『千歳』

作者 にのまえ あきら

270

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★★★ Excellent!!!

音を聞き続けると死ぬ世界。

人々はプロテクターと呼ばれる耳栓をつけ、ハンドサインを用いたコミュニケーションをしながら生活していた。

そんな中、エネルギー供給施設〈千歳(ちとせ)〉の臨界が近づき、周辺住民の避難が始まろうとしていた。

人々が去っていく中、ある一人の少年だけが真逆の行動を取っていた。

彼は〈千歳〉の近くで、音を奏でる謎の少女の元へ赴いていた。

目的は、彼女の音に包まれながら“自殺”すること。

それはこの世界で最も美しい”自殺”だった……。



以上が本作のあらすじですが、どうです? これだけで読んでみたくなりませんか?

人間を死に至らしめる音、謎に満ちた施設〈千歳〉、その傍でピアノのような筐体を奏でる少女……。

何もかもが謎めいていて、今すぐにでも本文をクリックしてみたくなるではありませんか!


もちろん、『千歳』の魅力はミステリアスな作風だけではありません。

本作は音を聞き続けるだけで死ぬという、普通なら殺伐としていそうな世界の物語です。実際主人公である「僕」の目的も、その音によって自殺を図るという鬱屈としたものであり、知らない人からすれば本作は悲劇ものと思われるかもしれません。

しかしその実、『千歳』はれっきとしたラブストーリーであり、人間の生命賛歌でもあるのです。

抒情的な文体で描かれる死の音の世界は美しく、そこで繰り広げられる少年と少女の淡い恋もやはり美しく、そして温かい。

彼女が音を奏でる理由。彼女の傍にいるのが「僕」でなくてはならない理由。

すべてに切ない必然性があり、だからこそ、ラストシーンの「僕」の決断に胸打たれるのです。


死を描くということは、逆説的に「生」を描くこと。

死の音に満ちた世界で、少年が見つけた「生」とは何だったのか?

すべての結末は、どうかあなた自身でお確かめください。

★★★ Excellent!!!

音が聴けば死ぬという極端な世界のキャッチ―さと、読み進めれば進むほど明らかにされていく謎が読者をわくわくさせて飽きさせない。

さらにわかりそうでわからない登場人物の会話がより読者を引き込む。

そして、fin.という文字を見たとき、何とも言えない読後感に、その世界をもっと理解したくて、冒頭に戻ってしまう。伏線を確認したくなり、一行一行を一度目よりも注意深く追ってしまう。そうしてまた冒頭に戻ってくる。fin.がループボタンの役割を担っている。

まさに聴けば聴くほど好きになっていく音楽のような、再可読性を持った小説でした。

★★★ Excellent!!!

セカイ系の恋愛ストーリーが好きな身としてとても楽しませていただきました。
やはりカクヨムのSFは魅力的だなぁと感じさせる佳作でした。
冒頭からオリジナリティあふれる世界観が展開し、ヒロインとの繊細で詩的な「実験」が行われます。
崩壊していく世界の中で、果たして主人公は生き延びることができるのか。
最後に迎えるエンディングまで目が離せない一作です。

★★★ Excellent!!!

SFとしても、人間ドラマとしても、あるいはファンタジーとしても、すごく綺麗に完成された物語でした。

特長を書くとすれば、まず世界観が魅力的です。
音をしばらく聴き続けると死んでしまう、人間たちの謎。
現代日本に似た街の中にそびえる、中世の城のような不思議な施設。
それを制御しているのは、丘の上の広場のピアノ。
そんな謎とロマンに溢れたSF都市が、このお話の舞台です。

さて物語は、そんな都市である少年が出会った、ピアノ弾きの少女を軸に進んでゆきます。
かれら二人の美しく、またどこか退廃的な感じもする或る計画は、しかし、意外な結末を迎えます。

長々と描いてしまいましたがともかく、
世界観、物語の構成と意外性、文章の巧みさ、そして登場人物たちの清々しさと、どれをとっても素晴らしい物語でした。

SF好きな方にも、苦手な方にも…… というよりは、物語が好きな方みんなにおすすめしたい作品です。

ぜひぜひ、ご一読ください!

★★★ Excellent!!!

個人的に静かな部屋で読むことをお勧めします。
作中の人々のように耳栓をするのもいいかもしれません。
とにかく、静かな状態で読んで欲しいのです。
そんな状態で話を読み進めると、音が聴こえてくるはずです。
楽しげな音やどこか物悲しい音、懐かしいような音や恋しい音、音、音。

ふと、顔を画面からあげると音はしません。
しかし、この話を読んでいる間確かに音を聴くのです。
音は連なり音楽になります。
最初聞いたときは何気ないと思っていた音に思わぬ響きが隠されている驚き、悲しいとさえ感じた音の転調、そして最後、残響の美しさ。

この話は間違いなく一つの見事な音楽であり、それを奏する美しい楽器です。

なんて、少しキザな喩えだったでしょうか?
でも、本当にとても素晴らしい作品でした。
お勧めです。

★★★ Excellent!!!

静寂な世界。成長するにつれ、いわば『聴覚喪失』してしまう人類は、音を聴くことを辞めてしまうのでした──。

SFとして非常に興味の惹かれる設定。
音を聴くことで自壊する脳に変異した人間が奏でる音楽とはすなわち死への旅であり、本文中の表現を借りるなら「世界一美しい自殺」ともいえる。

そんな中で紐解かれてゆく物語の結末を、ぜひ確かめていただきたい一作でした。

★★★ Excellent!!!

『人類は音を聞くことができない』

物語の最初から、ちょっとした違和感があった。まるで、何かを試されているような。

五感のうちの一つである聴覚を奪われた人類。冒頭の言葉を借りれば、『147秒以上音を聞き続けると脳が自壊する』のだそうだ。音はある。だが、聴き続けられない。まるで牢獄のような世界だ。

自分にとって、音は本と同じくらい欠かせない。想像してほしい。音がなければ、髭男の曲で一回りも歳の違う女の子と会話なんて出来ない。嵐の256曲デジタル配信開始で賑わうジャニーズ好きの女子と触れ合う事もできない。そんな話はさておき、生活の中で音に触れない時はない。心を落ち着ける為に、あるいは集中するために音楽を聴くことは日常茶飯事だ。

さて。音と交われない世界で、主人公はひとりの女の子と出会い、物語は展開する。

ちょっとした違和感、と書いたが、物語の進行と共に少しずつ積み上げられる。そして、おそらく読んで頂いた多くの読者が感じるであろうその違和感は、物語の最後の章で、実に美しく解消される。

違和感は、この物語の旋律のひとつだった。全ては、千歳という作品の楽譜に書かれた、仕組まれた物だった。

『悠久という名を冠していても、実際には永遠じゃない』

聴覚を奪われた世界にも、終わりは訪れる。終わりに向かう女の子と主人公。その先にある運命に立ち向かう二人の言葉に、是非注目してほしい。二人の奏でる恋の言葉は、きっとあなたの心に響くはず。

(作者様、素敵な作品をありがとうございました)

★★★ Excellent!!!

 音を聞けなくなった人類。
 どこまでも透明で静謐な世界。
 
 147秒の演奏が終わると共に緻密で美しい伏線が回収され、ぴたりと全てが噛み合った時、彼らの物語は終わり、そして始まるのだ。

 遺志、否、意志を貫き、愛に従い、音を奏でて、不敵な笑みで街を壊した、そんな彼らの『世界一美しい自殺』──是非とも、御一読あれ。

★★★ Excellent!!!

147秒以上、音を聴き続けると死んでしまう世界。その中で少年と少女がピアノを媒介にして紡がれる青春小説。

私達の周りに普遍的に存在する音を題材に、もしも?の世界を構築した新しさ。独特の感性を持った二人のやり取りと、自殺願望とも取れる挑戦を突き進む行動は、透明感のある文章の中で悲惨さをまるで感じない。

そして、読者の予想を裏切る展開と、SF要素をガッチリ押さえたラストは、とても満足度が高かった。

★★★ Excellent!!!

他のレビューでこの作品の素晴らしいとこは
言われているので、個人的に感じたことを
言います。

この作品は所々に散りばめられたピースを
最後の最後で綺麗に組み合わせてくる、
いわばパズルのような作品です。
色んな形をしたピースがひとつになったと
感じた時はものすごい鳥肌がたちました。

これは一読の価値、断然大ありです!!

★★★ Excellent!!!

147秒音を聞き続けると、脳が自壊する。
対策の為にプロテクターを着用し、人類が五感の1つを活用できなくなった世界。
さらには、エネルギー生産設備の臨界を迎え、最悪の事態に備えているタイミング。
そんな最後の日に、約束を交わした彼女と、ピアノの弾く話。
静謐な世界で奏でられる演奏は、震えていようと、極上のものだったでしょう。
あらすじに曰く、「世界一美しい自殺」。
その謳い文句に偽りは無く、音が、読んでいるこちらにまで響くようでした。

★★★ Excellent!!!

五感を失う事の恐ろしさ。実感は出来ずとも、風船を膨らませるかの様にただ暗然とした不安と恐怖を抱えるそんな想像だけは容易に出来てしまいます。

「純粋なる代償」とは本文中の引用ですが、この作品の世界は本来それほどに血の通わない無機質なものです。

そんな殺風景な世界だからこそ、文字とは思えぬ表現力で優雅に響き渡る協奏の音色は冴え渡り、温もりに溢れどこかふんわりとした彼等の会話、心の機微が対比的に心和む色彩を放ちます。

結末に彼の抱く決意は爽やかな読後感へと繋がり、全体を通して、薄紙を剥ぐように軽やかな色が心と感性を灯していく。そんな傑作でした。

★★★ Excellent!!!

皆さん、五感というモノは知ってるでしょうか?
説明五感とは、動物やヒトが外界を感知するための多種類の感覚機能のうち、古来の分類による5種類、すなわち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の事です。
その内の一つの『聴覚』これを使える時間がとても少なく、その時間を超えるまで使うと死ぬ。
そんな世界での、少年と少女と千歳の話です。

僕はにわかメカオタクなのですが、千歳の描写や千歳についての文章を見る度に鼻息が荒くなっています!
いやー、面白いんですよ。千歳。

設定が作り込まれてるからこそ、あの最後の展開が使えるんでしょう。
是非、見てみてください!!

★★★ Excellent!!!

音が聴こえる。
小説の、無機質な文字列のあいまから、満ちた雫が溢れるように音が流れだし、確かに鼓膜に触れたのです。ふたりの奏でる鍵盤の共奏が。美しい彼女の囁きが。いろあざやかな調べをもって、この胸に響いてきました。

こんなにも克明に《音》という概念をえぐり取り、精緻に描きだした小説があるとは……これは文字という有限の縛りにたいする挑戦でもあるとおもいます。

多くは語りません。
どうかご自身の耳で、この小説を確かめていただければ幸いでございます。

★★★ Excellent!!!

鍵盤を弾く指先が浮かんだ。こめかみを伝う汗が見えた。激しくなる呼吸を感じた。
『147秒以上音を聞き続けると脳が自壊する』世界で、彼らが挑む147秒の共奏。世界一美しい終焉。
旋律が脳に直接流れ込み、浸してゆく感覚がありました。

一度目は言葉に導かれるまま、するすると。二度目は言葉を丁寧に拾うように、じっくりと。何度でも味わいたくて、幾度でも読み返す……そんな物語でした。

★★★ Excellent!!!

終わりの始まり。静かな音がそこにはある。

音を文字だけで表現するのは難しい。しかし今作からは確かな音色が聴こえてくる。

必見、必読ならぬ必聴。このレビューを見かけた方はぜひ今作が奏でる静謐で切ない音を聴いてみてはいかがでしょうか。

★★★ Excellent!!!

非常に美しく、胸を衝く短篇です。
強烈に引き込む力のある冒頭から格調高さと重厚な味わいを纏わせてくれる音楽の表現をあしらう中盤への繋ぎが素晴らしい。
なによりラストのSFらしい解明と少年の決意が、青空のような爽やかさのある納得感と満足感をもって物語を〆てくれます。
描かれた少年と少女の暖かくも清澄な機微とその先の物語にわくわくせざるを得ません。

これは『男の子な』お話だなぁ……綺麗な、物語です。
ぜひご賞味あれ。

★★★ Excellent!!!

読了後、僕が抱いた感情は「美しい」という言葉で表現するのが適当だと思う。正しくは僕の中では他にもあらゆる八百万の神にも匹敵する数の感情が生まれているのだが僕の少ない語彙力でその感情を表現することはできない。だから僕はこの渦巻く複数の感情の総称を「美」と呼ぶことにした。
緻密に練られた構成、キャラの言葉使い、設定、ストーリー、何もかもが「美」だと呼ぶのにふさわしいこの作品を是非ご一読ください。