第7話 カーティス家へ
『当日』
やっと宿屋に着いたー!腰痛い。5時間はキツい。1日かからないだけまだマシか‥‥。あまり、屋敷以外に出ることがなかったため馬車には不慣れだ。まさか、あんなに揺れるとは‥‥。すぐ様、カーティス家に使いを出す。
前日の疲れか、着いてすぐ寝てしまった。
急に目が覚めた。なんか懐かしい夢を見たな。うわ!?泣いてるし。前世の彼女の夢を見ていた。彼女はゲーム好きで、よく相談された。俺はそんなに詳しくないのに。あのまま生きてたらきっと結婚したいと思っていた相手。そんな相手と過ごした幸せなボンヤリとした記憶。名前も顔も出てこないんだよなー。せめて顔だけでも‥‥。愛しく思ってた気持ちだけってなー?涙を拭い、水が入った桶で顔を洗う。いつの間にか用意されていた。本来貴族が泊まる様な宿ではなかったため仕方ない。その中でもマシな宿だと思う。
近くの貴族用の宿はいっぱいだった。急な訪問であったため、予約客には勝てない。権力を使えばなんとかなるが、好きじゃない。公爵に用があるのは俺だけでないし、そもそもここカーティス領はお酒が有名とあって、観光客でいっぱいなのだ。
もちろん。俺は飲めません。しばらくして、レイチェルがきた。
「クルト様。大丈夫でしょうか?」
入ってきてそうそう意図がわからない質問をされた。よくわからない。 レイチェルも察したのか、
「先程、聴き慣れない方のお名前を言って謝って泣いていらしたので、何か嫌な夢でも見たのかと。」
急に顔が熱くなる。聞いてたんかい。口にしてたのか?覚えてもないのに?
「んー、人の寝言は聞かないでくれ。恥ずかしい。因みに僕もよくわからない。」
「勝手に聞いてしまい申し訳ないとは思ってたのですが、やたら必死に謝っていたもので。」
これはなんか疑われてるのかな?
「本当に僕にもわからないんだよ。ただ、夢の中の僕はその夢に出てきた女性が好きだったのに離れなくちゃいけなくなった。そんなよくわからない夢だったんだよ。」
「そうでございましたか。今はとても大事な時。アメリア様に夢中だと認識してましたので、少し不安になり、進言いたしました。失礼しました。」
「ああ、確かにその通りだね。もちろん、アメリアを一番大事に思っているよ。夢の人にうつつを抜かしてる場合ではなかった。ありがとう。さあ、今日から座学の方、お願いします。」
「はい。かしこまりました。」
この旅の間は、レイチェルに座学、マナーの先生になってもらう事になっていた。流石に家庭教師をここまで連れてくるのはかわいそうだったからね。
しばらくして、メリッサがザハルさんが来ていると伝えにきた。急いでカウンタールームに向かう。
「おまたせしました。ザハルさん。急にどうかしましたか?昨日の今日なので、こんなに早く来るとは思っていませんでした。」
「ご無沙汰しております。クルト様。今日はクルト様が本当に来られているかの確認と旦那様からの提案を伝えに参りました。それと、気を遣って頂き大変恐縮なのですが、ここは公の場。気遣いは不要でございます。」
どうやら、お待たせしました、とさんづけは余計だと注意をしてくれてるみたいだ。多分。まあ、確かにそうか。そうなのか?わからん。とりあえず席につき、ザハルにも促す。
「それでは、旦那様より手紙をお預かりしております。こちらをどうぞ。」
「ありがとうございます。」
内容は俺の行動力の賛嘆と、それでも今の宿にしたのは良くないとのこと。夫人が身分に関していろいろうるさいらしいので、変に突っ込まれるので覚悟する様にと警告された。直ぐに会うのはできないが、今からでも来なさいと書かれていた。
「ザハルさん。因みに、カーティス公爵に直に会い、婚約者として認められなければ泊めて頂くのはことわりたいのですが‥‥。」
ザハルさんは驚いた顔して俺を見つめてくる。これにはレイチェルも唖然としていた。
「大丈夫でございます。今日、今この場にクルト様がいらっしゃる時点で旦那様は認めていらっしゃいます。問題は奥様になりますので、旦那様の苦労を考えて頂いてどちらがいいのかお決め下さい。」
「う!‥‥はい。わかりました。お言葉に甘えさせて下さい。レイチェル。宿主に今日直ぐに立つと伝えてきてくれ。料金は4日分は払ってきてくれないか?」
「は?はい。わかりました。」
「ゴネルようなら、呼んでくれ。」
「かしこまりました。」
「よろしいのですか?」
レイチェルを見送ったザハルが不思議そうに聞いてきた。
「何がでしょう?」
「いえ、今日からもうお泊まりにはなられないのにお支払いされるのが不思議に思いまして。」
「いや、ここに決めた時に1週間泊まる予定で事前に話を通していましたので、おそらく従業員、食事の在庫をあらかじめ用意してくれてるはずです。それを当日に無しにされたら、ここの宿が困ります。迷惑料ですよ。」
「はぁ。そういうことでしたか。初めて聞きました。おやさしいのですね。」
「大したことではありません。早速用意をしてきます。しばらく待ってください。」
「かしこまりました。」
直ぐに部屋に戻り、着替える。もしかしたら公爵に会うかもしれない。下手な格好では行けない。メイドに手伝ってもらいながら、出る準備を進める。レイチェルは少し時間がかかってるみたいだ。
支度が終える少し前には戻って来たが、何やら手土産をもらって来ていた。お茶らしい。キャンセルには困ったものの、大変感謝されたようだ。ゴリ押しで渡したらしいのだが、なら持ってて欲しいと、ゴリ押し返されたとのことだ。
まあ、いいか。
出る際には、宿主はじめ、従業員全員で、見送られた。恥ずいよ。いや、目立つから。これにはザハルさんも困り顔だった。
近くのはずだが、馬車。そういうものなのだろう。案の定、数分でついた。それにしても今更緊張してきた。アメリアに会える嬉しさもあるのだが、今思い返せば、前世含めきちんとした婚約者の親に挨拶しに行くなんて初めてのことだ。前世では挨拶はしたが婚約のではない。尽かさず、レイチェルが声をかけてくれた。
「アメリア様のためにここまできたのです。頑張りましょう!!」
「そうだね。‥うん。頑張ろう」
1人でやらないと意味がない。しかし、1人ではないのだと、少し勇気が出た。それに忘れちゃいけなかった。アメリアと俺自身のためにやらないと。
馬車から降りると、玄関に公爵、公爵夫人、おそらく後継の長男が待っていてくれた。さすが、公爵家。下のものが急な訪問したにも関わらず、ちゃんとでむかえてもらえるとは。ウチも見習わないとな。
「お久しぶりでございます。カーティス公爵、公爵夫人、ヴァンディス様。クルト・ヴィッシャーでございます。急な訪問大変申し訳ありません。にも関わらず、お出迎えまでして頂き誠に恐縮の極みでございます。お粗末ながら、土産を持参させて頂きました。お受け取りいただければ幸いです。」
「あ、ああ。久しいな。ずいぶんと成長したみたいだ。勉強もちゃんとしてるみたいだな。しかし、かしこまり過ぎだぞ。それでは、何か裏があるかと勘ぐりをされてしまう。まあ、良い。あまり時間は取れんが少し話がしたい。ザハル、クルト君を客間まで案内してくれ。」
ザハルさんが案内してくるみたいだ。公爵を先頭に屋敷に入る。一度、公爵達とは別れて、先に客間まで案内された。
しばらくして、公爵だけ部屋に入ってきた。
「本当に久しぶりだな。見違えたぞ。先程の忠告は今後に生かしなさい。9歳なのに感心だ。これなら、アメリアも安心だな。しかし、あの子もまだ、じゃじゃ馬だ。家ではたがな。苦労かけることもあろうが、よろしく頼むぞ。」
「はい。先程の忠告。肝に銘じます。アメリア嬢のことは、本人が素直にさえなれれば問題なく思います。本当はとても心の優しいお方なので。少し恥ずかしがり屋なだけです。」
「ふむ。アメリアのこと。わかってくれているようだな。それでは用件を聞こう。」
「はい。ありがとうございます。この度お話しがありました婚約の件でうかがいました。成長された、アメリア嬢と会いまして、心底惚れてしまいました。その為、けじめをとりにまいりました。」
公爵は一度頷いた。
「私、クルト・ヴィッシャーは生涯アメリア様を愛すると誓います。本人の了承も頂いております。カーティス公爵につきましては、あれ程に素晴らしく育てあげた大事なお嬢様と、今後の人生私と共に歩ませて頂くお許しを下さい。」
「ハ、ハハハハハ。君は本当に9歳か?私でも婚約の挨拶をここまで話せなかったぞ。そこまで娘を欲してくれるか?」
「はい。」
「いいだろう。後は私の妻が問題だ。なんとかしてみせろ。ちなみに先程、1週間後に顔合わせが決まった。それまで、うちに居るといい。どちらにせよ、魔法の家庭教師の件もある。ザハル頼んだぞ。将来の息子だ。遠慮はいらん。」
「ありがとうございます。」
「かしこまりました。」
「今、娘は座学の時間だな。簡単に顔合わせをしたいところだが、生憎私は直ぐ出かけてしまう。数日留守になるから、夕食の時にでもしといてくれ。」
「かしこまりました。お時間ありがとうございました。」
「ではな。」
公爵は足早に部屋を出て行った。無理矢理時間を作ってくれたようだ。すぐザハルさんに泊めてもらう部屋へと案内された。
「ザハルさん。すみませんが、見なかったことにしてもらえませんか?」
ザハルさんは不思議そうに顔を見返してくる。
「ク、クルト様!?」
慌ててレイチェルが止めに入る。
無理!!緊張した。マジで緊張した。俺はソファーに寝転がり、悶絶した。そして、
「やったー!!!」
両手を上にかがげた。レイチェルは止めようとした形で固まり、ザハルさんは苦笑していた。
レイチェルも困り顔で見つめながらため息を吐かれた。仕方ないじゃん。嬉しいんだから。緊張感が無くなったから、気持ちが破裂しそうだったんだよ。
「それでは、アメリア様が来られるまで、ごゆっくりとお寛ぎください。失礼いたします。」
ザハルさんがでてった後しばらくして、アメリアが来た。
「クルト様!!」
「アメリア!!!」
ガバッ!!
「え!?ク、クルト様!?わ、私も会えて嬉しいのですが‥‥」
あった瞬間に抱きつかれて、困惑状態のアメリア。うん。、可愛い。
「クルト様!!アメリア様が困惑しています!」
「あ!ああ。失礼。いや、カーティス公爵に思いも伝えたし、その上で許可をもらった。家のためじゃない。正真正銘の正式な婚約者だ!!」
「はい。ありがとうございます。嬉しいです。」
涙目になりながら、逆にハグされた。嬉しくてもちろんハグ返した。チュウしなかっただけえらい!俺!!
「それでアメリア。この後は一緒にすごせる?」
抱きつきながら聞いたら、自分の状況に赤くなってる。
「はい。大丈夫です。夕食の時間になったら私が案内しますね。」
俯きながら言ってきた。
「うん。わかったよ。ただ、目を見て言ってくれると、嬉しいな。それにもう、婚約者なんだから慣れてね。」
「は、はい。」
赤くしながら俺を見つめてくる。抱き合ってるから、もちろん目の前だ。いや、確かにこれは‥‥、つい顔を背けてしまった。
「どうしました?」
「い、いや。可愛くてつい。」
2人で赤くなって固まった。
レイチェルも、ザハルも呆れ顔でただなんか嬉しそうに見てくれている。多分。
「そ、そうだ。今日はニコル君も夕食にくるの?」
そっと抱くのをほどきながら聞いた。
「あっ、はい。一緒ですよ。そういえばクルト様は初めてでしたね。」
「ああ。そうなんだよ。僕がカーティス家に遊びには数回しかないからね。その時は会えなかったと思う。会ってても覚えてないな。でも、理由を考えると、何故いつもアメリアがうちに来てたんだ?」
「あ、それはお父様が殿下に用がある時に預けていたのが理由ですよ。ヴィッシャー伯爵とは、仲がよろしいようなので相談も兼ねて伺っていたと聞いています。」
「ああ、なるほど。そういえば、一つお願いがあるんだけど。」
「はい。なんでしょうか?」
やばい、直視できない。いや、
「名前。公の場以外はクルトでいいよ。いや、クルトがいいな。」
「え!?‥‥はい。わかりました。クルト。」
「う、うん。」
俺も慣れないと無理そう。
部屋に入ると、すでに伯爵夫人、ヴァンディスク、ニコル3人とも席についていた。すぐ様、夫人の近くまで挨拶しに行き、ヴァンディスク、ニコルに挨拶したのちに席についた。夕食が並べられ、基本1人で食べてたから緊張した。夫人の目線めちゃくちゃ怖いんだもん。
夕食が始まり、夫人から
「ところで、クルト君。夫とはなんの話をされていたのかしら?」
聞いて困ることではないが、この世界で席を許されなかった人が内容を聞いてきていいのか?
まあ、俺としては別にいいが。
「はい。今回の婚約にあたって、私が家柄関係なくアメリア嬢との婚約を望んでいることを伝えました。自ら望んで婚約者にして欲しいのですから、礼儀として、ケジメとして挨拶をさせてもらいました。」
「そう。小さい頃はあまり仲が良くは見えなかったのだけれど。こんな娘でも女として家のためになって貰わなくちゃいけない。貴方に我が家が得することはお有りだと思いますか?」
アメリアの顔が強張った。この人のせいでアメリアが素直になれずにいるのでは?ここの返しは慎重にいかないと。
「私の家は父様がとても優秀です。公爵夫人もご存知の通り、政治家としても、軍人としても優秀。だからこそ、2つも爵位もあがっております。しかし、我が領地におきましては残念ながら名ばかりです。そこで私の家は王都の近くに小さい領土を頂いていますが、何もありません。そこに半年で目で見える成果を出します。すでに準備は進めておりますので、そこまでお待ちいただけませんか?」
「結果、今見えるものはないということですわね。夫が了承している以上、待つしかないようだけれども。間違ってもお義母様とは呼ばないでくださる?」
「もちろんでございます。認めていただけるその日まで、楽しみにとっておきます。」
「少し長くなりました。夕食をすませてしまいましょう。」
「はい。」
んー怒らせたみたいだぞ。だってアメリアを悪くいうからつい‥最後のは言い方間違えたな。
夕食後テラスへと案内され、食後のお茶を用意してくれた。もちろん、夫人はいない。機嫌悪そうだったもんなー。
「アメリア。ごめんね。失敗しちゃった。でも、認めてもらえるよう頑張るから。」
耳元で小さい声で言った。小さく頷いてくれた。
「いや、先程の母様とのやり取りの後で、心が挫けんとは随分強気だな。最後の一言もまさか、母様にあのような喧嘩を売るとは‥笑いそうになって大変だったぞ。」
あれ?きこえちゃったか。ヴァンディスク耳いいな。
「いえ。まさか、喧嘩を売るなどありえません。僕は妹君と結婚するのは確定事項ですので、そこに公爵夫人の了承も必ず頂きます。それを伝えたかっただけです。」
「ふん。実にお前らしいな。最初出会った時から傲慢とは思っていたが、他が成長しても根は変わらんらしいな。」
「そのようです。お恥ずかしい。自分もまだまだです。しかし、これからどうにでも変えるつもりです。」
「そんなに執着するほど、いい女とは思わんがな。まあ、できた妹とは思う。しかし、母様の悪影響が無くならん限り曲がらないか心配だ。」
なんだ意外と妹思いなんだな。ちゃんと見てくれているのだろう。
「はい。そちらの方も僕が曲がらないよう、一緒にいる時間で対処致します。」
「アメリア。どうやら、当たりのようだな。兄としては心配しているが、なんかあったら言え。」
「ありがとうございます。お兄様。」
「いい。母様との件はどうにもしてやれなかったからな。気にするな。」
「はい。ありがとうございます。」
なんだ。いい兄貴じゃん。気になるのは一言も何も言わず、ニコニコしているだけのニコル君。まあ、まだ6歳には早い話かな?
こうして、さほど、話に花が咲かないままお茶会は終了。
後は、俺が借りているバルコニーで2人の時間を楽しんだ。因みにヴァンディスクが、11歳違いの20歳とこの時に初めて聞いた。だいぶ幼く見えていた。そういえば、この家もエルフの血が入ってるんだっけと1人勝手に納得した。
後は明日からザハルさんが家庭教師をしてくれるので、2人でできることに喜びあった。
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