第23話 街とのさよなら
朝、圧倒的なまでな朝……は終わり、今は昼である。彼女の言った通り、今日でこの街を出ることになった。午前中はもう少し色々と探そうということになったが、結局収穫はなかった。
早めの昼食を終えると、荷物をかごに入れ、自転車で軽快に市街をぬけて、いよいよ街をでた。
辺りは市街の建物が並ぶところは終わり、この辺りは低木だとか草が一面生い茂っている。そして時折、翅の折れた風車や古びた建物が点々としている。どうやらこの辺りは昔は畑とかが広がっていたらしい。肝心の農地の方は草や木が生えまくっておりほとんど跡形もないが、それでも建物のおかげで農地であったということがわかる。
今は何も育てられていない農業地帯を、自転車は走り抜けた。
「……やっぱり思ったんだけどさ」
自転車をこぎながら、アンジェラへと質問を飛ばす。彼女の方を見ると、ボーっとしているのか、あるいは辺りの風景を見ているのか、そんな感じである。
「……ん、どうしたの?」
「わざわざ数日おきに移動しなくても、あそこの家とか役所とかを拠点にして住んだ方がいいんじゃない? 」
街を出るといった時から思ったのだが、そんなに頻繁に移動しなくても、どこかで定住していけばいいのではないだろうか。食料などの問題もあるかもしれないが、それでも数日おきに移動する必要はあんまりないはずだ。移動先に何があるのかわからないし、そちらの方が安全なのではないだろうか。
「うーん、確かに……」
自転車の後ろで、彼女は考える。
「でも、昔からこんな感じで色々と移動してたし。ずっとひとつの所に住んでいた時もあったけど……こうやっていろいろ動いてた方がいろいろと楽しかったから」
「そう。楽しい……ね」
どうやら彼女は小さいときからずっとこんな感じで移動していたみたいだ。確かに、こんな滅びた世界でずっと同じところにいるというのはかなり退屈だろう。退屈すぎて若年性認知症になるかもしれない。そう考えると、いろんなところを旅するというのは案外いいことなのかもしれない。
「じゃあ、これからいろんな所に行くことになるのか……なんか遊牧民みたいだな」
「ゆーぼくみん、て?」
「一つのところにずっと住むんじゃなくて、移動しながら住む人たちのことだよ」
遊牧民というよりも浮浪者という表現の方が正しいような気がするが、なんかそれはカッコ悪そうなので遊牧民とでも表現しておこう。あるいは旅人か。とにかく、これからいろいろなところに行くことになるみたいだが、そうなるとやはりこの街とは一生の別れということになるだろうか。
「……あー!」
「え、何々どうした!?」
突然アンジェラが大きな声を出した。何かあったのか、そう思ってブレーキをかけて自転車を止める。
「写真、撮ってもらってないや!」
「ああ……それか」
と、思ったらそんなことであった。いや彼女にとっては重要なことかもしれないが、そこまで大声を出すようなことなのだろうか。
「……じゃあ、今ここでとるか」
「うん、おねがーい」
昨日はフラッシュのせいでうまくとれなかったが。今は昼。逆光とかに気を付けさえすれば問題なくとれるはずだ。
彼女は自転車から降りると昨日と同じようにピースポーズをとる。俺はチャリをスタンドで止めるとちょっと距離を取り、彼女の写真を撮ろうとする。
「じゃあ撮りまーす……はい、チーズ」
「はーい……ちーず、てのは?」
「あぁ、食べ物のこと、だけど……なんで写真撮る時チーズって言ってるんでしょう……」
俺はこの答えを全く知らない。こんな時、ネットがあればグーグルとかでチーズの由来とかを調べられるのだが、異世界なのでそんなことはできない。やはりグーグル先生は偉大である。
「……まあ、知らないんで永遠の謎ですな。それよりも写真、こんなものでどうっすか?」
理由を知らない以上これ以上話を広げられないので、この話は置いといて彼女に写真を見てもらうことにした。
写真の彼女は特に目を閉じてしまったり、撮った瞬間に魂が抜けるなんてこともないみたいだ。笑顔を浮かべながらピースポーズをとっている。背景には恐らく元農地と思われる草原と、羽が折れてシダが生えている風車が映っている。これがいい味を出している気がしなくもないかもしれない。
「いいんじゃないかなぁ? えへへー、かわいいなぁ」
「いやまぁ否定はしないけど、自分のことをかわいいっていうのはどうなの」
「えー別にいいじゃん」
「まあ……いいか、じゃあ後ろのって……いや」
そんなこんなで彼女の写真は撮り終えたので、再び自転車に乗ろうとするが、その動作を止める。
「せっかくだし、街の写真も撮っておくか……」
街の写真といってもこの位置からだと微妙に景色が悪いが、それでもこの街に来ていた、という証を残せれば十分だ。3割ぐらい雲がある空の下、古くなり、シダが多く生い茂っている建物が地面にそびえたっている写真を収めた。
この写真が、この街に来ていたという証になるだろう。
「じゃあ、また走りますんで後ろに乗って下せえ」
「はーい」
再び彼女を後ろの荷台に乗せると、ペダルを踏む。自転車は再び速度をだし、街から離れていった。
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少し更新が遅れてすいません。ネタが欲しい……
感想、評価等していただけると嬉しいです。
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