第9話ハンドクリームとキリカ
朝のいつものランニングをし、ザハルに教わった型をこなし、素振りのやり方をザハルと相談して変えた。
一振り一振り丁寧にゆっくりと剣先がずれないよう繰り返す。これから朝はセットでやるつもりだ。朝食を終えて、座学の時間まで魔力制御の自主練。
座学は元々ほぼ出来ていたので、父様にお願いをして、レイチェルに変えてもらった。
最初は歴史、世界のことを学び、残りの時間を使いヴィッシャーの保有する領地の活性化に力をいれる。
「レイチェル。うちの領地は小麦栽培は知ってるけど、他にはないの?」
「はい。花畑がごさいまして、それが理由でマビスがいます。マビスが作る蜜の塊をマビミツとして販売、後はパンと混ぜて販売しております。ただ時期的な物なので、悪くはないですが年間での収益はギリギリです。」
「マビス?因みにマビミツはウチにないの?」
「ございますが。」
「よし、キッチンいこう!」
レイチェルは困惑気味だがついてきた。
「アンド!おはよう。今日も朝ご飯おいしかったよ。いつもありがとう。」
キッチンに入ると、ガタイのいいオッサンが厨房で掃除をしていた。いつ見てもよくこの人うちで働けたよな。顔怖いし。因みにだから、別館にいるんだけど。腕はいい。変な話がアンドが作った料理は何品かは本館に運ばれたりする。
「坊ちゃん。お褒めの言葉ありがとうございます。今日はどうしました?」
いつ聞いてもドスの入った声だな。顔は悪くないのに。
「ちょっと聞きたいことがあってね。マビミツある?」
「はい。ございます。」
アンドは棚から瓶を取ってきてくれた。
「舐めていい?」
スプーンですくってくれたて、舐めたが蜂蜜だな。少し違う気がする。覚えてたのより甘く感じる。メープル程じゃあないが。
「ありがとう。」
おそらく蜂で間違い無いだろう。後は現地にいってからだ。
「因みに油って。どうやって作ってるか知ってる?」
「はい。もちろんでございます。動物の脂肪からとアンプから絞り出しす2種がございます。因みに肉料理にはその肉の生き物から取った脂肪を使ってまして、卵等のそれ以外の料理にはアンプから絞り出した油を使ってます。」
「へー。そうだったんだ。料理によって変えてたんだね。因みにアンプってある?」
「はい。こちらです。」
ヤカンに入ったものと種を持ってきてくれた。ヤカンから出して少し舐めてから匂いを嗅いでみた。それなりに香りはあるがどいなんだろう?
「この種から油が出るのか。これはどうやってるんだ?」
「坊ちゃん。魔法で行うのが支流になっております。」
「え!?そうなの?」
「はい。ちょと見ててください。」
そう言ってアンドは種に小さな穴を開け、穴を上にして手で覆うように持ち、黄色い光が光った。そして裏返してお皿の上にかざすと、今度は水色の光が光ると穴からオイルが出てきた。
アンド!?魔法つかえたんだ!!ちょっと意外。
「これはどういう仕組みなの?」
「まず、最初に種の中を粉々にします。そして水を操り、種から水分を取り除き中に蓄積させます。そうすると穴からオイルだけがでてくるのです。」
「なるほど。」
これをするには自分が魔法を使えるようにならないと話にならない。後は領地を直に見ないと。ここから馬車で2時間かからない距離にある。夕食前に行くかな。
「アンド。ありがとう。参考になった。さあ、訓練いくかー!!」
今日は既にザハルから指示があったので、先生は止めるためだけにいる感じ。申し訳ないが仕方ない。
外に出てまずは循環させた。最初の頃は戸惑ったが、スムーズにはなった。今度はそれを掌の上でやるイメージ。先生に背中に手を当ててもらって始める。意外にすぐできた。俺の場合は目で見えるから簡単だった。先生も驚いていた。両手で同時にしてみる。できちゃった。先生、大興奮!!落ち着いて?手放さないでよ。言う前に慌てて当ててきたから何も言えなかったが。
それなら、目の前の草を握り魔力で、ゆっくり温める。草がしなった。やべー天才的?今度は逆に冷やしていく。ゆっくり。ゆっくり。凍ってる。
「クルト様!!!素晴らしい。素晴らしいです。一度魔力切ってもらいます?興奮してダメです。」
そこから賛嘆のあらしだった。先生と別れ、本来なら領地をみたかったが、アンプでアンドがやってたことをしてみることにした。あれ?普通にできた。
レイチェルが別のメイドに入れ替わり、自分の仕事に向かって行った。最近はレイチェルも仕事が増えたのでよくあることだ。外出時は離れないが。
さあ、チャンス。先程の魔力の循環を指先にする。そこに魔力に火をつけるイメージをした。
ポッ
火がついた。よし。ん?詠唱とかってこの世界にあんのかな?アンドは詠唱してなかったし。まあ、いっか。
同じ要領で、水、風、光…はできなかった。氷、電気は出来た。上出来だ。
次の日の魔法訓練。本来はまだ基礎練中だが、すっ飛ばした。俺は地面に手を当てる。もちろん先生に背中に手を当ててもらう。
今日は掌から土に魔力を注ぎ込み操る。
ズドドド、
俺の目の前に土の壁が出来た。よし上出来。順調過ぎて怖い。能力高過ぎじゃね?
「む、無詠唱!?い、いきなり魔法を行使できるのですか!?す、すみません。立ちくらみが‥‥。」
詠唱あったんだ…。じゃあ、アンドもすごいのか?
先生はその場で座り込んじゃったから休んでもらった。
今日最後に試したかったのが強化魔法。体中の神経、筋肉に魔力を馴染ませる。落ちていた石を拾おうとしたが、砕けた。成功だが力加減に慣れないと大変そうだ。
残りの時間は基礎練して、早めに切り上げて、
領地へと向かった。
レイチェルに馬車の中で今後の説明をした。
「母さん、手を出して。」
「は、はい。」
その手を重ねた。
「やっぱり。これは何か油を塗ってるの?」
「は、はい。馬油を薄めて浸します。手が荒れる仕事をされてる女性の間では普通でございます。」
「うん。コレを直す塗り薬を作ろうと思う。そこで母さんにまず試してもらいたいのと、領地で、アプルの油とマビミツを出来るだけ集める準備をして欲しい。まずは、領地で少し持ち帰って試作品を僕が作るから、それからだけどね。」
「は、はい。かしこまりました。この手が治せるのですか?。」
「ああ、できると思う。成功すれば。うちの領地の特産品にできる。その為に作る方法を教えて領地でやってもらいたいんだけど、信用できる人を中心に信頼を得ていかないと、他の家に流されたら意味がなくなる。ある程度まではうちが独占して、生産が大幅に増えたら、作り方を別の家に売っていく。そんな流れだ。」
「か、かしこまりました。ずいぶんと、大事でございますね。これが、公爵夫人に対しての策でございますか?」
「ああ、もちろん。夫人にはそれだけでなく、口コミでこの商品を周りに広げてもらうのが最終目標だな。」
「ずいぶんと、先までみておられるのですね。かしこまりました。期待に応えられるよう邁進してまいります。」
「ああ、よろしく頼む。おそらく、領地で僕が動き回るのは難しい。時間もないからね。今日は1人領地から試作品を作るのに協力の為、うちでコック見習いとして雇う段取りをする。その人選も頼む。」
「かしこまりました。」
さあ、こっから大変だぞー。
話してる中、馬車が止まった。着いたようだ。
んーいい眺めだ。馬車の外からも見ていたが、恐らく小麦用の畑が続いていた。今は収穫が終った頃のようだ。
早速、領主代理の家に入ったのだが、何故こんなのが領主代理なのか?申し訳ないが最初の印象は悪かった。見た目で判断は良くない。態度も子供相手にずいぶんと腰が低い。まあ、仕方ないかもしれないが信頼をおけるかはまだこれからだな。
客間へと案内され、話を切り出した。
「はじめまして。クルト・ヴィッシャーです。急な訪問にも関わらず、迅速な対応感謝します。」
「いえ、めっそうもございません。よく来てくださいました。今現在、この地を代理として領主をさせてもらっています、ルース・シャンクルと申します。どうか、お見知りおきを。」
「はい。よろしくお願いします。それで、今日伺ったのが、マビスのことと、一名私のコックの専属として雇う為にきました。当主には許可を頂いてます。」
「はあ。しかし、この領地にはお目にかかるほどの料理人はいないと存じます。付け加えて、人もあまり多くない為、現時点でギリギリでございます。」
ほー受け答えも、もちろん。自分の領地を理解はしているな。まあ、普通か。
「はい。わかっています。ずっとではありません。見習いを卒業後、この地に帰します。」
「それは、どういう意図があるのでしょうか?この領地で何かされるのでしょうか?」
「その通りです。ここである物を特産品として売る物をつくってもらいます。その為の研修です。物はまだ言えませが、自然の植物のことを知っていて、多少でも料理ができる人を探しています。因みに優先は植物の知識が、一番上になります。空いた時間で結構なんで協力して下さい。」
「かしこまりました。この地に特産品なんて、夢のようなお話しですが、どこまでできるか分かりませんが協力致します。」
「良かった。ではお願いします。因みに現時点で誰かいますか?」
「料理ができるかわかりませんが、村はずれに住む、マルクスか、その家族ですね。変わり者でして、よく森や林に植物などたくさんとってきています。一応領地内では医者扱いになってますので。マルクス親子は困りますが、孫娘なら大丈夫かと。お年頃もクルト様と同じ頃かと。」
「子供ですか。まず行って話を聞いてみます。」
「使用人に案内をさせますね。後の候補者はその家以外ですと知識としてはみな代わり映えがないと思います。出来る限りは探します。」
「はい。お願いします。では、次にマビスですが、マビスは巣を作りますか?」
「はい。林に行けば直ぐに見つかると思います。ひとつの林にマビスを繁殖させていますので直ぐ案内できますが。」
「案内はけっこうです。マビ蜜を取る際にマビスの巣をうちまで届けて欲しいのです。」
「それでしたら直ぐに手配いたします。しかし、普段は廃棄にするか火種にしています。そのような物をどうなされるおつもりですか?」
「それは後に説明します。先ずは手配の方おねがいします。先に候補者の所まで案内をおねがいします。」
こうしてマルクスさんの所まで、使用人を借り案内してもらった。
使用人がノックをする。すると、中からおれと同じくらいの子が出てきた。オレンジに近い茶色い毛に目つきから気が強そうに見える。そして、開口一番、
「領主代理んとこの使用人でしたっけ。どうかしましたか?いま忙しいんですよ。用件は?……ん?なにこの子?ジロジロ見ないでくれる?お坊ちゃん!」
慌てて使用人が俺の紹介をして、マルクスさんをすぐに読んできて欲しいと願い出た。なのにこの子、態度変わらん。気が強い。顔のまんまだった。結構可愛いのにな。
その後マルクスさんが、かったるそうに中からでてきたが、自分の紹介してからかしこまり、お宅にお邪魔したら皆かしこまり、で、大変だった。1人はちがったが。
ハンドクリームを作ることだけを教えて新しい技能を身につける為にも、と押してみた。
「わしじゃと年もそうだが、この地は離れられねぇんです。息子もこの領地内を診察しに周る事もあるんで、わし1人ではできねぇですよ。
ただ、孫娘なら逆にお願いしたい。コイツが孫娘のキリカです。キリカ挨拶せんか!」
「キリカです。はじめまして。」
なんだろう?何故か不機嫌そう。
「はじめまして。クルト・ヴィッシャーです。歳は同じくらいかな?」
「今年10歳になった。」
「キリカ?なりました。でしょ。」
母親が指摘してきた。さらに不機嫌なったー。
「なりました!」
「う、うん。そうか。じゃあ同い年だね。」
「それで、コイツ魔力もあるようなんで勉強させてぇんですが、お金がなくて出来ねぇんです。植物のことなら、わしと共に毎日薬草や山菜いろいろ教え込んだんで大丈夫です。料理も手伝いで少しはできるし、お願いします。」
「僕はかまわないですが、後は本人次第かな。」
「キリカ。どうなんだ?庶民には又とないチャンスだ。ウチにとっても悪い話でない。お前も勉強したがってたろ。」
「でも、私はここを出る気はない!」
キリカは外に飛び出してしまった。1、2年って言ったけどなー。あ!?そうか。
「もしかして、キリカを学院に入れる気ですか?」
「はい。してあげたいと思ってます。ウチだけでは援助金があっても厳しいんで。この話はアイツの為にもわかってもらいたいです。」
「そうですか。因みに本人さえ良ければ見習い中も給金はでますので。植物の選抜ができるのであれば、それなりに出せるかと。」
「それは願ったり叶ったりだ。もちろんあいつならできます。」
「そうですか。なら逆にウチがお願いしたいくらいです。キリカが行きそうな場所教えて下さい。僕が話してみます。家族だと余計に意地をはると思うので。」
「わかりました。キティ。どこか、わかるか?」
「なら、私が途中まで案内します。」
そう言ってキリカの母親に案内してもらった。
マルクスの家は小さな丘の上に家があり、小麦畑から見て家の裏には小川が流れているそうで、そこの上流にいるとのことだった。
歩き出して20分くらいかな。結構歩いた。
「大丈夫ですか。失礼ながら、ここまで道の悪い中、息も切らされないとは貴族様って体力がないと勝手に思ってました。」
「まあ、人によると思います。僕は叶えなくちゃいけない事があるので。」
「まあ、あの噂は本当なのですか?」
「噂?ですか。ああ、アメリアとの事ですか?」
「はい。公爵の御令嬢に熱心に婚約をしもぎ取ったと。その愛いのささやきは情熱的で、周りにいる大人達までもが赤面すると。」
「なんですか?その噂。アメリアに夢中なのは間違ってませんが。もぎ取ったわけでは…ないと思います。はじめまして聞きました。」
何それ。聞いてたのと違うし、庶民の中でも噂になってんの?恥ずいんだけど、
「あら、噂通りなんですね。愛を語ると赤くなるとも聞いています。貴族様は好きな相手とはなかなか結婚できないのは聞いておりますし。その中の婚約。もぎ取ったのだと解釈されたのでしょう。一度はそんな強引な愛情をぶつけられてみたいと巷で有名ですよ。あら、どうやらつきました。あの木がある反対側にいると思います。」
なんかながされた感があるが、俺赤くなってんの?自覚があるときはあんだけど、他も?聞きたいけど…無理そう↓。
言われた場所に行くとキリカが見えた。ゆっくり近く。俺とレイチェル以外はここで待機を命じた。
「母さんに聞いたの?」
「ああ。キリカは家族が大事なんだね。」
不機嫌そうな顔のまま睨みつけられた。
「私たちは道具じゃない。」
「ああ、もちろん。わかっている。もしかして、僕の婚約のことかな?」
「みんな噂してる。公爵相手だから気に入られたくて今までほったらかしだった領地を新しく発展しようとしてるって。」
あれ?今日俺が来ることわかっていたってことか。
「確かに。あながち、間違ってはいないな。ただ、やるからには今ここに住む領民の生活が良くなるようにしていくよ。僕はこの機会でヴィッシャー家が領主で良かったと思ってもらえるためにやろうとしている。まだ許可はおりてないが、領民の管理体制や仕事も変える。その指揮を君にお願いするつもりだ。もちろん、主流はルースだ。君には俺がやる特産品と係る人達をみてもらうことになる。」
「何それ。庶民の私ができるわけないじゃない。そんな大きな変化がきたら、耐えられない人だってでてくる。」
「もちろん。そうだ。だから、勉強をしている。そして君にも。安易にやるつもりはない。一つ一つやる。急いではやらない。その度に問題点は改善させる。そのためには俺だけの知識だけじゃダメだ。助けがいる。まあ、最悪失敗しても、それは全責任は僕が取る。言葉だけではないよ。本始動の前に一筆書くつもりだから。それは僕の中では決めていたことだ。失敗しないためにも、君にきて欲しい。」
「私、勉強嫌いなんだけどなー。」
結構簡単に折れたな。元々本人も満更でもなかったのかな。
「まあ、そこは植物や薬の勉強をする上で必要なこともあるだろう。その為と思えばできるんじゃないかな。」
「できるかも。因みにいつから?」
「今日は水日か。今週中にはきてもらうかな。」
「聞いてみないとわからないけど、いくわ。」
「ありがとう。これからよろしく。キリカ。」
「お願いします。クルト…様。」
握手をして、皆のところに戻った。
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