第12話 ハンドクリーム
今日はとうとう領地からキリカがくることになっている。朝食の時にでもアメリアには言っとかないとな。同い年しの女の子を俺が使用で雇うなんて誤解されたら困る。
そんなことを思っていた矢先、朝、アメリアがいつもと少し違う気がした。服装のせいだろうか?普段は落ち着いた色合いの白や黄色なんかの服を着ていることが多い。今日は赤を基調としたドレスを着ている。なんか気合いが入ってるのかな?もしかして誰かに聞いたのか?
「今日はいつもと違う雰囲気だね。アメリアの赤い髪にも合って、よく似合ってる。昔と違って今は大人っぽく見えて綺麗だよ。」
「ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ただ…クルト。今日、ヴィッシャー家の領地から新しい方がここに来ると聞いてます。それも女性と。」
最後の一言がやけに力がこもっていたような…。なんか不機嫌そうな顔をしている。
「あ、ああ。そうか。聞いたんだね。確かに女性で、僕たちと同じ歳だよ。今日中には着くみたいだから紹介するね。うちの領地で新しく特産品を作りたくてね。その開発の手伝いと運営してもらう為の勉強をしてもらうつもりだから住み込みで来てもらうんだ。なかなか面白い子だよ。」
「ん〜。そうなんですか。面白い子なんですね。」
余計なこと言っちゃったみたいだ。機嫌がさらに悪くなっている。俺の気持ちは伝えてるはずだか、婚約者から知らない子の話をされるのが嫌なのだろう。
「アメリア。大丈夫だと思うけど、深い意味はないからね。ただ、仲良くしてくれると助かる。家に嫁げば長い付き合いになるだろうし、アメリアには家の領地にも目を向けてもらいたいから。」
「わかりましたわ。善処します。お名前はなんていうの?」
口調が変わってしまった…。こういう時どうすればいいのか……不甲斐ない。
「キリカだよ。平民の子で、薬草とかの植物に詳しいんだ。………………………ん?どうかした?」
不機嫌そうな顔をしていたのに名前を聞いた瞬間、アメリアの動向が開き固まった。知り合いなのか、それはないはずだけど。
「い、いいえ。何でもありませんわ。………ただ、同じ名前だけかもしれないのですが、知り合いに同じ名前の子がいたもので。平民ではないはずなので人違いかと。」
「そうなんだ。あまり聞かない名前だけどね。ただアメリアとの接点はないはずだから人違いだよ」
「そ、そうですね。」
「じゃあ、今日も訓練お願いします。ゼハルさん!」
時間になったから後ろに仕えていたゼハルさんに声をかけて準備しに、その場は解散した。
『アメリア視点』
どういう事?どういうことなの?なんで?なんでキリカがこの家に来る流れになってんの?意味わかんない。薬草に詳しい平民で名前がキリカ。同じ様な人が他にいるかな?
私は着替えながら、今日クルトに言われたことに頭を悩ませていた。問題なのはキリカだ。キリカは主人公のお助けキャラだ。学園では攻略対象者との時間以外だと、ほぼ一緒にいたはず。クルトの領民だったんだ。それでもここに繋がりがあるなんて。ゲーム内では2人が一緒なのは出てないし、そもそもクルトは3年生の時期にならないと出てこない。だから実際のところはわからない。
そもそも私とクルトが知り合いなのも私が転生しなくても両親の関係上知り合いにはなっていたんだろう。そう考えれば。やはりゲームの世界だが現実であり、ゲームの架空世界ではないという事だ。この先のためにも慎重に動こうと改めて再認識をした。
午前中の授業を終え、お昼ご飯を食べ終わった頃にキリカが来たと知らせがあった。クルトが紹介したいからと促され共に玄関へと向う。
「アメリア。午後はキリカとレイチェル、料理番のアンドと4人で話し合いがあるから別行動になるからよろしくね。」
「そうですか。残念ですが、仕方ないですね。わかりました。」
私は内心不安になりながらも、ゲームの裏側を見てる気分でワクワクしていた。
玄関に着くとすでに、荷物を下ろしているところだった。キリカの姿を見て、改めて間違いないことを確認する。
前世で画面越しのキャラが動いている。間違いなくあのキリカだ。キリカはお母さんキャラで、面倒見が良くお節介なところがあるが性格的には好きだったから感動してしまった。
よし!クルトの為にも仲良くしよう!
「アメリア?大丈夫?なんか嬉しそう?だけど?」
心の中でガッツポーズを仕掛けていたせいで、クルトが私の顔を覗くように見たことに驚いてしまった。
「だ、大丈夫です。」
「そう?ならいいんだけど。」
顔近いよー。ドキドキするから勘弁して。
すると、キリカが私達に気づき近寄ってきて一礼をしてくれる。
「やあ、キリカ。今日からよろしく頼むよ。」
「はい。クルト様。ご無沙汰してます。雇ってくださりありがとうございます。これからよろしくお願いします。こちらの方は?」
お辞儀をしクルトに挨拶をするキリカ。平民にしては丁寧に挨拶をしていた。これには私も驚いた。彼女はゲームの中で確かに、喋る相手の位によって言葉使いをかえていたけども。まさかこれが原点なのかな?彼女は平民にしては振る舞いがうまかった。だから誰からも敵視される事もなくむしろ気に入れられていた。だからこそ陰ながら主人公に協力出来たのだろうと思う。
「アメリア。先ほど話したキリカだ。キリカ、こちらが僕の婚約者のアメリアだ。これから長い付き合いになると思うからアメリアもキリカも仲良くしてね。」
「はじめまして、キリカ。アメリアです。これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ、お会いできて光栄です。アメリア様、キリカと申します。よろしくお願いします。」
めちゃくちゃ緊張したけど、顔に出ないよう令嬢としてなんとか振る舞った。
「キリカ、ずいぶんと喋り方が綺麗になったね。これから勉強していくんだから無理はせずに頼むよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「では場所を変えよう。3人で話したいことがあるんだ。」
私達はクルトに促されるまま客間へと案内をされた。クルトはキリカにも座るように促した。何故か私は嫌な気持ちになった。
「キリカ。気にしなくていいよ。アメリアも気にしないし、そもそもここにアメリアは来てないことになってるから大丈夫。因みに授業も一緒だよ。屋内だけだけどね。」
「え!?それは流石に申し訳ないです。非公開とはいえ身分は変わりません。そもそも私は一から勉強が始まるのに対してクルト様もアメリア様も進んでいるので一瞬には難しかと。」
キリカが言っているのはもっともだ。確かに身分は気にしないけど、うん?気にしないよ。うん、気にしない。気にしないはずだよ。……でも授業は内容が変わってくるから難しい。そう!授業が違うはず!…クルトは何を企んでいるんだろう?
「大丈夫。内容は別々にやるけど一緒の部屋でやるだけだよ。今後のためにも必要だと思ってね。この先キリカはうちでメイド兼研究者として学んでもらう。学院が始まるまでは勉強の合間にメイド修行。ただ僕の専属だから、レイチェルの元でやる。そんなに厳しくはないと思うよ。学院後は、レイチェルの許可が降りれば一緒に学院に入学し、授業以外は僕のメイドとしてついてもらう。まあ、そこで貴族との付き合い方の勉強だと思ってくれ。そう言うわけで、アメリア。キリカも同じ学院に入る予定だ。さっきも言ったけど仲良くしてもらえると助かる。俺も社交界の場とか行ったことないからキリカの補助までは自信がないんだ。だからアメリアにも学院では協力してほしい。」
「はい!!わかりました。キリカ。そういうことらしいから、他の人の目が無いところでは気軽に話してね。いえ、話しなさい。」
さっきの変な感じが私の心から出そうになる。でも私は気持ちが乗り気でないのを隠しながら元気よく言った。なんだろう?私またアメリアの人格に引っ張りはじめてるの?最近は全然無かったのに。平民だから偏見もない、無いはずなのに…。
「え!?でも…。」
「キリカ!先程、言い換えたでしょ。命令です。ね!」
元気よく笑顔で言えた。内心ホッとしながらモヤモヤする気持ちを押さえ込んでいた。
「は、はい。わかりました。」
「なあ、キリカ。できた婚約者でしょ!!同い年なんだよ!!本当、俺はアメリアと婚約できて幸せ者だよ。アメリアが一緒なら俺もキリカも大丈夫だと思う。もちろん頼りっぱなしでは不甲斐ないから俺も頑張るからさ!」
な、何を急に。私は顔が赤くなるのを実感しながら俯くしか無かった。
「クルト様。仲がよろしいようでなによりです。クルト様、アメリア様の為にも私、がんばります!!!」
「ああ。よろしく頼むよ。んー、そろそろ時間かな。」
私は2人に挨拶をし、午後の授業のため部屋をでることになった。
「たまにはクルト抜きでも話をしましょうね!」
「は!?…はい。お願いします。」
私は出る間際にキリカに耳打ちをして約束をした。
こうして私は好きなキャラと仲良しになれる機会を得ることができた。楽しみなのになー。
『クルト視点』
やはりアメリアは良いな。キリカに対しても朝は不安がある様だったのに仲良くしてくれようとしてくれている。場所は弁えないといけないけど、2人が仲良くなれたらいいな。
「クルト様。顔を引き締めた方がよろしいかと。」
ウッ!顔に出てたかな。いかん、いかん。
「ごめん。つい。」
「素敵な方ですね。」
「あ、ああ。本当、俺にはもったいないよ。」
「クルト様。初日で失礼かもしれませんが、その言葉はアメリア様に失礼かと存じます。」
「え!?」
キリカに指摘されうろたえた。
「アメリア様は間違いなく望んでクルト様のそばにいる様に見えました。そしてクルト様の役に立とうとなさっているとも思います。そんな素敵な方に対して自分ではもったいないなんて悲観的なのは相手は悲しく感じるとは思いませんか?」
「確かにそうだな。キリカの言う通りだ。よし!謝ってくる!!」
勢いよく立ち上がりドアへ向かおうとしたがレイチェルに止められた。
「クルト様!直接言ったわけではないのですから大丈夫です。それにクルト様もキリカも今日は時間があまりありません。今後の説明に特産品制作の段取り等、話すことはたくさんあります。席にお座りください。それにアメリア様も授業中です。お邪魔になるかもしれません。」
「ウッ!!確かに。」
しょんぼりして椅子に座り直す。キリカはクスクス笑っている。この場だからいいし、気付かせてくれたからいいがなんか釈然としない。
「クルト様は素直なのですね。そこまで真っ直ぐに好きな人がいるなんて羨ましいです。」
「確かに、ここまで1人の女性を好きになったのは初めてだ。恵まれてるな。」
前世では1人いたがもう会えない。だからもう2度とないと思っていたのに。まあ、俺もクルト自身も惚れてるからな。
「何、幸せそうな顔してほうけているのですか?そろそろ説明をお願いします。私、本当に学院いけるんですか?。」
「あ!ああ。ごめん。うん、大丈夫だよ。主に高学年になってからの選択科目で自然系の魔法特化の授業を受けてもらうのと、経営も少し学んでもらうのが条件かな。」
「はい。わかりました。それで学院に行けるのなら頑張ります。でも、私で本当によろしいのですか?」
「大丈夫だよ。俺が決めた事だし。初めて話した時も言ったろ。それに専門知識だけでなく領地のことを考えてくれる人でないといけない。外から雇うとそこが難しいから、領地内の人が良かったんだ。内密に進める為でもあるんだけどね。」
「わかりました。」
アメリア達と入れ替わりで入ってきたアンドを含めて今後の事を話し始めた。
「俺とキリカが学院に入るまでにすべきことだけど、先ずは試作品を作り、そこから生産性を考えて値段を決めていく。ここまではしたいと思っている。それ以上出来ればいいけど、まあ無理しても駄目だから最低限を目指していく感じだ。」
みながうなずいてくれる。
「作るのはハンドクリームだ。」
「ハンドクリーム?ですか。」
レイチェルが首を傾げている。他の2人もあまり理解してないようだ。
「具体的に言えば、手の保湿、保温効果のあるクリームをつくる。一般的には、馬油やアンプを使っているはずだけど、塗るだけでいいことと、2つよりも断然効果の期待できる物だ。」
「そんな物がつくれるのですか?失礼ながら、突拍子もない話であまり想像し難いのですが。」
「それはそうだろう。僕も書籍からヒントをもらい、未だ想像の話でしかない。ただ理屈上は出来るはずだから、大丈夫。それで具体的には先ずは試作品の制作だな。領地からきたマビスの巣と、キリカに事前にお願いしてあった香りのする花や植物。そしてアンドにお願いしてあったアンプを用意してもらう。場所はキッチンを借りるつもりだ。もちろんアンドの仕事に影響がないようにアンドとレイチェルは相談しといてくれ。用意でき次第行う。アンドは空いた時間にアンプの種から油を絞っておいて欲しい。キリカは先ずは魔法の練習をしてもらい、実施の段階で練習も兼ねてアンプの種でしてほしい。失敗もあるだろうから多目に用意しておいてもらうと助かる。」
「「「かしこまりました。」」」
「キリカの時間調整はレイチェル頼む。教える事も多いとは思うから無理のないように。休憩時間にやるのは駄目だからね。休む時はちゃんと休ませて。アンドも同じだからね。厳しいようなら再度相談しよう。キリカが持ってきてもらった花と植物はキッチンに置いといてくれ。後で試したいことがあるから。」
「「「かしこまりました。」」」
その場は解散となり、レイチェルとキリカはメイド見習いとしての今後の予定と部屋の案内に。俺はアンドと共にキッチンへ向かった。
キッチンに着いて直ぐにアビスの巣のカケラを出してもらった。そして2人で相談しながら燃やしたり蒸し焼きしたり等で不純物を取り除きロウの純度を上げれた。アンドは夕飯の用意に移り、俺は1人で花や薬草は魔法で水分操作しながら絞り、香りの液体を作ることがなんとかできた。
これで後は試作とどうやって村で生産させていくかだ。機械を作るのも難しいから今村にあるものであればいいが、試作品終わったら再度むらにいかないといけない。後はザハルさんへの相談だ。
そんなことを考えながら自分の部屋に戻っていると、父様が見えた。他所行きの格好だ。これから夕食どきなのにだ。
「クルト。私は今から王室に呼ばれて行ってくる。そのあと寄るところがあるから今日は帰れん。」
「こんな時間に行くなんて珍しいですね。」
「ああ。そうなんだ。夕食の誘いなら前もってくるもんだ。嫌な予感しか出来ない。まあ、行ってみなくてはわからないがな。それよりも、なかなか面白いことをしてるそうだな。形になったら一度見せなさい。」
「はい。そのつもりでした。試作品である程度の物が作れれば持っていきます。」
「ああ。楽しみにしている。あまり詰め込みすぎるなよ。今は勉学の方が大事だからな。」
「はい。わかっています。ただ、カーティス夫人に認められるまでは辛抱と思っています。それに領地のことも知りたいですし、このままこの屋敷にも入れないでしょうから。その為にも。」
「お前は本当に頭がいいな。わかっているなら大丈夫だろう。手回しは私がするからやりたいようにやりなさい。私はお前の父親だ。頼ならないといけない時はちゃんと頼れよ。」
「はい。父様。近々あるとは思いますのでよろしくお願いします。」
「ああ。わかっている。では行ってくる。」
「いってらっしゃい。父様。」
頼りになる父親の背中を見送った。カッコいいなと思いながら、去り際に見た父親の微笑む顔にちゃんとこの人の息子になれたことを実感していた。
明日にはアメリアは家に帰ってしまう。そう思ったら眠れずにまたバルコニーに来ていた。今日はアメリアは来そうにない。ため息を吐き、ふとバルコニー下を見入る。そこにはすごい気迫を纏ったゼハルが素振りをしていた。
「やっぱすごいね。ゼハルもいつも素振りをしてるの?」
「これはクルト様。まだ寝ていられなかったのですか?」
ゼハルは素振りを中断して例をして俺を鋭い目つきで見る。怒ってる?嫌な気迫を感じる…。
「あ!ああ。明日帰ると思ったら、起きちゃったんだ。」
「そうでしたか。また来週末には来ます。しかし恋とは厄介なものですよね。」
「そうだね。アメリアとも話したけど、急に熱が上がりすぎてる気がして、どんどん好きになってくことになんか落ち着かないんだ。」
「ハッハッハッハッ。そこまでお嬢様を好いていただけて何よりでございます。私としても尽くし甲斐がありそうで喜ばしいことです。」
「ゼハルは何故僕を認めたの?」
ゼハルは息を整えてから
「そうですね。まずはお2人が互いを見るときの表情でしょうか。こちらが気恥ずかしくなるほど惹かれあっているのがわかります。それに、今し方もアメリア様の事を話されてるクルト様の表情はまた、なんとも頬へましいものでした。」
ゼハルが和かに嬉しそうに話してくれた。
「え!?そんな顔してる?」
俺は自分の顔を確認する。
「ただ懸念している事がございます。お2人がどちらも特別な存在になり得る可能性のある才をお持ちだという事。今し方素振りをしていたのは、クルト様の戦闘における才を見まして興奮が収まらずに自身を落ち着かせるために行っていました。」
「そんなにですかね?自分ではわかりません。比較するのがアメリアしかいないし。」
「そうですな。確かにそうでございました。私はいろんな兵隊を見て育ててきました。誰よりもクルト様は強くなれると思っております。私はクルト様の将来が楽しみで仕方ないのです。しかし、不安要素がございます。ですから、私はその強さに呑まれずに今のクルト様の優しさや正義感を守らせていただきたく念願しております。」
「知り合ってそんなに日が立ってないのにですか?」
「はい。何故か確信がございます。それに日が浅い状態で私めも守りたい存在と言ってくださったクルト様と同じかと。」
「確かに。」
2人は笑い合った。俺はこの時、ゼハルを師として教えてもらえる喜びを感じた。そしてこんなカッコいいお爺ちゃんに俺もなりたいと憧れた。
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