第14話 アメリアの決断

私が王城に着くとすぐに王の玉座まで案内された。


「久しいな。アメリア。ずいぶんと大きくなったものだ。急に連れてきてしまってすまんな。」


「勿体無いお言葉恐縮でございます。お呼びとあればいつでも伺わせていただきます。」


私は顔を上げずお辞儀をしたまま答える。


「そうか。そう言ってもらえると助かる。さあ、顔あげて良いぞ。ヴァンを、カーティス公爵をここにつれてまいれ。」  


私は顔を上げると、横の扉からお父様が兵隊に連れられて入ってきた。


「お招きいただきありがとうございます。シャルス王。」


お父様が膝をつき頭を下げる。


「よい。時間がないのだ。さっさと状況を娘に話してやれ。」


王が手をあげると、1人の騎士を残し全員部屋から出て行った。


「わかった。助かる。」


「いや、うちの奴が迷惑をかけてるのは私のほうだからな。気にするな。」


急に友人同士のような口調に変わって、驚いていると、


「アメリア。すまない。間に合わなかった。因みに王とは同級生で公の場以外は昔のままでないと嫌だとわがままを言われてな。気にするな。」


「だ!誰がそんな事言った!!?」


「王になった日に私と先生に言っていただろう!まあ、それはいい。アメリア、今状況は最悪だ。王妃が先生の御夫人とお前の母親を手駒にとり、先生が私を操り謀反を企てていると証言させ、証拠まで偽造する始末でめちゃくちゃだ。」


「そ、そんな。そんな事が。お母様まで?」


「ああ。元から王子との婚約を望んでいたのは知っていたがここまでするとは…。」


「聞き捨てなりませんね。遅いと思ったら密談ですか?」


急に扉が開き王妃が入ってきた。私とお父様は急いで道を開けひざまづく。


「おい。カナリア。玉座に無断で入るとは何事だ!!」


「失礼いたしました。不敬とはわかっていたのですが、可愛い我が息子の未来の妻の幸せを思えばいてもたってもいかず、まいりました。アメリアも謀反を企てていると疑いのある所に嫁ぐのは不便です。前々からアルベルトの婚約者にと伝えていた筈。考え直していただけませんか?されば、証言者も今回のことは胸にしまい、墓場まで黙ってくれると言っております。それとも私達が嘘を言っているとでも?」


お父様が小刻みに震えている。手には血が滲んでいた。


「未だ調べ中だ。まだ罪人ではない。」

 

「何を言っているのですか?確かに彼は私にとっても恩師です。しかし、それは昔の話。私が調べさせたものに不備でもございましたか?」


「いや、それはまだわからん。」


「それにあなたも婚約者にはアメリアを押していたではありませんか?そんな気に入った子が可愛そうとは思わないのですか?あなたと私の子と幸せにしようとは思わないのですか?」


「し、しかし2人は共に婚約を望んでしたと聞く。私はアルベルトが望むなら考えたが、奴はそれほどアメリアを気に入ってはいない。私はお前と恋愛して結婚をしたと思っている。アルベルトにもそれを望んでほしいと…」


「シャルス王!!あなた様はシャルス王なのです。この国を引っ張っていく存在。国の象徴です。だからこそ私は王妃として支える為、努力してまいりました。しかし、周りはやはり子爵出身の私を蔑ろにしがちです。我が子の妻には同じ思いをさせたくないのです。ならば、我が息子を支えるのに相応わしい子を選ぶは親の務めと思っております。私はあなた様を愛しております。だからこそ、あなた様とのできた子の幸せを望んでいるだけです。」 


シャルス王は眉間にシワを寄せて黙ってしまった。この人は何を言っているのか?私は顔を上げれず、ただ王妃が矛盾だらけの訳の分からない理屈をまくし立てていることに苛立ちと恐怖に心が潰されそうになっていた。


「ヴァン。貴方も同期だったとしても私は王妃です。先ほどの発言は聞かなかったこととします。何が娘の為になるか考え、決断なさい。そして娘にも決断させなさい。因みに先程、ヴィッシャー家の領地から見知らぬ物が見つかり未だ何に使うかわからないそうです。恐らくは反旗を掲げた際の何かの武器あるいは近い役割をするものではとの見解をされています。もう言い逃れはできない状況。このまま行けば2人は打ち首になるでしょう。」


私は咄嗟に顔を上げてしまい、王妃様を見つめた。王妃は笑っていた。ただ、ただ笑っていた。本気なんだと思った。このまま断れば本当に…。

お父様はただ下を向いていた。誰か、誰か…。


「突然の入室申し訳ありません。ゼハルでございます。」


突如ゼハルが自身の剣を持ち、部屋に入ってきてその場で正座し、剣を自身の前に置いた。


「ゼハルだったかしら?我が国の英雄がどうしたのかしら?お前と言えども玉座の無許可の訪問は大罪ですよ。衛兵は何をしている⁉︎」


「ゼ、ゼハル?」


私は涙が溢れゼハルを見つめる。ゼハルはこちらには一切目線をむけずただシャルス王を見つめていた。 

そして両手をつき、


「シャルス王。我が命に変え、申し付けしたい事がございます。どうか、どうか発言をお許し下さい。」


頭を下げる。


「何を戯けたことを。そんな事許される訳がないであろう!」


「いや、許そう。カナリア。お前も無断で入っただろう?」


「し、しかし。」


「感謝いたします。王よ。しんげんしたいのはまず、ヴィッシャー家にあった物はアンプの実を潰すための物。あれに魔力を流し動かす事で一度にいくつもの実から油分を絞り出す物でございます。あれの製作には私も協力させて頂いたので間違いありませぬ。」


「うむ。わかった。信じよう。」


「シャルス王!?」


「そして、私はクルト様に忠誠の誓いを立てております。」


私は婚約を申し込まれた日のことを思い出す。王と王妃は驚いた顔でゼハルを見つめている。


「お前がか?ヴァンにもしなかった忠誠の儀をわずか10歳の子にしたのか!?」


私はシャルス王の言うお父様に忠誠の儀をしていなかったことに驚きゼハルを見る。


「はい。私はあの方が必ずやこの国に、将来の連合軍に必要となる存在になると思っております。」


「また、随分と大きく言ったものだな。お前のようにこの国だけでなく連合軍として活躍すると?」


「はい。必ずやなります。戦闘に関しては私よりさらなる才を感じます。才があるのに努力を惜しまず、ただただ自身の守りたいもののために強くあろうとしています。こんな年老いた老人にすら出会って数日。未だそこまで知らぬ間柄なのに守る対象と言っていただけました。あの方はお優しい。」


「そうか。我が国の最強と言われたお前をも守るか!それは面白い子だな。」


「何を躊躇なく呑まれているのですか!!言い換えれば謀反を企てた際にはとても強い敵にもなり得ると言うことでしょう?先生と組ませたら太刀打ちできないかもしれないのですよ?証拠はその変わった物以外にもあるのです。精神論で犯罪者かどうかを決める物ではありません。」


「王妃様が仰ることも正しきことと思います。ですので、今一度調査をする猶予を頂けませんでしょうか?我が命では足りませぬようであれば一族共に差し出します故、どうか!!」


私は驚愕の顔でゼハルを見やる。私達のためにゼハルは死ぬ気なのだ。それも一族、家族をも巻き込んでまで。嫌!!そんなの。クルトと幸せにはなりたい。でも、でも誰かの命と引き換えになんかできない。クルトも必ずそう言ってくれるはず。

私は下を向き胸が苦しくしめつけられるのを耐えた。耐えてもいろんな思いが湧き上がってくる。


ああ…もう見れないのかな。自慢げに話すときなぜか顎が上がる癖も、困った時とか照れ隠しする時に頬をかく癖も、恥ずかしいこと言うとすぐ赤らめる顔も、訓練中の真剣な顔も、私に会う前になぜか緊張してる仕草も、笑うと目が細くなる笑顔も………クルト。

…クルトも転生者ならいろいろ話したかったな〜。話せるかな?婚約破棄して、また会えるのかな?会えても婚約破棄したらもう手を繋いで散歩をすることも、一緒に笑い合って見つめ合うこともできなくなるんだよね。未だに赤くなるんだよなー。私もだけど…。食事に行ったり、買い物行ったり、ダンスパーティーに一緒に出たり、これから一緒にやりたい事いっぱいあったのに…。……まだキスしてなかったのに。せめてファーストキスはクルトが良かった。………クルト…クルト…クルト……クルトならわかってくれるよね?クルトならほめてくれるよね?クルトなら私と同じ選択したよね?…クルトなら婚約破棄しても私の事諦めないでくれるよね?くれるかな?クルト、私の事好きすぎるから大丈夫か!


私…相当クルトの事好きになってたんだな。


「カナリア!ゼハルがここまで忠義を構えているのだ再度調べる時間を与えてやろうではないか?」


「わかりました。しかし、この場に勝手に入った罪は許しませんがよろしいですか?」


ゼハルは王に目配せをしてから、


「もちろんでございます。我が命、好きになさってくださいませ。どんな御命令でもお受けいたします。なければ、別の場所にて今回の罪、我が命をもって償わせて頂きます。アメリア様!!ご自身とクルト様を優先くださいませ。どうか、どうか、そのままに。」  


私は涙を拭い、王に向かいお辞儀をし直した。


「私めに発言をお許し下さい。」


「いいのか?ゼハルはあそこまでしているのだぞ?」


「はい。」


「そうか。許そう。」


「ありがとうございます。」


「ダメです。アメリア様、ダメです。どうか、どうか…」


「シャルス王。先にゼハルと話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「まあ、良いだろう。」


「ありがとうございます。」


私はゼハルの前に行き座り込み、頬にビンタをした。バチンと部屋に音が鳴り響く。私は涙を止めることもできず、涙声で、


「ゼハル!!私と…クルトが、それで本当に…本当に幸せになれると、それで幸せに笑い合えると…思っているのですか!?」


「しかし、しかし、アメリア様。このままでは、このままではお二人での幸せが訪れる日を迎える事、事態が…。」


「大丈夫!ゼハル。ゼハルがいなかったら幸せには絶対ならないから。クルトも間違いなくそう言うと思うの。あなたを見捨てたら間違いなく嫌われるわ。」


「あなた様は、あなた様達は、何故、何故そのように何故そのように……あなた方は未だに。」  


最後は言葉にすら出来ていなかった。私は涙ぐみ唖然としているゼハルににこりと笑い、王と王妃に向かう。


「私よりお願いがあります。」


「なんだ?言ってみよ。」


「ありがとうございます。この度の婚約お受けいたします。付け加え私から望んで王子と婚約した事になさって下さいませ。我が家も協力すれば、今の世間の噂では王室が望んでいるとされていることも覆せると思います。」


私はお辞儀をしながら話した。今は顔を見せる訳にはいかなかった。


「本当!!?助かるわ!やっぱり話のわかる子ね。まあ、それならいいと思いますが、あなた?それで話を進めるけど。もちろん。ここ数日の事は全て無かったこととしますわ。」


顔を上げると頭を抱える王と、ただ頭を下げ続けているお父様の姿が見えた。 


その場は解散となりみな部屋へと戻って行った。ゼハルは罪は無くなったが、屋敷に先に帰るよう指示され項垂れながら先に王城を出て行った。無理をしないかが心配だから仕方ない。部屋に案内されて直ぐに王妃が今後の話しをしにやってきた。今日から王城に暮らす事。専属の家庭教師がつくこと。明日婚約破棄をし、その後に王子と会い、数日後には婚約式を挙げると言っていた。それ以外はたわいのない話しをし、しばらくいたが準備をしに出て行った。椅子に腰掛けたまま、どこか現実にいないような感覚に茫然とする。ふと、ポケットの所の膨らみを感じ手を入れ中の物をだした。キリカが渡してくれたクルトからの贈り物だ。


キリカとの約束守れなかったよ。キリカ…ごめんね。ごめんね。


私は贈り物を胸に当ててただ、クルトの顔を思い出しながら泣き尽くした。


それからしばらくしてシャルス王が部屋を訪れた。



『クルト視点』


俺は今、王城の一室に軟禁状態になっている。すでに2日はいるんだろうか。この間未だになんの説明もない。質問があると言っていたがこの部屋に入れられただけだ。そして俺は一切外には出れていない。部屋からは開けられないように細工されてるようだ。レイチェルは自由に行き来してはいるが。出る時は声をかけて外から開けてもらっている。  


「クルト様。大丈夫ですか?」


「あ、ああ。大丈夫考え込んでいただけだよ。これはアレだよな?母さん。」


「おそらくは。」


「そうだよな。じゃあ間に合わなかったって事かー。」


「…はい。残念ながら。」


俺は天井を見上げて深いため息を吐いた。俺はアメリアを王室に取られない為にもハンドクリームを成功させて、ヴィッシャー家の必要性を強くしたかった。軍事的には父様がすでに十分な成果を上げてくれていたから心配していなかった。だから領地を開拓し特産品、それも誰もが欲しがる特産品を作ること。それでヴィッシャー家が財務的にも必要性とさせたかったのだ。それにより今の状況にならない様に他の貴族達の繋がりをつくり手出しされない様にしたかったのだ。


「母さん。そう言えば、父様から王様のせいではないと伝言されたけどなんか知ってる?」


「私の知る限りですと、王の意向というより王妃の意向が強いと聞きました。どうやら何度かヴィッシャー家を陥れようとしたらしく王と旦那様が協力して防いだことがあったようです。」


「そうか。だからうちにいなかったんだね。」


「そのようです。」


ため息をはき、父様達がせっかく作ってくれた時間で目標に到達できなかったことに唇を噛み締める。後悔するよりもこれからどうしたらいいのか?わかっていても頭ははたらかなかった。ただ答えの出ない疑問をひたすら問い続けるしかできなかった。


次の日の朝、母さんも来ていない時間帯に急にアメリアが勢いよく部屋に入って来た。


「アメリア!!どうしたの?大丈夫だった?何もされてないか?」


俺は聞きながらアメリアに向かったが、アメリアは勢いそのままに俺に飛びついてきた。俺は慌てて受けとめて、抱きしめた。いつもより強く抱きしめられ不安が募る。


「私は大丈夫。時間がないから手短に言うよ。私はこの後、あなたに婚約破棄すると言いに王妃とこの部屋に来るから。」


「な!?」


「言いたいことはわかるけど、黙って聞いて!それと私は転生者なの。地球の日本に住んでて向こうで死んで生まれ変わったら記憶を残したままアメリアとして生まれた。ただ本当のアメリアも中にいるの。魂が2つある感じかな。クルトにもわかるでしょ?いい。ここから大事!この世界はゲームを元にした世界なの!逆かもしれないけど。乙女ゲームで私は悪役令嬢。クルトは戦争が始まれば敵軍の軍隊長になる悪役なの。この世界に闇落ちがあるのは知ってるでしょ?あなたはその闇堕ちして敵軍に寝返るのよ。」


「ちょ、ちょっと待って。アメリアもなの!?全然気づかなかった。それにゲーム?ゲームの世界?一時期流行ったラノベ的な感じ?」


「そう。そういうこと。知らなかったの?」 


「前世も男だったから乙女ゲームなんて彼女と少ししただけでほとんどやった事ないし。それよりも俺もアメリアも悪役!?」


「そっか。何も知らなかったんだ。とりあえず私達は悪役キャラなの。だからもう一つの魂に引っ張られないで!悪役になっちゃう。なったらクルトは敵軍。殺し合う事になっちゃう。」


「あ、ああ。わかった。ただ実感わかないんだけど。」   


「そう?私は感じてる。今、この状況に私以外も怒りと悲しみでうごめいてるもの。」


「もうどうにもならないのか?」


「…ええ。…私から…婚約……破棄…をして王子と…こ、婚約したいと言っちゃったから。」


アメリアは涙を目に溜めながら俯いてしまう。 


「…ごめん、……ごめん。」


俺はさらに強く抱きしめる。


「…クルト?お願いがあるの。」


「うん。」


2人はお互いに涙目ながらニコリと笑い見つめ合う。そして涙を流しながら2人は優しくそっとキスをした。初めての大好きな人とのキス。そしてこれが最後のキスになる事を覚悟しながら終わりを告げるノックがされるまで抱きしめあった。


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