音が奪われた世界で、言葉は恋を奏でる

『人類は音を聞くことができない』

物語の最初から、ちょっとした違和感があった。まるで、何かを試されているような。

五感のうちの一つである聴覚を奪われた人類。冒頭の言葉を借りれば、『147秒以上音を聞き続けると脳が自壊する』のだそうだ。音はある。だが、聴き続けられない。まるで牢獄のような世界だ。

自分にとって、音は本と同じくらい欠かせない。想像してほしい。音がなければ、髭男の曲で一回りも歳の違う女の子と会話なんて出来ない。嵐の256曲デジタル配信開始で賑わうジャニーズ好きの女子と触れ合う事もできない。そんな話はさておき、生活の中で音に触れない時はない。心を落ち着ける為に、あるいは集中するために音楽を聴くことは日常茶飯事だ。

さて。音と交われない世界で、主人公はひとりの女の子と出会い、物語は展開する。

ちょっとした違和感、と書いたが、物語の進行と共に少しずつ積み上げられる。そして、おそらく読んで頂いた多くの読者が感じるであろうその違和感は、物語の最後の章で、実に美しく解消される。

違和感は、この物語の旋律のひとつだった。全ては、千歳という作品の楽譜に書かれた、仕組まれた物だった。

『悠久という名を冠していても、実際には永遠じゃない』

聴覚を奪われた世界にも、終わりは訪れる。終わりに向かう女の子と主人公。その先にある運命に立ち向かう二人の言葉に、是非注目してほしい。二人の奏でる恋の言葉は、きっとあなたの心に響くはず。

(作者様、素敵な作品をありがとうございました)

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