第10話 2人はチート

今日はアメリアと、ザハルが来る日。そんな日の朝食後。レイチェルから父様が呼んでいるからすぐに執務室までに来る様に伝えられ、執務室で父様と向かいあっている。


「ずいぶんと魔法技術が上達したようだな。家庭教師が私のところに来て、興奮しきって倒れるんじゃないか心配するくらいだったぞ。」


「はい。おかげさまで、順調にできる事が増えてきました。通常が分からないので自分では判断できないのですが。」


父様は深いため息を吐いて俺をにらみつけている。

 

「そうだな。通常一年生で初歩の生活魔法を使えるようになるまでが常で、2年になって属性魔法を練習に入る。お前はもうここまですでに出来ていると、それも無詠唱で。」


「そうなんですか!?確かに簡単に出来ちゃいました。詠唱はそもそも言葉を言わずともできたので、必要なことだと知りませんでした。」


父様は頭を抱えながら俯いた。


「なんだ?その発言は?あり得ない。聞いたこともない。そもそも詠唱とは言葉を発する事で、その理を得た事と同じ対価を得るために用いる。それ以外にも魔力の流れが関係してはくるんだが。

簡単に言えば火を出すなら火の出し方を思い浮かべれば無詠唱はできる。わからない者はファイアと、唱えれば同じ事ができるということだ。

お前はそんな知識どうやって得た?私の書庫にこもっていたとはいえ、あそこにある本を読んで理解できていたってことなのか?」


「はい。大概あそこの知識のおかげだと思います。理解はしています。わからない事はレイチェルに聞いたり、別の本を探して自分で調べてましたから、今まで読んだものは理解してるつもりです。」


前世どうこうは言えないからなー。


「なんだ、その学者と同じ考えは。8歳からずっとそうやって過ごしてたのか?」


「そうですね。やる事もやりたい事も無かったので、それが楽しみでしたね。」

 

父様は机にオデコを付けながら何か呟いているん?


「………か。………いか。わ……なのか。わた……が……のか。わたしの……。わた……せいだ。」


怖い。怖いよ父様!!


「父様?大丈夫ですか?」


ハッと正気に戻ってきた父様。


「す、すまない。大丈夫だ。そうか家に閉じ込めたせいで天才にしてしまった様だ。聞いた話だが雷もできるのか?」


「は、はい。出来ましたね。後、氷も。」


「んー。それは今後使うな。三年生まで我慢しろ。複合魔法は三年生からだ。」


「わかりました。」


「以前話たが、お前の魔力量は膨大だ。それにどこまでかはわからんが、お前が今までに学んだことを活かせば、どこまでも可能性は広がる。天才とチヤホヤされるだろう。

だが、忘れるな。膨大過ぎる力は尊敬もされるが、妬みられ嫉妬され、さらには忌み嫌われ恐怖の対象にもなり得る。

鍛錬や家庭教師は継続する。しかし、内密にできる様にやり方は変える。これは決定事項だ。」


「わかりました。僕も自主練習の時はレイチェル以外に見せない様にします。レイチェルにはどこまで出来るか見てもらい、父様に報告して貰いながら今後の対策をよろしくお願いします。」


「ああ。そのつもりでいた。お前達を守るために努めるつもりだ。」


ん?


「お前達?ですか?まさかアメリアも?」


「ああ。あの子はお前とは違った才をもっている。正確な情報は聞いてないが、人並み以上なのは聞いている。このことはお前達の婚約に大きく関わってくる。2人の天才が家族になる事を嫌がる人間は必ずいる。用心しろ。一つの間違いで大事なものがなくなるのが嫌ならな。」


「わかりました。肝に銘じます。」


「ああ。行っていいぞ。因みに今日以降の講師はザハルとレイチェルしかいない。後は理由をつけて解雇もしくは出て行きたくなる様に別の仕事を与えたからもういない。」


「あからさますぎませんか?」


「仕方ないだろう。お前の噂はすでにいくつか出回ってしまっている。根回しは少なからずはしてある。後、領地の件はお前に完全に任せる。やりたい様やりなさい。その方が面白そうだ。しかし、最終的にはリアンに引き継ぐのを忘れないでくれ。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「まあ。いい。領地の事でトントンだ。」


「了解しました。では、失礼します。」


単にアメリアが好きで向こうの両親に快諾をもらえれば良いと安易に考えていた自分の甘さを悟らされたことがショックだった。

でも、だからといって自分に今何が出来るのか?どこまで考え行動すべきか考え直さないといけない。


そんな思いにふけっていると、徐にレイチェルから、

 

「そろそろアメリア様達が到着する頃かと。」


「そっか。もうそんな時間なんだ。じゃあ玄関に行こうか。」


考えがまとまらず気持ち的にはモヤモヤしてる。でも、アメリア達を待たせても悪いし、すぐに動ける事もできないだろうから今できる事をしよう。


すでに馬車がついてる様だ。急いで玄関に向かった。顔合わせから3日しかたってないのに、気持ちはずっとあってなかった様に待ち遠しさが募る。馬車から降りてくるアメリアが見えた。

あれ?おかしいな。なんか緊張してきた。


「クルト!!」


アメリアがまんみんの笑顔で俺のところまで小走りでくる。転ばないか心配になったよ。慌てて近づいた。


「アメリア!急ぐと危ないよ!!」


ありきたりな、ドラマの様にうまい具合タイミングでアメリアがつま先をつっかえて、前の身に転びそうになる。


「ほら、言わんこっちゃない。間に合って良かったよ。」


「あ、ありがとう…ございます。」


アメリアがコケたのをギリで抱きかかえてそのまま抱きしめる。その間に赤くなりながら体勢を直して抱き返してくれた。多分、俺も赤いかな?


「どうかしましたか?」


「え?いや、アメリアに会えて嬉しくて。」


「いえ、そうでなくなんか心配事でもあるんですか?」


あれ?どういう意味だ?確かにさっきまで不安な気持ちでいたが、アメリアを見て元気が出たから平気だと思うんだけど…。俺としては。


「いや、あれ?そんな変な顔してたかな?」


「いえ、いつも通りですが、何となく不安なのかなと。」


「そっか。隠すつもりもなかったんだけど、僕の心配し過ぎかもしれないから、僕の中でも整理できてないからちょっと待ってて。話せる様になったら必ず相談するから。」


「わかりました。気になりますが、クルトを信じて待ちます。」


「すみません。クルト様。アメリア様、そろそろ向かいませんか?」


いつまで経っても離れない2人を見かねてザハルがお辞儀しながら進言してきた。


あーなんかごめん。


心の中だけで謝って別宅の裏庭に作った練習場に向かった。この日のために父様が庭師に言って作ってくれた。花畑も良かったのでなんか惜しいが他に場所がないから仕方ない。


レイチェルはアメリアと一緒に服を着替えに行った。

その間にザハルからどこまで出来る様になっあたか試したいと進言してきたから、2人向かい合っていた。


「クルト様。今この庭はシールドで守られています。お気づきか知りませんが、アメリア様と私達が来たのも周りの方々には見えない様に入りましたので、数名しか知りえません。覚えておいて下さい。」


「そうなんだ!そうか。ザハルは聞いてるんだね。」


「はい。私も出来る限り精一杯、クルト様、アメリア様のために動きますので、何かあればご相談下さい。旦那様には了解をえていますので。」


「わかった。ありがとう。じゃあひとまず出来る事をやるよ。」


「はい。よろしくお願いします。」


俺は両腕を出し両手の上で魔力を回して見せる。そこから続けて、右手に火、左手に水を出した。一度火は消して、右手で風の渦を掌サイズにつくり、左手で水を氷に変えた。

ザハルは物静かに眺めている。ただその目は真剣そのもの。


次に僕は両腕を地面につけ、自分の足元を、ザハルの身長と同じくらいに盛り上がらせ、ザハルを上から見下ろす形になる。


「ザハルさん。石がそっちに飛ぶかもしれないんで気をつけてください。できると思うんですが、試したい技があるんで。」


「わかりました。注意いたします。どうぞ。」


「では行きます。」


俺は一呼吸し、自分を落ち着かせ、体中に魔力を馴染ませる。そして、その魔力を全身から出すイメージをしながら、その魔力を雷の幕を体に巻き付かせるイメージ。まさにスーパー◯◯◯人みたいな感じを想像した。まあ、金髪にはならんが。ただ、バチバチっと体を覆う雷がなっている。俺は右手を盛り上げた土に殴りつける。


ズドーーーーン!!!


俺を中心に軽いクレーターができる。因みに飛んだ石はザハルに向かっていくつか飛んで行ったが、ザハルは右手を出しただけで全てバリアみたいなので弾いてみせた。やっぱり凄いなこの人。

ザハルはニヤリと笑った。今までに見たことのないいつもと違う笑顔。背筋にヒヤリと汗が流れた気がする。


「クルト様!!素晴らしいです。これほどの才。軍隊にも、いたかどうか。少し手合わせ願いますか?」


「…では、お願いします。」


「かしこまりました。そういうわけでアメリア様、少しお待ちください。レイチェル。アメリア様をお願いします。少し本気を出すかもしれませんので。」


ああ。なんからザハルさんのイメージが壊れていく感じがするんだけど……?。完全に獲物を見つけた野獣の顔つきになってるよ!?幻覚?


「では、いつでもどうぞ。」


ザハルは右手を後ろの腰に当て、左手だけを俺に向けて構えた。完全に片手だけで俺の相手をするつもりだ。カッコいい。カッコ良過ぎるよ、ザハル!!俺の顔はすごい笑顔だろう。スゲーワクワクする。うーんテンション上げ過ぎは良くない。改めて一呼吸し、構え直す。


「では、行きます。」


俺は全身に、さっきと同じ強化に雷をつけ、足の骨まで強化をし、膝を曲げ、バネの様に一気にザハルさんとの距離を縮める。ザハルさんは目を見開き、土に手を当て、土壁を作り出す。


俺は勢いを体中に巻いていた雷を風に変化させ、流れる様に土壁を避けながら後ろにいるであろうザハルさんに向けて蹴りを入れる。が、すでにザハルさんはいなかった。俺はバク宙をしながら、ザハルさんが作った土壁を上から踏みつぶし、周辺に石の瓦礫を散らした。一箇所、物が当たるのを確認すると、目に魔力を入れる。どうやら、ザハルさんは透明になっているようだ。それを目で魔力の流れからザハルさんの場所を特定して、瓦礫を持ち、氷を周りにつけて投げつける。もちろん強化した腕、腰、足から作り出すそのスピードは素人には目では追いつかない速さだ。プロの野球選手も真っ青になるだろう。それを場所を移動しながら何発か投げつける。数個命中するも、左手だけで止められた。


さて、まだ魔法を飛ばすのは試していない。加減が分からないからだ。どのくらいの量でどれほどの威力になるのかが、わからない。そんな中、土に何やら埋まっているのが見える。というか感じる。試すか!!俺はザハルさんから距離を取るよう動く。しかし、この人本当におじいちゃんか?距離が離れない。ってより徐々に近づいて来てる。ならすぐやろう。


俺は土の中の何か、ザハルさんのポジションにする様に誘導して、地面に手を当て、一気に魔力をそれに流れ込ませる。俺の魔力がその何かに入った瞬間、植物の種だと分かった。一気に成長させて伸ばし地面から出した。が、既にザハルさんは過ぎていた。地面から手を離し距離を今以上に縮めないようにする。どうやら一度魔力を通せば操れそうだ。腕に合わせて植物を動かす。ザハルさんを捉えられない。さっき見つけた残りの植物の種で奇襲をかけるのに適した場所に誘導するため動き回り、やっとザハルさんを捉えた。右手で操り、左手で他の種に魔力を流す。1本じゃ避けられる、だから!一気に顔を出させて残り2本をザハルさんの死角から狙い、最初の一本にさらに魔力を流し太くさせながら大振りでゼハルさんを狙う。


しかし、左手で一本目を掴みながら回し蹴りで他の2本を蹴り散らした。その瞬間3本から火が出て燃え尽きる。

ああ、駄目だ。体力、魔力?限界だ。俺はその場に座り込んだ。ゆっくり息を整える。


「やはり素晴らしい才能です。私は左手だけで相手をするつもりでしたが、足を出してしまいました。お見事です。」


「ありがとうございます。ザハルさん強すぎです。」


「これでも、元軍人ですので。現役では無いものの鍛錬はしています。まあ、歳はごまかせられないですが。」


えーー!あれで!?


「クルト!!」


アメリアが、大興奮で近づいてくる。


「すごいです。本当に凄かったです。つい最近始めたとは思えません!!」


「ありがとう。ちょっと疲れちゃた。」


俺は項垂れる。


「あ!?クルト!怪我してます。」


「あれ?いつしたんだろう?全然きづかなかったな。」


「アメリア様。良い機会です。今日までの成果。クルト様に見て頂ければどうですか?」


「はい!!クルト。じっとしていて下さい。」


「??うん。わかった。」


アメリアは傷に手を近づけてきた。手と傷の間に光り始めた。すごく温かい。そして優しい感じがする。体だけでなく心まで癒される感じ。

傷は綺麗に消えていた。


「すごいね!!僕、光属性できなかったからスゲー感動!」


「ありがとうございます。喜んでもらえて嬉しいです。」


「なんか、アメリアにピッタリだね。」


「え?」


「今の魔法。アメリアみたいに温かくて、すごく優しい。」


「そ、そうですか?そんなことないです。私我儘ですし。」


「いや、それは寂しいからでしょ?俺といれば大丈夫。アメリアはなりたいアメリアになれるよ。まあ、俺もわがままで駄目になる時はあるよ。アメリアがいるから俺もなりたい俺でいられる。そう、思ってたんだけど?」


「はい。私もそう思います。」


「そっか。良かった。」


「お取り込み中失礼します。早速お二方に課題をそろそろ出したいのですが。時間もあまりないので。よろしいですか?」


「「あ!?」」


「…お願いします。」


またやっちゃった。仕方ない。


ザハルさんから俺はまず、説教から始まった。先程の模擬戦の際に使った植物の魔法。んー命名マニュプラントかな?あれの力が強すぎたと。当たったら身体が捥げる勢いだったらしい。え!?それは洒落にならない‥。


な訳で力の制御をする為、再び掌に魔力を放出しながら回す。しかし、前回と違い誰にでも目で見えるように球体を出現させ小さくしたり大きくしたりとし始める。目に見えるまでがわからない。俺は見えてるからわかりづらい。

できるようになったら的に向けて放出させて当てる、そこに的が壊れないようにする。できるかな?

因みにアメリアも同じく力の制御の訓練を指示されたようだが、俺とは違い、光魔法の光る球体を掌に出して、明るさを変えて行っている。上達してくれば、浮かせして自由に動かす訓練に変えるらしい。


俺とは少し違う。適性によって変えてるらしい。俺はまだ調べてないからわからないらしいが、自然の魔法?は適性がつよいだろうとのこと。しかし、放出の訓練ができない為、基礎の魔力玉の訓練になった訳だ。アメリアは回復魔法が得意なので光魔法は間違いなく適性が高いことから今回の訓練にしたらしい。


「これ見えてんのかな?」


「クルト様。もう少しはっきりと見えるようにさせて下さい。始めよりかは良いですが、まだまだです。」


「は、はい↓」


はぁー。ムズイ。隣では光の球体を掌に浮かべているアメリアが真剣な顔で明るさを変えている。まだ極端に明るさが変わっていて苦戦しているようだ。

急にアメリアが脱力して、その場に座り込む。


「あー!難しい!!!」


なんか今まで見た事ない感じにドキッとしてしまった。


「あ!?」


俺が見てるのに気づいて赤くなりながら口を押さえている。


「アメリアも苦戦してるようだね。大丈夫!僕なんかまだ、魔法玉事態だせてないんだから‥。でも、悔しがるアメリアも新鮮で可愛いね。」


「失礼しました。」

 

「いいよ。僕と話す時もそれくらいくだけた話し方でもいいな。」


「いえ、これでもくだけた話し方のつもりです。さらにくだけると、周りから思われる印象が変わります。誰が見てるかもわかりませんし、クルト様の側にふさわしい女性と周りからも認めてもらわなければいけません。いえ認められたいのです。なので、今の言葉遣いは直します。失礼しました。」


「そ、そうか。そんな風に思われているなら嬉しいな。じゃあ結婚して部屋で2人きりになれる日まで我慢するよ!」


「ッ‥‥はい。」


真っ赤になっちゃった(笑)

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