第14話 食後のひと時

「ごちそーさまでした……やっぱり昨日の麺の方がおいしかったなぁ」

「うーん、やっぱり? 私もあんまり好きな味じゃないや」


さっきまで食べていた朝食は昨日見つけた瓶詰だったが、中身は塩漬けされたお肉みたいなやつだった。正直言ってかなりしょっぱかった。不味いわけではないのだが、まさしく保存食と形容すべき味だった。口の中をすっかりとぬるくなってしまったお茶で口直しをする。そういえば昨日この子にお茶を飲ませていたから間接キスになってしまうかもしれないが、まぁ、気にしないで行こう。


「はぁー。牛丼食いてぇ」


異世界に来て24時間もたたないうちに、日本食が恋しくなってしまったが、異世界に、それもこんな滅びた世界に来てしまった以上愚痴っていてもしょうがない。異世界ライフはまだまだ続くのだ。


「その、ぎゅーどんってなに?」

「牛肉をのせたどんぶり……うーん、牛っていうのは動物の一種で、あー……とにかくうまい食べ物!」


説明するのも面倒なのでうまいということだけを伝える。この情報だけあれば十分だろう。


「へー……よくわからないけど、おいしいんだったら食べてみたいなー」

「いやーそれはちょっと……」


この世界で牛丼(に限らず大半の食べ物)を食べれるとは思えなかった。そもそも牛がこの世界に存在するのかすらわからない。たとえ存在したとしてももう絶滅しているのではないか……

ここで、新たな疑問が生まれた。牛に限らず、なんか他の生き物は今も存在するのだろうか。

そういえば、この世界に来てから一度も、アンジェラと植物以外の生き物に見かけていない気がする。そこらかしこに木やらシダやら花やら草やらが生えていたりするのだが、動物を見かけることはなかった。


「……ねぇ、人間はいなくてもなんか他の動物はいたりしないの?」

「うーん、いや……今まで見たことあるのは数人の人だけ。動物とかは見たことないかなぁ……」

「へー……」


どうやら人間のみならず、動物たちも軒並み絶滅してしまったみたいだ。いや、アンジェラの話を聞く限り人間とかはわずかに生き残っているっぽいので絶滅ではないのだろうが、それでも風前の灯火状態だろう。

代わりに、植物なんかはかなり生い茂っているみたいだ。至る所にシダなんかがあるし、木や草なんかもかなりある。この世界は植物天国とでもいうべきだろうか。

俺はそれに少し疑問を抱いた。アンジェラは戦争で滅んだといっていたが、それならもっとめちゃくちゃになったりとかしていないだろうか。ここだけなのかもしれないといえばそれまでだが、建物もボロボロになったりシダに覆われていたりはするが、爆弾が落ちただとか街での戦闘で建物が崩れただとか、そのような感じは一切しなかった。そんな状況なら動物とかは絶滅せずにいると思うのだが……

核戦争みたいなことが起きて、核の冬が来たとかなら動物が滅びたのも納得だが、それならそれで動物は軒並み絶滅して植物は無事というのはちょっとおかしくないだろうか。

もしかしたら、戦争以外に何か滅んだ理由があるのだろうか。毒ガス的な何かで動物が死んだとか? でも植物は見た感じ無事みたいだし……いや、50年たったのなら、そこらに生い茂ることもありうるのか? それに、魔法とかで動物だけ殺すみたいなやつがあるのかもしれないし。

色々と考えたところで答えはわからなかった。まあ、あまりにも情報が少ないので、しょうがないといえばしょうがない。後々色々と分かった時に考えればいいだろう。


「あ、でも……」

「……ん、どしたの」

「一度だけ動物を見たことある。すっごくおっきくて、空を飛んでいた生き物。お父さんはドラゴンっていう生き物だって……」

「そうなんだ。ドラゴンか……やっぱファンタジーやなぁ……」


そのドラゴンは戦争の魔の手から生き延びたのだろうか。それとも戦争後に生まれたのか。

ドラゴンといったらやっぱ滅茶苦茶強かったりするのだろうか。それなら、戦争から生き延びていても不思議ではないのかもしれない。


「お父さんも私も見つけたときはすごいびっくりして、あの時はドラゴンに見つからなかったんだけど……」

「見つかったら襲われるとか?」


俺の予想に対し、彼女はこくりとうなずいた。


「お父さんが、見つかっていたらどうなっていたかわからなかったって……」

「へぇー」


やっぱりドラゴンは恐ろしい生き物なのだろう。ちょっと見てみたい気もするが、死んでしまっては元も子もない。でもやっぱり見てみたいので死なない程度になんか頑張って見てみたいと俺は思った。


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