第20話 アメリアへの贈り物

『レイチェル視点』


私は今、王城の端にある住み込み用の建物の待合室でお茶を飲んでいた。


「あら、またその憎たらしい顔を見る日が来るなんて思っても見なかったわ、レイチェル。」


「久しぶり、マリッサ。久しぶりなのに最初の挨拶がそれ?」


「ふん。隊長のお気に入りで、なのに男に誘われたぐらいで任務を放棄していなくなるような奴だからに決まってるでしょ!私はこれでも王城でそれなりに信頼されてるのよ。まあ、いいわ。ここじゃなんだから来なさい。」


私は気づかれないようにため息を吐いて後についていった。そのまま彼女の部屋にあんないされたが、自分で言うぐらいだけあって、立派な部屋だった。何より部屋が3つあった。1人でこの部屋が用意されてる時点でメイドの中でも役職をもらっていることがわかる。


「ずいぶん昇格したみいね。おめでとう。…私は確かに途中で放棄した。私にとっては息子の方が大事だった。隊長が背中を押してくれたのもあった。憎むなとは言わない。」


「隊長はあの時の任務の怪我が原因で引退を余儀なくされたのよ。よくもまあ、そんなことが言えるわね!!」


私は涙を堪えながら下を向いてしまった。


「わ…わかってるわ。そんなこと言われなくも。」


絞り出すような声になってしまったが言えた。


「あなたは隊長にやけに気に入られてたものね。息子まで。」


「気に入られていたわけでは無いわ。ただ以前、隊長にお前はここにいる人間では無いと言われたことがあったわ。だからか気にしてもらえていたのは確かね。息子はまた違う。隊長は息子に忠誠の儀をなさったのよ。私の目の前で。」


「隊長が?」


「私も信じられなかった。でも確かになさったのよ。私から見てもあの子は私の子とは思えないくらい優秀よ。」


「ふん!それは見てから判断するわ。隊長が命をかけたのも理由が知りたいし。でも私はなにより隊長が選んだアメリア様の事がなにより最優先したいから協力したまでよ。」


「…アメリア様は今どんな状態なの?」


「私がお側についた頃は時より泣かれたりしていたけど、今は表情が全く無いの。部屋以外では普通なんだけど…。逆にそれが怖いと思う事があるわ。何を考えていらっしゃるのかがわからない。」


「…………。」


私は何も言えないままただ困惑していた。想像ができない。そんなアメリア様の姿。


「まあ、それをどうにかしたくて誘いにのったのよ。何も変わらないなんて許さないから!!」


「ええ。わかってるわ。」


「本題だけど、殿下より王妃様と王子がいない日を教えて下さることになってるの。だから今はその連絡待ち。わかり次第殿下からカーティス公爵へ、そちらにはカーティス公爵から連絡がある手筈よ。警備兵の方はまだ進展なし。何人かの騎士はクルト様に同情してるみたいね。次男でせっかくの婚約も破綻とくれば、自分達のと重ねてるんでしょうね。だいたい似た者達が騎士になってるからね。助けてもらう3人はドンピシャだったんだけど、最後の1人が平民からの上がり者だから難しいのよ。最悪3階のバルコニーから見える丘なんだけど話すのは無理ね。見れるだけになるわ。他の方法はリスクが高すぎるから断念すると伝えてちょうだい。」


「わかったわ。」


「それくらいかしらね。後は緊急事態の知らせ方法は思念で行うわ。はいこれ。これを身につけておけば、距離が近ければ…。」


そう言って懐かしいものを私にくれた。彼女お手製のネックレス型の魔道具だ。部隊の時にももらって使っていた。


「大丈夫よ。覚えてるから。」


「そう?ならいいわ。後、個人的な知らせなんだけど、隊長のお孫さんが王城に執事見習いとして入ってきたわよ。」


「え!?…キース君が。」  


「ええ。隊長と同じ仕事がしたかったと志願したらしいわ。殿下の推薦で即採用したみたい。」


「そう。頼まなくても大丈夫だろうけど、よろしくね。」


「もちろんよ。」


私はマリッサとの密談を終えて屋敷へと戻った。



『クルト視点』


母さんが帰ってきてアメリアの状態を聞いた。いてもたってもいかずに、頭の中でどうにか会いに行けないか模索を繰り返した。今、父様達が動いてくれてるのはわかってる。…待てない。待ってられない。待ちたく無い。そもそも随分待った。領地で待った。アメリアが悲しんでる、心を痛めている。でも今はいけないのだと我慢した。我慢し続けた。なのにあの日、俺はアメリアを見ていたのに、近くで。目を腫らし、傷ついた彼女を見ていたのに…。


「クルト。焦っては駄目よ。隊長が…ゼハル殿が望む形が1番でしょ?」


「うん。そうだね。」


母さんは…ズルい。そんな言い方されたら待つしか無い。まだ待つのか?なにを我慢する必要がある?


「!!……ごめんなさい。ありがとう。」


母さんは俺を力強く、そして優しく抱きしめてくれていた。


「大丈夫。大丈夫だから。」


すると部屋にキリカがノック音と共に訪れた。


「急に申し訳ありません。レイチェル先生、アメリア様のご様子はどうなのでしょうか?」


「キリカ。それは僕に僕たちに任せてくれ。心配なのはわかってる。今は待ってくれ。」


母さんの返事を言う前に口を挟んだ。そして自分で言った言葉を自分にも言い聞かせながらキリカを見つめた。


「はい。わかっています。わかってはいたのですが…あの…クルト様。これをアメリア様に渡して頂いてもよろしいでしょうか?」


そう言って俺にネックレスを渡してきた。


「これは?」


「守り玉で作ったネックレスでございます。私の自然の魔力を使って癒しと安らぎの効果を付与した物でございます。素材は旦那様から贈って頂いたものを使っていますのでアメリア様が普段身につけても水簿らしくならない様配慮いたしましたので大丈夫かと。」


「…そうか。必ずわたすよ。キリカの気持ちも一緒に。」


「はい。……よろしく…お願いします。…よろしくお願いします。」


キリカは頭を深々と下げた。


「クルト様。先に越されちゃいましたね?」


母さんが余計な事を言ってきた。


「え!?」


キリカが顔を上げて俺と母さんを交互に見てくる。俺はため息をつきながら、机に入ってある物を取り出し、キリカに見せる。


「こ!これは!!クルト様も…。」


「ああ。僕の魔力玉は結界と気力だけどね。」


「そうだったのですね。私なんかが勝手に申し訳ありません。」


「いや、いいんだよ。むしろ嬉しかったし。僕もネックレスにしようとは思ってたんだけど身につけてるのを誰かに見られたら問題になるかもしれないから隠蔽の魔印を入れる方法を明日父様に教えてもらう予定だったんだ。」


「確かにそうですね。そこまで考えが及びませんでした…。」


「まあ、それは僕がやっとくから大丈夫。問題はデザインだな。2つを1つにするか、2つを違う形で使うか。」


「クルト様。隠蔽を含め5つの魔力を制御できる金属はそうそう無いかと。でしたら気力を抜き、残りを魔力玉にそれぞれ1つずつ用意をしてみてはどうでしょう?」


「なるほど、それいいな。基盤を隠蔽の魔印で作ればいけるかもしれない。」


「キリカ悪いが、いやこれはこれでいいかな。少し形をかえるけどいい?2つを合わせようと思う。」


「はい。私のも使って頂けるだけで嬉しいです。」  


「良かった。じゃあ出来たら見せるね。」


「はい。よろしくお願いします。」


その後部屋を出て行った。ペンダントを眺めながら自身のすべき事を確かめた。


それから2日後にカーティス公爵から明後日に決行との知らせがきた。

「いよいよだ。やっとアメリアに会える。」


「ええ。私も同行するわ。残念ながら中に入れないけど…」


「それは仕方ないよな。…ではつくっちゃいますか。」


隠蔽の魔印の入れ方は父様から聞いた。イメージはできている。俺は用意してもらった丸い金属に魔力を流しながら形を変えていく。月型の丸を三つ開けてある。そしてその穴以外の隙間に針を持ち、針越しに魔力を流し字を書き込んでいく。これが隠蔽の魔印になる。そして、1つ目にキリカのを、2つ目に俺のを入れて、3つ目は制御の補助用の魔力玉をいれた。3つ目は母さんが作った物だ。改めて魔力を流し同化させていった。


「相変わらずえげつないわね。」


「それ、どう言う意味?母さん。ってなんで見えてるの?」


「魔法陣を書いた物持ってるもの。それよりも、つい先日魔道具の作り方を教えたばっかなのに、もうそんな物まで作れるなんて。クルトは学園が意味ないんじゃ無いかと思っちゃうくらいすごい事してるのよ。」


「…そうなの?」


「自覚ないしね〜。」


母さんはため息を吐きながら呆れた顔で俺を見ていた。


「それよりも、あれは僕には無理だから母さん頼むよ。」


「はいはい。アメリア様の為ですもの。それで形はきまったの?」


俺はネックレスを魔法陣を書いた紙の上に乗せる。このネックレスは一度魔力を入れると一日中消える。見えるのは触ってる本人か、真実の眼の魔法陣を持ってるものだけだ。だから手放さないといけない時に見えなくならないように真実の眼の魔法陣を組み込んだ魔法具が必要なのだ。

だが真実の眼の魔法陣の理屈が分からなかった俺には出来なかった。だから母さんに頼んだのだ。しかしまだ形が決めれてない。どうやって身につけるか?


「贈り物として目立たないもので、普段身につけてても変じゃないものかー。それは同じ女性の母さんの方がいい案出そうだけど。」


「私は無理よ。この人生、メイドと軍人の生活がほとんどなんだから。女性としてお粧しする生活はしてこなかったもの。」


「そういうもんかな?女性が普段身につけてるものとかメイドの時なんか身だしなみでなんかないの?身につけてるもの。」


「目立たないものでかえないものよね。やっぱりわからないわ。見えないところ…ピアスはアメリア様は髪が長いわけではないしむずかしいわよね。」


「ピアス!そうか!透明の素材で作ればいけるかもしれない。なんかない?完全にじゃなくても透明なもの。」


「また何を思い付いたかわからないけど、透明?ガラスかしらね。…なんか痛そうよ。」


母さんは想像しちゃったみたいで痛そうな顔している。確かに痛そう。


「ないね。…そうだ!確かアメリアってピアスしてた!赤いの!髪と同じ色で綺麗で似合ってるって思ったんだ。それに書き込んだらいいんじゃない。」


「なる程。それならマリッサにお願いすればすぐにできるわ。彼女はもともと魔道具を作るのに長けていたから問題ないわ。」


なんとか問題が解決して椅子に持たれながら脱力した。


「なんか今日疲れた。」


「お疲れ様。クルト。明日が本番よ。思い残さないようにしっかり想いを伝えてきなさい。」

  

「うん。そうだね。明後日には出るんだもんね。」


母さんが頭を撫でてくれる。歳を考えて欲しいが、今は仕方ないと身を任せた。


「頑張りなさい。」


「はい。母さん。」


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