第13話 破滅の序章
14話
早いもんでキリカが来てもうを1年近くが過ぎ、来年になれば学園に入学の年だ。1月15日に入学式で、10日から13日までに寮に入らなければならない。すでにできる範囲で準備は始めている。そして、そんな中やっとハンドクリームの試作品が人に使えるまでにできた。配合する割合や量産ができる方法での作成に苦労したが、やっと今日みなに見せられる。父様も今日はうちに戻ってくる。何故かは教えてくれないがここ1年なんか忙しそうに出掛け回っていてほとんど家にいなかった。
そんな今日はあいにくの雨。朝の練習を屋根のあるところで素振りとザハルさんに教わった型をゆっくり確認しながら行う。その後はストレッチや筋トレをこなしていく。雨の音が程よく聞こえ気持ちが落ち着いてる感じで心地よい。やっとの思いで試作品のお披露目まできたからか、ここ1年を振りかえった。
ハンドクリームは一応試作品までは出来たが最近になってのことだ。それまで幾度となくアンドと口論しながら練り、何度もルースのところに赴き、道具や人材確保の相談をする事を繰り返した。そして最近になり実際に領地で作る際の段取りはあらかた決まった。それでも、未だ不安要素は多いままだが。
アメリアとは順調に仲が良くなっている。最近は空いた時間は読書や散歩がてら手をつなぎながら話し込んだりしている。最初は恥ずかしがっていたのが可愛かったが、当たり前のように手を繋いで歩くのはそれ以上にうれしい。ただ最近は家に戻る回数が増えた。学園の準備がと言ってはいたが何か不安に陥る。
魔法は植物の操作はだいぶ思い通りにできるようになり、さらに雷を用いた身体強化は闇魔法を重ね発動することにより威力も速度も倍増し、気配遮断や影移動などを応用で使えるようになった。今は武器に付与できないか訓練中だ。
アメリアは回復魔法の能力は桁違いにすごいらしい。バリアーや魔力遮断など新たな魔法も使えていた。
キリカに関してはメイドとして最低限できるようななったようだ。魔法も自然系の魔法が少し使えるまで自分の魔力を操作できるようになった。そこで改めて、俺とアメリアが規格外だと実感した。1年でやっと初歩の魔法が使える程度。その成長度のキリカが普通らしい。思い老けていると、急にドアが開きキリカが顔を出してきた。
「あ!?おはようございます。クルト様。また早朝からこんな所で何をしているのですか?」
「おはよう。キリカ。毎日やってる鍛練だよ。」
「以前から不思議でしたが、騎士にでもなるおつもりなのですか?」
「そういうわけではないけど、家は継げないからそれも悪くないかもな。それよりも、そろそろ口調を少しくずしてくれ。なんかぎこちない。」
来た日から言ってはいたが、なかなかしてくれなかった。
「それは失礼いたしました。しかし、苦労したのですよ!!クルト様がそのような調子で話されるから。」
確かに最初はちょいちょいタメ口がはいってはいた。喋り方をら変えるのに相当苦労したようだ。懸命な顔でいってきた。
「そうか。でも学園では身分は持ち出し厳禁だから口調は気にしなくて良くなるから、場面での口調の切り替えの練習だと思ってよ。もう来年だよ。」
「今更すぎませんか?はあ、仕方ないな。」
「前から言ってたじゃん。ほら、こっちのやりとりの方がしっくりするし。」
ため息をもらしながら肩を落とすキリカ。諦めたようだ。
「本当、変な貴族よね。クルト様って。」
「そっかな?嫌かい?」
「いいえ。悪くないわ。…わかったわよ。でもなんか逆に私が今の喋り方でクルト様に話すのがぎこちなくなりそうよ。」
「まあ、練習だから失敗しながら慣れてけばいいんじゃん。」
「ええ。そうするわ。そろそろ朝食の時間だからシャワー浴びて来て。こんなに肌寒いのに風邪をひかないように気をつけなさいよ。心配する人たくさんいるんだから。」
「今は体を動かしたからちょうどいいんだけどな。」
「はい、バスタオル。いいから行ってきて。クルト様探すのに時間とられたから時間がなくなっちゃった。アメリア様もそろそろ来るはずよ。」
「ああ、わかったよ。行ってくる。」
ぎこちなくなるようなことを言ってたが普通にタメ口で話している。まあ、こっちの方が気が楽だな。
キリカからバスタオルを受け取り、シャワーを浴びに行った。
すぐ様浴びて、急いで朝食を食べにいく。思っていた以上に時間が過ぎていた。席についた時にはアメリアはもう席についていた。
「おはよう。アメリア。待たせてごめんね。」
「おはようございます。クルト。大丈夫です。この時期には珍しく外はすごい雨ですね。まさか、外を走ったりしてないですよね?」
「まさか、今日は筋トレをしただけだよ。」
「そうですか。ならいいんですけど。」
「アメリア様。因みに場所は客間の外の屋根のあるバルコニーでされておりました。」
キリカがサラッと告げ口をしてきた。アメリアの顔が険しくなっていく。
「クルト!!季節外れの雨でいつもより気温が下がって肌寒いんですよ!風も強いようですし。風邪をひいたらどうするんですか!?ただでさえ、勉強や領地の事で無理をしるんじゃないかと心配しているのに!自重してください。」
「え!?えー?…ごめん。わかったよ。」
過保護すぎやしないか?
反論したかったが飲み込んだ。
「キリカ。ありがとう。これからも頼むわね。」
「かしこまりました。」
最近、ちょくちょくキリカからアメリアに俺の情報が流れている。少し前に領地に行った際にも俺が話す前に知ってたり、領地の帰りに盗賊を捕まえた時も心配かけまいと黙っておいたら知っていたらしく夕食後説教をくらったり。間違いなくキリカが告げ口をしているんだろう。仲が良くなったのはいいことなんだが…。
朝食を終えて、3人で広い部屋に来た。今日もキリカはレイチェルがついて初歩の魔法操作の訓練の続き。俺とアメリアはゼハルさんから指示されたことをこなしていく。最近はいつもこの体制で同じ部屋で授業を行なっている。たまに、俺とアメリアが先生となりキリカに教えて、それを横からザハルとレイチェルが捕捉してくれたり言い回し方の指摘を受けたりして授業を行っている。俺たちの基礎練も変わり、アメリアは以前からやっていた光る魔力玉を作り、今では4つまでなら空中で操作しながら飛ばせるようになっていた。今も勢いよく飛びかっている。俺は今は皆が見えるように作った魔力玉を作りお手玉したり、大きめの魔力球を作りバウンドさせたりして大きさから硬さまで変えれるようになっていた。2人とも新しい魔法だけでなく、魔力操作もだいぶできるようになった。
この後は母さんとキリカ、アンドと今年の初めから来ているガルトを交えて最終チェックと今後の方針を話し直す予定だ。
ガルトはルースの次男で去年学園を卒業してうちに来た。一応キリカの補佐役として一緒に任せるつもりだ。俺とキリカが学園に行ってる間は母さんと、このガルトで進めておいてもらうことになっている。
4人で話し合いをしていると、急にドアが開き数名の兵隊が入ってきた。俺も含めみな固まってしまっている。そんな中、レイチェルが毅然とした態度で話す。
「何事でございましょうか?王家直属の兵隊様とお見受けしますが。」
「メイド風情が口を挟むな。そこの子供!クルト・ヴィッシャーで間違い無いか?」
兵隊の間から小太りの他の兵隊とは色の違う鎧を着たおっさんが前に出てきた。
「はい。そうです。僕がクルトです。」
俺は状況が飲み込めない不安を抱えながらも母さんに対する言葉遣いにイラつきながら立ち上がった。
「お前と父であるウルベルト・ヴィッシャーには反逆罪の疑いがあるとして連行が言い渡された。大人しく共について来い。」
「は?なんの話でしょうか?反逆罪?」
「詳しくは城で話す。抵抗せずにくればよい。」
兵隊が俺の両脇にきた。
「わかりました。ではその前に婚約者に一目合わせていただけないでしょうか?」
「それは無理だ。アメリア嬢も同じ罪の疑いで連行対象だ。対象同士を合わすわけがなかろう?」
「アメリアまで!?どういう事ですか!?」
怒りが胸の奥から吹き上げてくるのを感じる。俺は小太りのおっさんを睨みつける。
一瞬怯んだ顔になったが、兵隊の後ろに回りながら、
「て、抵抗する気か!?」
「いいえ。ではついてきます。みな、ごめん。ちょっと行ってくる。問題はない。事実無根の話だ。領地の件はできるところまで任せたよ。」
「「はい。」」
キリカとアンドは答えてくれたが、母さんは不安げな悲しい顔で俺を見つめるだけで返事がなかった。
「兵隊様!私も、私もどうか一緒についていってはダメでしょうか?」
「あー、まあ子供だからな。仕方ない。許可する。1人までだぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
母さんは深々とあたまをさげている。
「か…レイチェル!なんで?」
「私はどんな時でもクルト様のそばを離れないと誓いました。」
「…わかった。ありがとう。」
正直心強かった。不安で頭がいっぱいだったから。
2人で連行され玄関を出る。ちょうど父様が馬車の前で立っていた。何やら魔法陣が光り、体の周りを覆っている。
「父様!!」
「ウルベルト様!!」
俺と母さんの声が周囲に響き渡る。
「こら!!アンツ!!先走り過ぎだ!合わせてはいけないと言われただろう!」
「ふん、お前がノロノロしているのが悪いんだろ!!私のせいにするな!」
何やら2人が言い争いをしている。そんな中、父様が振り向き、口元が動く。そして馬車へと入れられてしまった。
父様が乗せられた馬車が行き次の馬車に乗って俺とレイチェルは王城へと連れて行かれた。道中、父様からの伝言を繰り返し言い聞かせていた。
「王のせいではない。王の意向ではない」と。
『アメリア視点』
今はザハルと共に王室に関しての勉強をしている。最近はザハルと2人だけの時の勉学はいつも王室の勉強になっいた。以前よりお父様から事情を聞いていたけども、納得は出来ていない。
何やら王妃が私をえらく気に入ったようで、再三王子との縁談を持ちかけてきている。すでに婚約しているのにだ。ゲーム修正の力が働いているのではと、気が気じゃない。なのに何故か勉強はしておけと、お父様から言われてしまいヴィッシャー家には内緒でやっている。すごい罪悪感。
そんな事を考えながらザハルの授業を聞いていると、ドアがノックされ、1人の兵隊が部屋に入ってきた。
「突然申し訳ありません。私、王直属の部隊長をしておりますカルサスと申します。アメリア様向かいにまいりました。かの有名なザハル殿、事情は後ほど致しますので警戒されぬようお願い致します。拒否された場合は連行するよう申し付けられていますので申し訳ありませんが、拒否されないようお願いいたします。」
彼は綺麗にお辞儀をし顔を私に向けてくる。私は彼が何を言っているのか意味がわからなかった。向かい?連行?
「カルサス殿。アメリア様も困惑されているご様子。幾らか説明を願いたいのですが。私共はここの客人として、この部屋で滞在させてもらっている身。何故にヴィッシャー家の方が誰もいないのですか?」
「それは失礼致しました。アメリア様、ザハル殿。王の勅命優先で伺っていますし、今この家には御当主はすでにいませんので、大丈夫です。」
「え!?どういう事ですの?今日はクルトが大切な話があるから皆を集めていたはずですわお義父様もいるはずです。」
私は勢いよく立ち上がり、怒気をこめて言ってしまった。
「落ち着いてくださいませ。アメリア様。少し話を聞かせていただくために、王城に連れて行っただけです。」
「なぜなのですか?お呼びすれば済む話でしょ。なぜ?クルトは?クルトは知っているのですか?」
「クルト君も一緒です。ともに王城へと向かいました。」
「え!?」
頭に血が上るのを感じる。
「んな、なぜクルト様まで連行されるのですか?」
私が声を荒げる前にゼハルがもの凄い怒気で声を荒げて前に出た。これには私もカルサスさんもたじろいでしまった。私は顔を赤くしてこんなにも怒っているゼハルを見るのは初めてだ。
「ゼハル殿。落ち着いてください。あくまでも話を聞くのが目的です。詳しくはシャルス王が直に話されるかと。」
目に手を当てて上を向いてしまったゼハルは深呼吸をし、再度カルサスさんに向けて
「申し訳ありません。取り乱しました。アメリア様も、驚かせてしまい申し訳ありません。」
「いえ、いいですわ。ザハルが怒鳴らなかったら私がしていたでしょうから。それよりもクルトが心配ですわ。連れて行ってちょうだい。」
「お供いたします。」
「では、馬車を用意してありますので、王城までお連れいたします。」
ザハルとカルサスがお辞儀をし、カルサス先導のもと玄関へと向かう。
途中キリカが見えた。とても不安そうに私を見つめている。手に綺麗な小さい箱を持っていた。化粧品でよく見る形のものだ。気になり声をかけた。
「キリカ。心配しなくても大丈夫ですわ。事情を聞きに行くだけですから。クルトも連れて帰りますわ。」
キリカは涙目を堪えながら皆に一礼をし近づいてきた。
「アメリア様。よろしくお願いします。クルト様が今日皆を集めた理由がこれです。クルト様は今日アメリア様に見せるのを大変楽しみにされていました。なのに…。何があるかわからないと思い、勝手ながらお持ちしました。」
キリカは私にその箱を渡してきた。改めて綺麗に装飾された箱は蓋式になっていて、蓋を開けてみる。
黄緑色したクリーム状のものが中に入っていた。テカリから油分が多いのがわかる。
「これは…ハンドクリーム?」
「え!?何故その名前をアメリア様がご存知なのですか?クルト様は秘密にと応せつかえていましたので誰も知らないはずなのですが。聞いたことのない名前ですし。」
「これはクルトが作ったのですわよね?」
「はい。製作材料から方法、ほぼ全てクルト様の指示のもと作りました。」
私は改めてクリームを手に取り、両手に馴染ませていく。
間違いない。これは前世にあったハンドクリームだ。なぜクルトが?やっぱりクルトも転生者ってこと?……確かめないと。
「見たことのないものですね。アメリア様、それは何ですか?」
カルサスが横から口を入れてきた。
「婚約者からのプレゼントですわ。誰かさんのせいで直接もらえませんでしたが。何かは今後ヴィッシャー家から販売されるはずですから楽しみにお待ちくださいませ。」
私はカルサスを睨みながら言い捨てた。
たじろぎながら距離を取りながら、
「そ、そうですか。わかりました。時間が惜しいので行きましょうか。」
「ありがとう。キリカ。必ずみんなで帰ってくるから、ちょっと待ってて。」
私はキリカの両手を握り、力込めて心配ないと伝えた。
キリカは涙目のまま笑顔で笑いかけてくれた。
「お願いします。アメリア様。今度2人でクルト様に心配させた罰として何かしてもらいましょうね!!」
「それ、いいわね!!そうしましょう!!」
私達は2人で笑顔で見つめ合い、
「では行ってきますわ!」
「はい。行ってらしゃいませ、アメリア様。」
私は馬車までカルサスに先導され、すぐさま王城へと向かった。
クルトが転生者なら何が目的なのか?ゲームを知っててうごいているのか?…私のこと本心ではどう思っているのか?聞きたいことがたくさんある。ただあの真剣な顔での告白も、私に笑いかけてくれていた笑顔が嘘のはずがない。
それよりも心配なのは何故お義父様とクルトが連れて行かれたかだ。もし万が一王妃が絡んでいるのなら私1人ではどう足掻いても難しい。もしかしたら無理矢理、婚約破棄もありえる。そう思ったら涙が勝手に流れてきてしまった。
「アメリア様!?大丈夫です。大丈夫ですから。この日がいつかくると旦那様もクルト様の父君も対策を御二方が婚約した日からずっと動いていたのです。旦那様もら必ず王城にいるでしょう。大丈夫です。このゼハル、残りの人生を御二方の為に使うと決めております。今日もし万が一があろうと、私はあなた方がご夫婦にらなれるまで動き、使えさせていただきますから。」
ゼハルが私の手を強く握りしめてくれる。私はただただ泣いて、お父様とゼハルに助けを乞うことしか出来なかった。
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