宇宙を越えて

翔鵜

第1話 変な男子

 私が宇宙好きになったのは必然的で、私の故郷が田舎町で、唯一の自慢が図書館に併設するプラネタリウムだったからだ。

 両親が共働きの私は放課後児童クラブというのに入っていて、施設は図書館と同じ建物内にあった。建物には他に郷土館や喫茶店、外には芝生広場や小川があり、宿題を済ませてしまえばどこで遊んでも良しの恵まれた環境だった。

可鈴かりんちゃん鬼ごっこしようよ」

「図書館に行くからごめんね」

私は物静かな子供で、友達と遊ぶよりも星や人工衛星の本を読んで空想するのが好きだった。科学雑誌の発行日には必ず図書館に行き、上映スケジュールに合わせてプラネタリウムに足を運んだ。母親が残業で迎えが遅い日は芝生で星を待ち、館長の姿を見かけると鍵を開けてもらって屋上にのぼった。


 そのまま中、高と地元の公立校に進学した私は、相変わらずの天文馬鹿で、マニアックだと評判の町の天文サークルに入会した。

「可鈴、今日はスマホ持参な」

サークル仲間で同級生の渡瀬晃わたせあきらが言った。大きな体に黒縁の眼鏡をかけていて、一見迫力があるが、朗らかな性格で気の合う友人の一人である。定例活動で女性を見かけたことは無かったが、晃のように優しい人ばかりで私には居心地の良い空間だった。


 吐く息が白い。見上げると星が瞬いている。今宵は月が良く見えそうだ。


 私はプラネタリウムのある二階の奥の階段を上り、天体観測室のドアを開けた。直径6mのドーム内に納められているカセグレン式反射望遠鏡の前には、週末ごとに開催される星見会の参加者が並んでいる。誰でも無料で参加出来るので夏休みは子供でいっぱいになるが、冬場は寒いせいか、今夜は8名程である。

 私は鞄からスマートフォンを取り出すと最後尾に並び、コレクションの1枚を撮影した。望遠鏡のレンズにスマホのレンズを近づけて撮影すると、月のクレーターも写すことが出来る。

「それ……カメラなの?」

画像を見てにやけていると、知らない男子が話しかけてきた。

「はい。普通のスマホでも望遠鏡にたら、窪みまで写せますよ」

「スマホ?」

「はい。まだ時間内だから、写してくると良いですよ」

「持ってないし」

「そうですか」

外見は同い年くらいに見えるから、きっと家に忘れてきたんだろう。

「星見会はちょくちょくあるから、また晴れるチャンスはあると思いますよ」


 微笑みかけたが彼は不思議そうな顔で、もう一度「スマホ?」と呟いた。見た目はカッコいいけど、ちょっと変な子かも知れない。狭い階段の後ろをゆくとおもむろに踊り場で立ち止まり、ポケットから万歩計のような物を取り出して首をかしげている。追い越そうとすると急に彼は「くそっ」と言って、その四角い物を振り回し始めた。

 変な子だ。離れよう……。


 それからトイレに寄って、21時の終了時間を待ってからエレベーターで1階まで降りたが、まだあの男子がロビーにいた。緑色の手袋をはめて、肩から小豆色のメッセンジャーバッグを掛けている。仕方なく端を通りすぎようとすると、彼は私に気付いて話しかけてきた。

「ねえ君」

「はい」

すこし身構える。軽そうな子だし、誘われたらどうしよう。

「今は2015年なの? 違うよね?」

「2015年ですよ」

年が明けたばかりだし、年賀状にたくさん書いたから間違いない。すると彼は柱のカレンダーを見て、それからもう一度こちらを向いた。

「本当に2015年?」













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る