第6話 魔法の披露

「えっと……ここでできるかな、壁も石でできているし……」

「なるほど。つまり炎みたいなのを魔法で出すと」

「えーっと、うん。まあそれも出すけど」


早速披露してくれるというので、壁から少し離れる。本当に見せてくれるみたいだ。もうワクワクが止まらない。


「それじゃ、いくよ……」


彼女が手を、腕を壁の方へと向けた。そして。


「ファイア!」


直後、彼女の手の目の前に青い光が出てくる。そして瞬きする間もなくその光は炎の塊へと変化した。炎は目の前の石の壁にぶつかり、やがて消えていった。壁には炎によって焦げた跡が残っている。


「ど、どうかな?」

「……」


俺はその魔法をまじかで見て、呆然としていた。

これが、魔法。CGなんかじゃない、本物の魔法。


「ユウト? 大丈夫?」

「……す」

「……す?」

「すっげぇぇぇええぇぇぇえええ!!!」


目の前で起きた光景に俺は興奮した。とにかく興奮した。まさか本当に魔法を見ることができるとは。異世界万々歳である。


「えっと、そんなに?」


彼女は俺のテンションに少し戸惑っているみたいだがそんなことはどうでもいい。とにかく俺は興奮していた。何度でもいう、とにかく興奮した。


「めっちゃすごい! 最高だよもう最高!」

「いやぁ、それほどでも……あるけど」

「それほどでもあるよ! すごかったなぁ……他にも何かできるの?」

「えっと……そうだねぇ」


彼女は手を顎に当てて少し考えるそぶりを見せると、再び手を壁の方へと向けた。


「イーコス!」


と、唱えた。直後、再び青い光が出、その後衝撃破のようなものが壁にぶつかり大きな音が辺りに響いた。

空気の波動的なものだ、これは風魔法か。音魔法といってもいいかもしれない。


「ほげぇぇええぇぇぇええ!!」


俺は再び驚きをあらわにした。すごい、すごいぞ異世界。今までこんな光景を生で見ることはないと思っていたのだが、今目の前ではその光景が現在進行形で出ている。


「ヴェロス!」


今度は矢みたいのが指先からでてきた。青白く光っているそれは、壁へとぶつかり、そして砕け散った。砕けた矢がパウダーみたいに宙を舞い、そして消えていく。


「素晴らしい、素晴らしい!」


俺はひたすら称賛の言葉を彼女に浴びせた。

もうスタンディングオベーションである。彼女の方もうれしそうにしている。


「えっと後は……」


まだ出していない魔法があるみたいだ。一体どんな魔法をやるつもりなのだろうか。ワクワクしながら様子をうかがっていると、なぜか右手をこちらの方へ向けてきた。何をする気なのだろうか。


「シュタルク!」

「うぉげ何!?」


突然の裏切りである。何を思ったのか、何か呪文のようなものを俺に向けて唱えたのだ。思わず目をつむって身構えてしまったが時すでに遅し。どうやら俺の人生はここでおしまいみたいだ。異世界に 来たと思えば 殺される 加藤優斗辞世の句……川柳だけど。


「どう?」

「おりょ、死んでないや」


こっちに魔法をうってきたのでこりゃ人生終わったなと思ったけど、全然そんなことはなかった。むしろ逆に体が強くなった気がする。


「なんか体が強くなったというか……軽くなったというか」


全身から力が湧き出ている気がする。いまだったらシャトルランをもっと長く走れたり、オリンピック出場権を獲得して惨敗したりとか出来るかもしれない。これはひょっとしてバフ魔法なのか。


「身体の強化魔法、まあ私が使える魔法はこれぐらいかなぁ。すごいでしょ!」


やっぱりそうだった。一通りの魔法を出し終え、彼女は俺に対しエッヘンと自慢げにしていた。これはすごかった。


「はい。滅茶苦茶すごかったです」

「えへへぇ、もっと褒めて褒めて!」

「よ、異世界一! マジ卍! めちゃ最高!」

「へっへっへ……まんじってなに?」

「俺も知らんけど、とにかく卍!」


俺はひたすら彼女を褒めちぎった。

しかし、彼女は魔法が使えるというので、さっきがれきで挟まった時に魔法を使えば何とかなったのではないだろうか。特にあの身体の強化魔法を使えば抜けられたかもしれないと思うのだが。


「思ったんだけどさぁ、魔法であの瓦礫とかどかせばよかったんじゃない? その強化魔法とかを使って」

「え、ああ……挟まっていた時も身体強化の魔法を使ったんだけど、抜けることはできなかったの。元の体力もあんまりないし……」

「なるほどねぇ、つまり足し算ではなく掛け算方式のバフだと」

「えーと、多分そう」


非力な少女に強化魔法をかけてもそこまで強くならないということだろう。考えてみれば、彼女も抜けるのに必死だっただろうし、俺が指摘するまでもなく魔法を使って抜けようとはしていたのだろう。


「物や人を持ち上げられる魔法もあるらしいけど、私にはちょっと……」

「へー。ほかにも色々な魔法があるんだなぁ……」


彼女が披露していない魔法以外にも様々な魔法があるのだろう。まだ見たことがない魔法も、いつか見ることができるのだろうか。

それにしても、この世界の魔法ってどうすればできるのだろうか。見た感じ、彼女は魔法名を言って魔法を出しているみたいだが、俺にも魔法を出すことができるのだろうか。というかできてほしい。召喚されてきたのだからきっとすごい魔力とか持っているのだろうと思うのだが。


「魔法を使えるようになるにはどうすればいいの? 俺にもできる?」


そこが重要である。今まで見ているだけだったのだが、俺が知っているラノベやアニメ、ゲームなんかだと、魔法を使えるようになるためには魔法書とかを見て覚えるだとか、ステータスウィンドウをひらいてポイントを振るだとか色々あるが、この世界ではどうなのだろうか。


「うーん、使えるかどうかはわからないけど、多分使えるんじゃないかなぁ……魔法を使えるようになるためには、魔法書を読んで、練習とかいっぱいして……いろいろ大変だよ」

「なるほど、ステータスを振る的な感じじゃないのか」

「すてーたすをふる……なにそれ?」

「すいませんこっちの話です、はい」


どうやらステータスウィンドとかを出してスキルとか魔法とかにレベル上昇で得たポイントを振るみたいな感じではないみたいだ。このままだと痛い奴だと認識されそうなので何とかごまかす。これはラノベの見すぎかもなと思ってしまった。


「まあ、魔法について少しだけ理解できたよ。この世界では魔法を唱えるには魔法名を言えばいいのか……」


なんかクッソ長い呪文を唱えるだとかすること必要はないみたいだ。そんなことだったら色々と面倒だしな。


「あ、いや別に呪文を唱えなくても魔法を出すことはできるよ」

「あ、そうなんすか」

「うん、今やってみるね……」


そういって、彼女は壁のほうへと右手を向けた。その後、手のほうから炎が出現し、さっきと同じように石の壁へと当たった。

ファイアとか何も言っていないが、炎が手から出ている。彼女の言う通り、呪文なしでも魔法を出すことはできるみたいだ。


「でも呪文を唱えてやった方がやりやすいし、魔力も安定するから基本的に声を出してやってるの」


確かに、さっきファイアといいながら出してた時のほうが炎が大きかった気がする。声を出しながらやるというのがスタンダードなのだろう。

俺はこの世界の魔法がどんなものなのか、少しだけ理解をした。


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