんというか、変な音」


どうやら、彼女の耳には何かが聞こえているらしい。どんな音なのか気になり、俺も耳を澄ませてみる。

聞こえるのは風と、風に揺れる木々の音……他には特に何も聞こえない。少しの間風がやむと、その間だけ、完全な静寂が周辺を支配した。


「……なんも聞こえないかなぁ」

「うーん? さっきは聞こえてたのに」


どうやら彼女も今は聞こえないみたいだ。そもそも、変な音と言われてもどんな音なのかがわからない。


「変な音って、どんな音が聞こえていたの?」

「うーんと……生き物が出す音みたいだったの。えーと……」

「……グルァァ……」

「あ、今聞こえたみたいな?」

「そうそう! ぐるぁぁ、て変な音が……あ」

「き、聞こえた……」


今度は俺にもはっきり聞こえた。あまり大きな音ではないが、結構低い音だと、ハッキリわかった。

今聞こえた音は何かの動物が出すような声のように思える。そういえば、この世界に来て今まで植物が風に揺れる時の音とかは聞いていても、大小を問わず動物の出す音というのは聞いたことがなかった。今の音は動物の呻き声、あるいはいびき。もしくは……狩りをするときの唸り声。恐らくそんなところなのではないだろうか。

どの方向からというのは今のである程度は推測できた。今通った所とはちょうど反対側からである。


「ど、どうしよう……」

「いや、うーん……ちょっと見に行ってみるか」

「ええ!?」


何かが、この道の先にいる。それは間違いない。今とれる行動は、そのまま触れずに自転車を運ぶか、野次馬精神を発動してその声がした方へといってみるかだ。俺は後者を選択した。もしかしたらなんかかっこいい生き物とかがいるかもしれないし、そうでなくてもこの世界で動物に初遭遇ということになるかもしれない。

が、一方のアンジェラは乗り気ではないみたいだ。


「大丈夫なの? その……危なくないかなぁ。なにかドラゴンとか、怖そうな生き物がいたら……」

「大丈夫大丈夫、先っちょだけだから! 先っちょだけだから!」

「先っちょだけってどういうこと?」

「それはえーっと。先っちょだけ見る? とにかくちょっとだけだから!」

「ええー。うーん……」


彼女は反対の姿勢を崩すつもりはないみたいだが、それでも何とか説得を試みる。そうまでしてみたいのだ。


「ほらほら、ちょーっとだけ、ちょっとだけですぐおしまいだから、ね?」

「じゃあ……ちょっとだけね」

「やったぜ」


俺の説得が功を奏し、一応見る気になったみたいだ。

ちょっと不安そうにはしているが、大丈夫だ。先っちょだけなので特に問題ない。先っちょだけ見るというのは自分でもあまりわからないが、やばかったらすぐに引き返せばいいのだ。

なんか会話だけだと卑猥な感じになってしまったような気がしなくもないし、さっきからフラグが建築されているような気もしなくはないが、気のせいだろう。多分。

という訳で、さっそく先ほど音が聞こえた方へと歩いていく。ゆっくり、と言えるほどではないが、普段歩く速度よりかは遅く歩いていると思う。

数十メートルほど歩いたところで、また同じような声がした。今度はさっきよりも結構大きく感じる。どうやら声の主は割と近くにいるみたいだ。またもう少し進んでみると、先ほど聞こえた声以外にも呼吸音みたいなのも聞こえ始めた。その音は建物の角を進んだ先から出されているようだった。


「この角にいるっぽいな……」


恐らく角を曲がってすぐに声の正体がいるはずだ。流石にここまでくると少し緊張というか、恐ろしく感じてくる。


「ねえ、大丈夫なの? やっぱりやめた方が……」

「……とりあえず頭だけ出して見てみよう」


それでも見てみたいという気持ちは変わらなかった。とりあえず頭だけひょいと出して角から先を見てみることにした。

そろりそろりと、角まで近づき、そしてちらりとその先を見てみる。


「……あ、あれって……」


それを見てすぐ、俺は思わずそう言ってしまった。

建物の角から十数メートルほど先。全長何メートル、あるいは十何メートルもある、薄緑色の体を持ち、立派な羽と、長い尻尾を持つドラゴン……いや、ワイバーンがそこにはいた。



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