第4話 婚約を申し込みました
2人でレイチェルがいれてくれたお茶を飲みながら少し沈黙が流れた。今更ながら意識しはじめて緊張してしまった。
「…まさか、あんな間柄だったのに婚約するなんて、なんか不思議だね。」
「…そうですか?私はクルト様といる時にはなぜか素がでていたのでなんか…しっくりきちゃいました。」
「そうなんだ。それは嬉しいな。昔からレイチェルのことも気に入ってたよね。」
「はい。昔、レイチェルに注意をされたことがあった際、私の事を思って言ってくれたことに嬉しかったんです。その時からお姉さんの様に思ってましたから。」
「ああ、だから怒ってるんだね。改めてありがとう。レイチェルのこと気にかけてくれて。」
「私がしたくてした事ですので気になさらないで下さい。それにしても何故心変わりをされたんですか?」
「ああー…本人の前なんだけどな。んー、俺のことを真剣に考えてくれていたのがレイチェルだけだったって気づいたんだ。そもそも追い出した理由も、俺が全部悪かったから謝って戻ってきてもらったんだ。」
「謝ったんですか?クルト様が?」
「ちょっと今の傷つくなー。それは俺が悪かったから謝るさ。身分があるのはわかるけど身内ごとだ。外にばれなければいいからね。」
「本当に変わられましたね。私もそういうの良いと思います。」
アメリアが柔かに笑いかけてくれた。俺はドキッとして見惚れて見つめてしまった。
「…クルト様。意識しすぎですよ。嬉しいですが、それでは私は困ってしまいます。」
気恥ずかしそうにアメリアが目線を逸らした。
「そっだよね。自分の気持ちに戸惑っちゃったみたいだ。アメリアが綺麗になって…。ああ、混乱してんな。本心だが、今じゃ言い訳みたいだな。」
「わかってるならいいですが、散歩でもして気分をかえますか?」
ああーマジでダメダメだなと思いながらもアメリアの助けに乗っかり庭園まで行くことにした。
部屋を出る際には母さんに「落ち着いて下さい」と耳打ちされる始末。
途中、花瓶が置いてある廊下を通った。
「ここだっけ?」
「はい。そうです。ここですね。数年前なのになんか懐かしく思いますね。」
「俺も怒られたなー。花瓶が割っちゃって危なかったのも確かだしね。」
「そうですね。そもそも廊下を走ってましたからね。」
「そっか!それ事態ダメだね。」
2人で母さんを見ると涙目になって、俺たちを見つめていた。
「レイチェルのおかげで他人の言う事を聞き入れるようになりました。そのおかげで成長してます。ありがとう。」
ザハルさんは無言で母さんに頭を下げていた。母さんは慌てながらも、
「とんでもございません。アメリア様。勿体ないお言葉、嬉しい限りでございます。ザハル殿もどうか頭をあげて下さいませ。」
「クルト様。結婚したらもちろん、レイチェルも一緒ですよね?」
「ああ、もちろん。何があっても残したりしないさ。何よりレイチェルは優秀だしね。だからこそ大変かもしれないけどなんとかするさ。」
「私からも是非ともお二人の側で使いさせて下さいませ。」
「ああ、頼むよ。」
「頼みます。レイチェル。もしもの時はお父様にお願いしますから。」
権力まで使う気だー。まあ、助かるなと思いながらもたくましいアメリアに見惚れて笑いかけてたら、赤くなってしまった。
何それ?可愛いんですけど……
「それでは庭まで行こうか。」
俺は赤くなったアメリアの手を取り歩き出した。
「え!?クルト様?」
アメリアは恥ずかしそうだが、握り返してくれて嬉しかった。
そうだった。緊張してる場合じゃない。好きになったんなら攻めないとな。と心で誓いながらアメリアと手を繋ぎ共に庭園まででた。
「ここでも追いかけっこしたり、いろいろしたね。」
「そうですね。庭師の方には苦労かけたでしょうね。」
「いや、元々荒らされるの前提だったみたいだよ。前に庭師と話したら笑いながら言われたよ。」
「そうだったのですか?でも今咲いてある花達はとても綺麗で、そんな風にはみえないですが?」
「ああ。今はもう観賞用に変えてもらったから。庭師と話した時にお願いしたからね。今日、間に合ってて良かったよ。」
「…私の為?だと?……嘘でも嬉しいです。」
「まあ、タイミング合ったからな。そう言うことにしてよ。」
「…はい。」
「実は俺も今日初めて見るんだ。見て回ろう!!」
「はい!」
俺はアメリアと手を繋ぎながら庭をまわった。花達は色とりどりながらも綺麗に統一されていて凄かった。
「一度、お茶にしよう。もう大丈夫だから。」
「はい。」
「レイチェル。俺の好きなあの場所に用意をお願い。」
「はい。すでに用意は始めております。着く頃にはできてるかと。」
「流石だね。ありがとう。」
レイチェルは頭を下げた。それから、レイチェルの案内でお気に入りの場所まで来た。
「庭でお茶をする時はいつも木下でするのが好きなんだ。それにここからだと花畑だけじゃなくて木々達もちょうど良く見えるんだ。」
すでにお茶やお菓子が用意されていた。手を繋いでいたのを添える形に変えてから席まで行き、椅子を下げてあげ、ちゃんとエスコートしてから席に着く。
「ありがとう。気を使わせてしまって。アメリアはすごいね。綺麗だけでなく気遣いまで出来るなんて。」
「…っ!?…いいえ。まだまだです。…それにしても良い景色ですね。」
赤くなってうつむいてしまったが、すぐに庭を眺めながら微笑んでいた。ちょうど夕日の日差しがかかりとても綺麗だった。
「気に入ってもらえて良かったよ。」
俺は景色を見ずにアメリアの横顔を眺めていた。
「アメリアはさ、貴族に生まれて良かったと思う?」
「はい?…そう…ですね。贅沢に暮らせてますから生活に困る事がないので悪くは無いですが、自由は無いかと思います。後は身分が何より優先されるなど息苦しさも感じます。」
俺は嬉しい気持ちを抑えきれずにアメリアを見つめて聞いていた。
「ああ。確かに身分に関しては俺もそう思うようになったよ。レイチェルのおかげだけどね。」
前世云々は言えないからはぐらかした。
「クルト様もやはりそう思っているんですね。良かった〜。」
安心した顔で俺を見つめてくるアメリアに咄嗟に目を背けてしまった。
「アメリアも同じ気持ちで俺も嬉しいよ。やっぱ他の貴族の人は思わない話だよね?」
わかっている。顔がすごく熱い。アメリアを見直すとつられてか、アメリアもなんかぎこちない感じがした。
「はっ、はい。そうですね。みんながそうでは無いですが、誇り高い人は多いと思います。中には度を超えて酷い人も。」
「アメリアとなら心配いらないね。」
「…はい。私も…クルト様となら……心配してません。」
アメリアの仕草にただ惹かれていく自分に戸惑いながらも俺はアメリアを見つめた。
「うん。それならまだ気は早いけど、ちゃんと将来を考えてアメリアと一緒になれるように頑張んないとな。」
「…はい。私もクルト様と…一緒になりたいですから…頑張ります。」
「お互いに成長したいね。そういえば顔合わせが終わったら一緒に勉強見てもらえるんだよね?」
「はい!とても楽しみにしてます。」
「俺もアメリアと出来るのは嬉しいよ。それに魔法も早く習いたいし。」
「そうですよね!!私も早くしたくてお父様に無理言ってお願いしたんです。なんか慌てて用意してくれました。不思議でしたがすぐに学べたので、今とても楽しいんです!!!」
アメリアは目を輝かせながら言ってきた。魔法が好きなようだ。まあ、誰でも憧れるよなー。
「俺も早くやりたいよ。」
「そうですよね。因みにゼハルが先生なんですよ。」
「そうだったんですね。ゼハルさん、決まった際にはよろしくお願いします。」
ゼハルに目をやり言うとゼハルが一歩前に出てから、
「はい、かしこまりました。私ですと中級まででございますがお役に立てるようつとめさせていただきます。今は両家、準備で忙しいと思いますので顔合わせの日に授業の日程等を決めさせていただきますので、よろしくお願いします。」
と、お辞儀をしながら言ってくれた。
「はい。お願いします。」
「ゼハルは教えるのも上手ですし、わかりやすいのでお役に立てると思います。…すいません。少し席を外します。」
アメリアはレイチェルと共に屋敷の中へと入って行った。
「クルト様。ご質問させてもらってもよろしいでしょうか?」
「???なんですか???別に構いませんが。」
「では、アメリア様をどうご覧になられましたか?」
「そうですね。気遣いもできますし、心の優しい素敵な方だと思います。貴族としても僕の考えに近いとわかったので、とても嬉しいです。まあ、昔みたいな悪戯をするお茶目なところも魅力的ですね。まだ全部を見せてもらってないのは残念な気がしますが、もっとアメリアを見て知りたいと思います。」
「それは何よりでございます。あの方は家では苦労ばかりで、あんなに楽しげにされてるのを久々に拝見しました。今は家で笑わない方なので…。」
「…!!そうなんですか?想像がつきません。」
「はい。相手を気遣い笑う事があっても、あの様にわらわないのです。私は今この場のアメリア様が本来の姿だと思いました。婚約となれば結婚に繋がっていきます。早計かもしれませんが、クルト様は夢や目指すものはございますか?」
「…そうですね。僕は家を継ぐ事は出来ません。それでも家族やこの屋敷に働く人達を守り、役にたてる様になりたいと思っています。」
「…家族はわかりますが、使用人たちもですか?先程のアメリア様との会話でもでていましたが…。」
「それは身分も大事ですが、名ばかりなのは嫌なんです。貴族だからこそ雇ってる人達を養い守る。その上で仕事をしてもらう。自分だけよければいいのが好きじゃない。アメリアとも確認した事です。アメリアも家族もザハルさん、レイチェル、他の使用人達も守れる力が欲しい。」
「私も?ですか?」
「もちろんです。ザハルさんは俺とアメリアが結婚した際には来てくれるんですよね?」
「はい。私ごとき老体の身でございますが使いさせていただきたいと思っております。」
「それは良かった。なら、最後までうちにいて下さい。アメリアはそう望んでいます。」
「??アメリア様がそのようなことを?」
「いいえ。言ってはないですが、アメリアですから。それ程にザハルさんを信頼し、慕っていると思います。」
「使い物にならなくなるかもしれないのですよ?」
「構いません。使えなくなったら切る事は間違い無くありません。他の使用人達も同様です。ただ長年支えてくれた方を優先しますけどね。まあ、やりたい事はいくつもあります。それを成し守る力をつける為に俺に教えて下さい。」
ザハルさんは驚きの顔で俺を見つめていた。急に俺に対して跪き、首を垂れる。
「はい。かしこまりました。つきましては、クルト様にお誓いしたいことがございます。」
「え!?なんですか?俺としてはずっと支えてもらえればいいのですが。」
「であれば、私、ゼハル・グリフォン。残りの生涯をかけクルト様、アメリア様にこの命尽きるまで使いさせていただきます。お手をお借りいただけますか?私の手に重ねて下さいませ。」
俺は右手をザハルさんの手に重ねた。重なった手の上に赤い光で魔法陣が浮かび上がった。浮かび上がった魔法陣はゆっくりと俺の手に馴染みながら消えた。
「これは忠誠の儀というものでございます。クルト様、アメリア様をどうかよろしくお願い致します。」
え!?今日出会った子供にすることじゃないよね?
「…いいのですか?俺なんかに?」
「いいえ。クルト様だからでございます。今日あなた様に出会えた事は私にとっても奇跡なのだと思います。」
いや、以前から会ってたと思うんだけど…?
「ゼハル!?」
アメリアが急ぎ足で近づいてきた。
「アメリア様。ただ今、クルト様に忠誠の儀をさせて頂き受け入れて頂きました。今後ともよろしくお願い致します。クルト様と一緒になった後もお使いさせてくださいませ。」
「…ゼハル。なんで…。」
「クルト様なら間違い無いと思いまして。何よりアメリア様が選ばれた方ですから。」
アメリアはゼハルに抱きつきゼハルが受け止める。
「…ありがとう。ゼハルはずっと一緒じゃないと困るから。」
「そう仰って頂きありがとうございます。離れたりいたしません。」
「うん。」
「ゼハルさん。ありがとうございます。」
「クルト様。今後のためにも主従の関係で私と接していただけますか?」
「…うん。わかった。ありがとう。…アメリア、すこしいいかい?」
「はい。…?」
俺は手を出してアメリアを見つめる。アメリアが俺の手を取ってくれ、ゼハルからアメリアをもらいうける。アメリアはなんか可愛い顔をしている。
俺はまさかこのタイミングでするとは思ってなかったから緊張しながらも、夕日の中、庭の中心へと連れて行った。
そして、膝をつきアメリアを見上げて見つめる。
「え!?……。」
最初は慌てていたアメリアも赤くなった顔で俺を見つめてくれた。
「アメリア・フォン・カーティス嬢。」
「…はい。」
「アメリア嬢。あなたの美しさ、優しさに惹かれました。これから時間をかけ、アメリアを知りたい。私の事も教えたい。そしてあなたの成長していく姿を隣で見ていたい。共に私も成長しあなたを守り続けたい。2人成長し支え合いながら周りの人達と共に幸せになりたい。あなたの笑顔の為ならなんでも乗り越えてみせるから、私と婚約して下さい。」
「はい。よろしくお願いします。」
俺の手を取り、手の甲にキスをしてくれた。
俺は立ち上がり、アメリアを抱き寄せる。
「アメリア。アメリアの慕ってるゼハルからも認められた。後は家族だけだ。」
「はい。…でもゼハルのこと、なんでわかったんですか?私は何も言っていないのに。」
「ん?2人のこと見てたら、なんとなく俺とレイチェルみたいな感じがしたからかな。」
「そうみえたのですか?」
アメリアは嬉しそうに微笑んだ。
「うん。だから嬉しかったよ。さてじゃあ、いこうか!!!」
俺は席を立つ。顔を真っ赤にした可愛い顔で、キョトンとした顔をしながら俺を見上げている。
「クルト様、旦那様はお出かけ中でございます。」
「ああ、わかっているよ。アメリアの家に挨拶をしに行くだけだ。」
俺以外の3人が慌て始めた。
「クルト様、顔合わせがございます。その準備で、向こう様も、用意で忙しいかと存じます。顔合わせ前に行くのはどうかと。」
「そうか。しかし、家同士で決めての顔合わせでは不満だ。俺は、アメリアを好きだから婚約する、その為の顔合わせにしたいんだ。」
「クルト様‥‥。ありがとうございます。」
アメリアが俺を見つめながら言ってくれた。すぐ、下を向いてしまって残念だが、照れてくれているのかな。
「クルト様の気持ちは理解しました。それでも、今日これからでは礼儀にそれます。でしたら、一度お手紙を書いてから許可を頂いてからうかがった方が良いかと。」
母さんが止めに入ってアドバイスをくれた。
「そうか。その辺の礼儀作法は、俺はまだまだだな。改めて勉強し直そう。手紙を書くのを手伝ってくれるかい?」
「もちろんでございます。」
「ふー。急にごめん。まだまだ勉強不足だった。」
「いいえ、気持ちだけでも、嬉しいです‥。」
「いや、許可をもらえればすぐに行くよ」
「は、はい。お待ちしています。」
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