第21話 最後の部屋②
「ふーん。これがこの街の地図か……」
部屋の中央にある机を見てみると、机一面に広げられている地図があった。どうやらこれがこの街の地図みたいだった。
地図には道路や、恐らく市街地だとか畑だとか森林だとかを表す色分け以外にも、地図記号みたいに何かの建物を表しているであろうマークがあった。そのマークのうちいくつかにはバツ印が書かれている。そして、その地図の上に置くようにいくつかの紙の束があった。
「空襲に備えた行政機関の基本行動指針、こっちは……非常事態宣言に伴う外出制限について。これは、医療機関の機能不全とそれに伴う緊急対応策……なんか物騒やな」
非常事態の時に使われたものだということがひしひしと伝わってくる。これらは50年前の戦争のときに使われたものだろう。劣化が激しいが、それでもずっと地下においてあったからか、十分読める。中をさっと読むが、タイトル通りの内容が書かれている。
「やっぱこの部屋は戦争の時に使われていた部屋なのか……」
どうやら隠し扉があったのは市長が私腹を肥やしていたからではなく、地下にある秘密の指揮室につながっているからみたいだ。というわけでお宝とかはなさそうである。
と、そう思いながら動いていると足で何かを蹴ってしまった。その後骨が何かにぶつかったみたいな音も聞こえた。骸骨を蹴ってしまったか、と思ったがどうやら違うみたいで、下に落ちていた小さな本みたいなのを蹴って、骸骨にぶつかってしまったみたいだ。その小さな本を拾い表紙を見てみると、『アレン』と手書きで書かれていた。
どうやらこれは本というよりメモ帳といった方が正しいのかもしれない。ページをめくってみると、そこには色々と書かれているみたいだ。他と変わらずページが劣化しているが、読むことはできそうだ。
「それって何なの?」
「ここにいた人が書いたメモ……というか、日記……まあ、50年ぐらい前に書かれたものでしょ」
これを書いた人はこの部屋の骸骨の中にいるのだろうか。それを確かめるすべはないが、多分そうだろう。ひとまず、このメモを読んでみることにした。
『今日からこの施設の運用開始をすることになった。自由帝国との開戦から既に3年は経っている。この街は国境から離れてはいるが、我々も油断することはできない。対爆性は十分だが、それが活躍する機会がないことを願っている』
『街の上を爆撃機が飛んでいった。自由帝国の爆撃機だ。幸いにもうちの街は被害はなかったが、あれが飛んでいった方向は首都がある方だ。いつかうちの街にも爆弾落ちてくるのだろうか……』
『前線が崩壊したとの情報をラジオから入手した。とても大規模な爆発が発生し、部隊が壊滅状態に陥ったらしい。前線は今どうなっているのだろうか』
『戦争が始まって3年以上たっているのにも関わらず、戦争は激しさを増しているみたいだ。今日も(文字がかすれていて読めない)ニュースが入ってきた。戦争が終わるのがいつになるのか……』
と、ここまで読み次のページをめくるが、そこには何も書いてなかった。
「これでおしまい?……っと、こっちが続きかな?」
次のページが白紙だったので終わったのかと思ったが、何ページか飛ばしたあたりに続きがあるみたいだ。
『市民の多くが病気になり始めた。いよいよというべきか、ここにも魔の手が迫ってきたみたいだ。今日から出入り口を閉鎖して何とかしようとしているみたいだが、果たしてそれが通用するのだろうか』
『医療機関の機能が停止し始めたとの報告が入ってきた。その理由は一般市民のみならず、医師や看護師たちも同様に被害を受けているからだ。彼らだけではない。私たちの一部にも症状が出ている者がいる。地下にいたとしても、それの脅威に対して安全というわけではないみたいだ。ここの整備に少なくない額の資金がかかっているというのに、一体(文字がかすれていて読めない)』
『ほぼ全ての行政機能が停止した。我々ももうダメかもしれない』
「……これで……終わりか」
ページを最後までパラパラとめくったが、これ以上は何も書いていないみたいだ。今度こそここでおしまいのようだ。
内容を見る限り、この手記は戦争の時に書かれたもので間違いないみたいだ。
症状が出てどうのこうのと書いてあるのだから、もしかして毒ガス攻撃みたいなのを受けたのだろうか。WW1の時は毒ガスが大量に使われていたみたいだし、そうなのかもしれない。
「……そういえば、ユウトが言っていたお宝は結局どこにあるの?」
「お宝……まあ、これがお宝といえばお宝なのかな。歴史的価値とかはありそうだし」
「えー、なんか思ってたのと違う……」
「まあまあ」
滅んでいく中の生存者の手記だなんて、なかなか歴史的価値があるのではないだろうか。最も、それを欲しがるであろう歴史学者とかは存在しないわけだが……
この地下室も、戦前はどのようなことに使われ、そこにいた人が何を思っていたのか。それをわずかでも垣間見ることができたのは、少し貴重なことなのではと思った。
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