SFとしても、人間ドラマとしても、あるいはファンタジーとしても、すごく綺麗に完成された物語でした。
特長を書くとすれば、まず世界観が魅力的です。
音をしばらく聴き続けると死んでしまう、人間たちの謎。
現代日本に似た街の中にそびえる、中世の城のような不思議な施設。
それを制御しているのは、丘の上の広場のピアノ。
そんな謎とロマンに溢れたSF都市が、このお話の舞台です。
さて物語は、そんな都市である少年が出会った、ピアノ弾きの少女を軸に進んでゆきます。
かれら二人の美しく、またどこか退廃的な感じもする或る計画は、しかし、意外な結末を迎えます。
長々と描いてしまいましたがともかく、
世界観、物語の構成と意外性、文章の巧みさ、そして登場人物たちの清々しさと、どれをとっても素晴らしい物語でした。
SF好きな方にも、苦手な方にも…… というよりは、物語が好きな方みんなにおすすめしたい作品です。
ぜひぜひ、ご一読ください!
個人的に静かな部屋で読むことをお勧めします。
作中の人々のように耳栓をするのもいいかもしれません。
とにかく、静かな状態で読んで欲しいのです。
そんな状態で話を読み進めると、音が聴こえてくるはずです。
楽しげな音やどこか物悲しい音、懐かしいような音や恋しい音、音、音。
ふと、顔を画面からあげると音はしません。
しかし、この話を読んでいる間確かに音を聴くのです。
音は連なり音楽になります。
最初聞いたときは何気ないと思っていた音に思わぬ響きが隠されている驚き、悲しいとさえ感じた音の転調、そして最後、残響の美しさ。
この話は間違いなく一つの見事な音楽であり、それを奏する美しい楽器です。
なんて、少しキザな喩えだったでしょうか?
でも、本当にとても素晴らしい作品でした。
お勧めです。
『人類は音を聞くことができない』
物語の最初から、ちょっとした違和感があった。まるで、何かを試されているような。
五感のうちの一つである聴覚を奪われた人類。冒頭の言葉を借りれば、『147秒以上音を聞き続けると脳が自壊する』のだそうだ。音はある。だが、聴き続けられない。まるで牢獄のような世界だ。
自分にとって、音は本と同じくらい欠かせない。想像してほしい。音がなければ、髭男の曲で一回りも歳の違う女の子と会話なんて出来ない。嵐の256曲デジタル配信開始で賑わうジャニーズ好きの女子と触れ合う事もできない。そんな話はさておき、生活の中で音に触れない時はない。心を落ち着ける為に、あるいは集中するために音楽を聴くことは日常茶飯事だ。
さて。音と交われない世界で、主人公はひとりの女の子と出会い、物語は展開する。
ちょっとした違和感、と書いたが、物語の進行と共に少しずつ積み上げられる。そして、おそらく読んで頂いた多くの読者が感じるであろうその違和感は、物語の最後の章で、実に美しく解消される。
違和感は、この物語の旋律のひとつだった。全ては、千歳という作品の楽譜に書かれた、仕組まれた物だった。
『悠久という名を冠していても、実際には永遠じゃない』
聴覚を奪われた世界にも、終わりは訪れる。終わりに向かう女の子と主人公。その先にある運命に立ち向かう二人の言葉に、是非注目してほしい。二人の奏でる恋の言葉は、きっとあなたの心に響くはず。
(作者様、素敵な作品をありがとうございました)