第15話 街の探索

朝食も食べ終わったので、野営の片づけを始める。といってもそんなに大したことはしない。布団や鍋といった出したものをしまうくらいだ。

アンジェラによると、缶詰や瓶詰の容器はそのままにしているそうだ。この世界ならごみ箱にいれても外に置いていても変わんないだろうし。ゴミをゴミ箱に入れずにそのままにしておいとくのに罪悪感を感じなくもないが、ゴミ処理とかもまず機能していないだろうし、まあ、いいだろう。

一応の片づけを終えると、昨日に引き続き町の探索を再開した。街を探索、といっても建物に片っ端から入るわけではない。道路から建物を見て、この建物には何かありそうだと思ったら入るといった感じだ。

恐らく幅が6m以上はあるであろう通りを、自転車を押し、辺りを見渡しながら進んでいく。あたりには3階建てや4階建て、たまに5、6階建ての建物が軒を連ねていた。どうやらこの街は最初に思っていたよりも大きな街みたいだ。もしかしたら数万人程度は住んでいたのかもしれない。

この辺りは民家らしき建物はほとんどなく、代わりに何かを売っていそうな感じの建物が多かった。ところどころ看板みたいなものもある。シダに覆われていたりぼろぼろになっていたりで文字は読めなかったが、形はなんとなく伝わる。

いくつかの看板の中から、1つの看板が目に留まった。


「これは……なんか食パンみたいだな」


山型の食パンみたいな看板が建物から突き出るような形でそこにあった。建物は他と同じように朽ち果てていたが、それでもここはパン屋だ、といわれればそのような気がしなくもない。


「うーん、なんとなくパン屋っぽいんだよなぁ……パンって知っている?」

「パンなら食べたことがあるよ。カチカチであんまりおいしくなかったけど……」


どうやら異世界にもパンはあるみたいだ。それどころかパンを食べたこともあるみたいだ。数十年前に作られたパンがどんな味なのかはわからないが。


「いやぁ、出来立てのパンは結構おいしいよ。ふわふわだったり、香りが良かったり。カチカチのパンもあるけど、そっちもうまいよ」


硬いパンと言われたらおフランスなパンくらいしか思い浮かばないが、多分俺が思っているのとこの子が思っているパンは全然違うものなのだろう。確かに、数十年前に作られたパンがおいしいものだとは思えなかった。


「ふーん、本当にそうなら食べてみたいなぁ」

「ごめん、それも牛丼と同じで無理だと思う……」

「えー、残念」


パンがどのようにして作られるかとかは一応知っているが、細かい作り方は知らないし、小麦がなければイースト菌やオーブンもない。作り立てを食べれることは多分無理だろう。

考えてみると、この異世界での食事事情はかなりわびしいものだ。加工食品などは50年以上前のものを使わざるを得ないし、動物も絶滅しているっぽいので缶詰や瓶詰以外では食べることはできない……

食事にこだわりがある方ではないが、それでもこの異世界の食事情を考えると少しばかり憂鬱である。なんか食べ物の話題は考えれば考えるほど嫌な気持ちになりそうだ、あまり深くは掘り下げないようにしとこう。


「まあしょうがないよ……なんか、ここら辺は食品関係の店が多いのかな」


このあたりの看板を見るに、なんかおいしそうな感じのやつが多く感じる。看板だけでなく、建物の方もなんとなくレストランとか食べ物の販売店みたく感じる。どうやらこの通りには飲食関係の店が多く存在したみたいだ。


「それだったら食べ物とかいっぱいある?」

「どうだろうなぁ……缶や瓶に入れて保存している食品が見つかるかも」

「じゃあここら辺どんどん探していこうよ」

「そうだね、ジャンジャン探していくか」


食料を探すのは一番重要である。とりあえず、建物の探索を手当たり次第進めていくことにした。





「うーん、ほとんど食べ物とかはないみたいだなぁ……」


ここの通りの建物を一軒一軒中に入って探したりしたが、収穫はあまりなかった。ここら辺に保存食を取り扱う店はなさそうだったので最初から期待はしていなかったが、それでも思っていた以上に食べ物などを見つけることはできなかった。缶詰などはどこの店も使っていなかったのか、あるいは先駆者がいたのか。一応、昨日の夜食べた麺と同じ奴を見つけることはできたが、それだけである。


「結構探したんだけどなぁ、残念だな……」

「まあ、そんなこともあるよ。私もこんなことあったし」

「そうだよねぇ……あんまり気にせずにいくか」


そんな慰められるほど落ち込んでいるわけではないが、ありがたく慰めてもらう。彼女の言う通りそんなこともあるだろう。天気は常に晴れているわけではないのだ。

気を取り直して探索を続けようと思い、建物の外へと出る。


「……あれ、あ、ここで通りは終わりか」

「そうだけど、見てなかったの?」

「いや全然見てなかったわ」


全く見ていなかったが、ここで建物が軒を連ねるエリアは終わりを迎えたみたいだった。

代わりに、建物がない平坦なエリアが先にあった。どうやらここから先は広場みたいだ。


「ここいらは広場みたいだな……結構広いなぁ」


止めていたチャリを再び押しながら、辺りを見た感想を素直に述べた。

この広場の周辺は草木はあまりなく、石畳の広い空間が広がっていた。街頭もいくつかあるみたいで、切れてしまった電線がいくつもあった。他にもベンチみたいなのもあったが、恐らく俺が座った瞬間に壊れそうな程度にはボロくなっている。

その広場の中で一番目に付くのは、中央にある噴水だろうか。水はもう出ていないが、その噴水の中央にある女神みたいな石像は少しぼろくなってこそはいるが、シダなどに覆われないまま一応の美しさを保っていた。

そして、ここからもう一つ目に付くものがあった。


「ねえねぇ、あそこにおっきな建物があるよ」

「ああ、確かに他の建物よりも大きいよね……何の建物なんだろう」


自転車を押しながらその建物へと近づいていく。石造と思ったが、おそらくコンクリート製の建物だ。結構な大きさで、ぱっと見公共に使われている何らかの施設なのではないかと感じる。建物の中心上方には大きな時計のようなものもある。もしここが市役所みたいな役場だったのであれば、この広場は市民の憩いの場だったのかもしれない。

その建物へともう少し近づいてみる。3階建ての灰色の建物は、シダに覆われていなければもう少し立派に見えただろう。


「うーん、なんか役所っぽいな……」

「周りの建物と全然違うね」


アンジェラが目の前でその建物を見た感想を率直に述べた。確かに、周りにあるほかの建物とは一線を画している。シダに覆われている点は変わらないが、その建材や建物の構造から今まで見てきた建物よりかは新しく感じる。


「とりあえず、中に入りますかな」


自転車を止め律義に鍵をかけると、恐らくこのあたりで一番大きな建物へと入ることになった。



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