第29話 落ちた後

「いて……いてててて……」


身体を少し動かすと、いたるところから痛みを感じる。あそこから落下してどれほどの時がたったのかはわからない。10秒か1分か10分か、そのくらい意識が飛んでいたみたいで、正確な時間は分からなかった。


「ちょっと意識が飛んでたかもな……いてぇ!」


起き上がろうとするも、身体全体に痛みを感じて再び倒れた。どこか骨が折れてるかもしれないと思い体中に意識を張り巡らせたりしたが、痛みはかなりあるもののどこも折れてはいないみたいだった。


「折れてはいないのかな……どれくらいの高さから落ちたんだ?」


身体の痛みを感じながらも、頭を動かしてここがどこらへんなのかを調べる。

どうもここはさっき掴んでいたところから2階下の階層みたいで、あそこから一気に1階まで、という訳ではないみたいだ。まあ、そこまで落ちていたら死んでいる自信があるので、助かったといえば助かったみたいだ。

辺りを見ると、数十cm後ろは床が崩れており、その下を見てみると恐らく3階分は崩れているみたいだ。もしあそこに落ちていたら、この程度の怪我では済まなかっただろう。

体中に痛みを感じながらも立ち上がり、何とか階段の所へと移動する。


「あー、いて!……左手首ねん挫したかなぁ」


左手首の関節部分が腫れている。少し捻るだけで激痛が走るし、これはねん挫したということで間違いなさそうだ。ねん挫したときはどうすればいいんだっけか、とりあえず安静にしているべきだろうか。そうはいってもずっとここにいるという訳にはいかないので、とりあえず階段を再び上ることにした。

そういえばアンジェラはどこにいったのだろうか。今も上の所にいるのか、それとも下に降りていったのか。とりあえず上にいる可能性に賭けていくことにした。

階段を上るたびに痛みを感じる。とはいえ先ほどよりかは痛みを感じなくなってきた。体が治ってきたのか、それとも感覚がマヒしてきたのか。恐らく後者だろう。

痛みを感じながらも階段を一段一段、しっかりと上っていく。やがて、もう少しで屋上にまでというところで、何かの声が聞こえ始めた。


「……泣き声?」


誰かの泣き声が聞こえる。といっても誰の泣き声なのかはわかっている。アンジェラだ

階段を登りきると、そこには膝をついて丸まりながら泣いている彼女がいた。どうも、俺が落ちてしまったことを泣いているみたいだ。


「うぇえぇん……私のせいで……」

「……あのー……」

「ひっぐ……え?」

「ちゃんと生きてます」


どうも彼女は俺は落ちて死んでしまったと思っていたみたいで、再び戻ってくるとは思っていなかったみたいだ。ぽかんとした顔を浮かべたのち、みるみると泣き喜びの顔に変わっていく。


「ひぐぇえぇぇ、よかったぁー!」


彼女はあふれんばかりの涙をだしながら、俺に抱き着いてきた。途轍もなく泣いているみたいで、制服に涙とか鼻水だとかがどんどんついていく。

これは彼女にかなり悪いことをしてしまった。


「いやはや面目ない……いてて!」


彼女に抱き着かれて少し体がよろけたが、それによって大きな痛みが襲ってきた。やっぱりまだまだ痛い。


「ひっぐ……けが、してるの?」

「うーんまあ。血とかは出てないみたいだけど……ちょっと離れてもらっていい?」


彼女に離れてもらい、俺はそこいらの壁に寄りかかった。動くたびに痛みが広がるが、力を抜いて止まっていてもやはり痛い。それでも姿勢を変えずにいるとそれなりに楽なので、


「あーいてぇ……とりあえず今は時がたつのを待つしかないか……」


こんな世界なのだから病院なんてないだろうし、応急処置ができそうな道具もない。今のところできるのは安静にしていることくらいだろうか。ここは人体の自然治癒力を信じるしかないみたいだ。

と、思っているとアンジェラがまだ涙を流しながらも、俺の方を気遣ってくれた。


「けがは……だいじょうぶなの……」

「うーん、大丈夫ってわけじゃないけど……一応は」

「痛いところとか……あるんでしょ……」

「まあ……はい」


先ほどよりかは楽にはなったが、それでも痛いものは痛い。正直にそれを伝える。


「それなら……私が回復魔法かけてあげるから……」

「ほう、ありがたい……え、そんな魔法あるんすか? 最初に見せてくれた時にやってくれなかったような……」

「だって、あの時は怪我してないから……使う必要ないじゃん」

「なるほど……」


確かに怪我はしていなかったし、あそこで出されても特に何もなしで終わっていただろうが、てっきりあそこで全部の魔法を出したものだと思っていた。どうもあれですべての魔法を出したという訳ではないみたいだ。


「じゃあ……キュア」


彼女がキュアと魔法を唱えると、彼女の手から緑色のオーラみたいなのが出てきた。そして、そのオーラは俺を包み込んでいく。


「おお……おお?」


俺を包んでいた緑のオーラは消えたが、特に何か回復したようには思えなかった。相変わらず左手首は痛いし、全身の痛みも引く気がしない。


「えーっと……これってどんな魔法なの?」

「体の傷とか痛いところを治す魔法だよ。時間はかかるけど、時間がたてば痛みもなくなるはずだよ」

「ああなるほど、リジェネみたいなものね」

「りじぇ……まあ、そうかも」


とにかく、怪我を治すにはしばらくは安静にしている必要がありそうだ。


「まあとにかく横になってよ……」


壁に寄りかかるのをやめ、横になる。布団とかは何もなく、直に寝てしまっているが別にいいだろう。さっきよりかは痛みが引いてきた気がするし、このまま魔法の効果が出るのを待つべきだろうか。


「……その」

「ん?」


と、横になると彼女が話しかけてきた。


「けがをさせてごめんなさい。私のせいで落としちゃったし……あそこで持ち上げられてたら……」

「えいやいや、むしろ謝るべきはこっちの方だよ、よく考えないで扉を体当たりしていたり……」


そうだ、俺が下に落ちてしまったのは俺のせいだ。彼女のせいなんかじゃない。もし俺がもう少し慎重にやっていたら落ちていなかったのだ。彼女を責める点はどこにもない。


「でも、あそこで私が持ち上げられたら落ちなかったし……」

「それを言うなら俺が体当たりで開けようとしなかったら落ちてなかった。とにかく今回のことは全面的に俺が悪かった、それで終わり。いいでしょ」

「……うん」


彼女は何も悪くない。考えればこの建物もボロボロだし、扉の先が安全だなんて確証はどこにもない。もう少し俺が考えてやっていれば……色々と反省点はあるが、とにかくこれからはもっと慎重に色々とやらなければ。

そう思いながら、俺は痛みが引くのを待ち続けた。


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投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。リアルが忙しかったりさぼってたりしてました。これからは投稿ペースの方もう少し上げたいと思います。

感想、評価等していただけると嬉しいです。

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