第34話 見つけた物
「……なんもねぇ」
探してみること数分。この部屋に特にめぼしいものはなかった。
ベッドの下に令和18年な本もなければ棚の裏の隠し通路もない。王族の部屋なのだからなんかすごそうな仕掛けとかがないかと思ったのに、特にめぼしいものもなかった。棚や机の中も見たが、どうも中にあったものはほとんど持ち去られているらしく、特記すべきものは何もなかった。
「あと探してないのは……この棚か」
いよいよ探すところもなくなり、最後の棚を調べることになった。ここで隠し通路とかみつからないかなー、と思いながら、棚をガチャリと開ける。
「……うおっと!」
開けたとたん、棚の中の物がザザザ、と崩れてきた。俺は反射的にバックステップをし、雪崩を見事回避……したのだが、その後、勢い余ってそのまま倒れてしまった。
「うぉっち!」
「だ、大丈夫?」
「……だいじょぶだいじょぶ」
と言ってはいるが、実際は結構いたい。ビルから落ちた痛みはほとんど消えたと思ったのだが、その痛みが少しジワリと感じられる。
しかも雪崩が起きたといっても実際はそこまで物は落ちていないみたいで、これならそのまま動かなくてもなんともなかっただろう。それなのにバックステップして盛大に転んでしまった。普通に恥ずかしい。
まあ、過ぎたことをグダグダ言ってもしょうがない。痛みを少し覚えながらも立ち上がり、俺は何が落ちてきたのかを調べることにした。何かの箱やハサミ、爪切りみたいな小物などがあるが、そのいくつかのものの一番上にあったものに俺は注目した。そこにあったのは楽器だった。
「これは……なんかギターっぽいな」
俺にとってまあまあ見慣れていた物であるアコースティックギター(ぽいもの)が、そこにあった。
古めかしい木のボディに、金属製の弦が使われている。今使ったらすぐ弦が切れるかもなと思ったが、弦やボディに触ってみた感じ案外丈夫そうだった。これは当然50年以上前に製造されたものだと思うが、古めかしくは感じるが特に壊れていたりとかはしていなさそうだった。素材がいいのか、保存状態が良かったのか。恐らく両方だろうが。
「これは何に使うの?」
「楽器って言って、いろんな音が出る道具だよ。これは多分ギターっていうやつ」
大きさもそんな感じだし、触ってみた感じもアコギそのものである。弦も6本だし、フレットの数も多分同じか、ほとんど変わらない。これならいつもの感じで弾けそうだ。
「古そうだし音ちゃんと出るかな……」
とはいえ、楽器も音が出なければただの置物だ。ギターを弾く体勢をとると、とりあえず適当に一音ずつ音程を上げて弾いてみる。ギターから出たしっかりとした音が周囲に響きわたる。弾いている途中でぶつりと弦が切れるということもなく、音程も特に不自然なところはなさそうだ。
「特に音程はずれたりしてないし……うん、大丈夫だ」
どうも思っていた以上に状態がいいみたいで、演奏も難なくこなせそうな感じだった。
「へぇー、ちょっと貸してー」
「ああ、どうぞ」
彼女はこれまでの人生で一度も楽器に触ったことがないのだろうか。恐らく始めてみるであろう楽器に対して、興味深々な様子だった。
「うわぁ……なんか面白いね、これ」
「あーそういう持ち方じゃないよ」
彼女は弦をはじき音を出して楽しんでいるが、子供が初めて楽器に触れるかのような感じで、乱暴な感じで持っていたので、俺が持ち方を教える。まあ、実際そうなのだろうが。俺も最初にギターに触った時はこんな持ち方したし。
とはいえ、俺も今やそれなりの演奏ができる
「左手でここ持って、右手でこう持つの」
「へぇー。こうもって音を出していくんだね……」
彼女は俺が教えた通りの持ち方をし、再び音を出し始めた。といってもさっきと同じくただ弦をはじいて音を出しているだけである。それでも楽しそうである。その彼女の様子を見て、せっかくなので何か弾いて聞かせてみたい、という思いが込み上げてきた。
「ちょっと貸してみて、なんか演奏したりできるかも」
「いいけど……えんそうって?」
「演奏は、楽器で音を出して、メロディーを奏でる……あ、メロディーってのは……まあ、聞いた方が早いかな」
百聞は一見にしかず。これは見るのではなくて聞くのだけど、同じようなものだろう。メロディーとか音楽とか歌とかを口で説明するより、聞かせた方が早いはずだ。
「ふーん……ユウトはえんそうとかできるの?」
「できますできます。モテたくてギター一杯練習とかしたし……でも、ギターやったらモテると思ったけど、そんなことなかったという苦い思い出が……」
浅はかな理由でギターの練習したり軽音楽部に入ったりしたのだが、ギターをやるとモテるのではなくモテている奴がギターをしているというのに気が付いたのはだいぶ後である。まあギター弾くの楽しいからいいんだけどね……
「まあとにかく弾くか。じゃあ……せっかくだしさっきの間の所で弾くか」
ここで弾いてもいいのだが、せっかくだったらさっきの王様とかが居そうな間でやったほうが雰囲気出るかもしれない。というわけで、このギターを持ってさっそくさっきの部屋へと移動することにした。
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