第9話 道中にて

今回は結構短めです。

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「うー、坂道きつい……」


自転車をこぎ始めて20分ぐらいは経っただろうか。先ほどまで平坦な道が続いていたのだが、今は坂道を上っている途中だった。

フリーパワーの自転車は普通の電動自転車とは違い、坂道ではあまり力を発揮できない。それなのにさっきから斜面が続いている上に、勾配がだんだんきつくなっている。

しかし、ここで止まってしまうのはなんだかかっこ悪い。足の疲れのせいでだんだん速度が落ちてきていたが、それでも足を止めるつもりはなかった。


「だ、大丈夫? 少し休んだ方が……」


ちょっと無理をしていることが彼女にも伝わっているみたいだ。少し心配してくれている。


「いや、ここで折れるつもりはない、頑張る!」

「そう……あ、そうだ。じゃあちょっと待って……」


彼女は俺の言葉を聞くと、何かを思い出したかのようなことをいった。何をするのかと思うと。


「シュタルク!」


そう魔法を唱えた。屋敷でもやっていた強化魔法だ。どうやら俺にかけてくれたみたいで、全身から力が湧き出てくる感じがした。さっきまで重く感じていたペダルが軽く感じる。

すごい、さっきと全然違う。


「うぉ、すごい軽くなった……!」

「もっと早くやっとけばよかったね」

「まあまあ、気にする必要ないよ。一気に速度上げるぞ!」


一気にたちこぎをして加速しようと思ったが、この子が俺の背中をつかんでいるので座ったまま力を入れ続ける。

上り坂だがぐんぐんと加速し続ける。ギアを1から2へ、2から3へと上げる。そのころには、傾斜は緩やかに変わりつつあった。


「よし、こっからは下り坂かぁ」


峠は越えた。あとはしばらく坂道を下ればいい。ペダルをこぐ必要はなさそうだ。

坂道は自転車はペダルをこがなくとも加速し続けた。なかなかいい。だがあまり加速しすぎるのは少し怖いので適時ブレーキをかけたりする。


「……ユウト、あれ見て」


速度が上がり続けている中、後ろに抱き着いている彼女がそういった。

あれといわれても、いったいどの方向を見ればいいのか。


「え、何々どうしたの? どの方向見ればいいの?」

「あの先、街がある」

「街?……ホントだ」


俺の視力は0.9と特別いいわけではないが、速度を少し落として左手を目の上にかざし、目を凝らすと確かに多くの建物があるのが見えた。

街だ。恐らく街だったものだろうが、それでも人工的な建物が数多く存在するというのはなんとなく安心感を感じた。


「とりあえずあそこの街によっていこうよ」

「りょーかい」


あそこに一体何があるのだろうか。俺は少しの不安と大きな期待を胸に進み続けた。


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