第21話 決意と別れ

決行当日。


俺は王城の近くで母さんと一緒に身を隠していた。どうやら思念で王城の協力者と連絡のやり取りをしてタイミングで中に入るようだ。すでにカーティス公爵が中に入った知らせはきた。

すると、急に母さんが合図を出し裏門に向かう。俺は母さんに周りを警戒してもらいながらそのまま1人裏門に入った。

中に入ると警備兵の3人まっていてくれた。なぜか3人にエールの言葉をもらい目的地を地図で説明され、出る時の説明も受けた後、庭の中へと入って行った。

さっきのはなんだったのか?疑問に思いながらも言われた道をいく。庭の木々の間を抜けたり、ほふく前進で植木の裏を通ったりしてなんとか目的地についた。ついた場所は木々がたくさんあり、確かにここなら王城からは見えないだろう。そして梯子などの用具が周辺に置いてあり作業途中なのかがわかる。俺は納得してその場でアメリアを待った。

 

足跡がした気がした。すぐに目線を向ける。…そこにはアメリアが立っていた。涙を目にたくさん溜めながら息を切らし、ただ俺を見つめるアメリアがいた。


「アメリア!!」…っと言いたかったが、なぜか体が勝手に動いた。何も言わずにただアメリアに向かい、抱きしめた。


「ク…ル…ト………クルトー。」


「遅くなってごめん。」


「…いいの。………いいの。今こうして会えたから。」


アメリアは横に頭を振りながら抱きしめる力を強めた。自然とキスをする。俺もだがアメリアも恥ずかしくなり赤くなる。

2人はお互いの顔を見つめ合いながら笑い合った。


「大丈夫なの?」


俺の赤くなってる目を見て心配そうに覗き込む。…可愛い。


「ああ。ゼハルのおかげで戻ってこれた。ごめん。忠告されてたのに。そのせいで……。」


「ち…違う。あれは私がちゃんと話さなかったのがいけないの。それにゲームではザハルはいなかった。私はゼハルが死ぬ事を予測できたはずだった。」


「いや。ここは現実だよ。ゲームが全てじゃない。そんなの無理だよ。」


アメリアは黙って俯いてしまった。


「ゼハルからアメリアのことをお願いされた。俺しかいないと。ゼハルの最後の言葉だ。俺を命をかけて戻してくれたのもその為だったと思ってる。だからアメリアもゼハルの死を悲しむだけじゃなくゼハルの願いを一緒に叶えてほしい。俯いてたら怒られるよ!ゼハルに。」


「…うん。そうだね。ゼハルには感謝する、感謝してる。だから私、我慢することにしたの!私はゲーム通り動けば必ず婚約破棄される。だから…だから…。」


「どれだけ待てばいいの?」


「卒業前だから…9年後かな。」  


「9?9年後?その間我慢するって?」


「うん。」


アメリアは力強い目で俺を見つめてくる。


「ごめん、それは無理だ。待てない。来年はエルフの国に行くから無理だ…「え!?来年?エルフの国に?ダメ!!それはダメ!!」


俺の服を掴み必死な顔で俺を見る。


「どうしたの?急に。闇落ちを治すのに行くしかないんだ。」


「そ!そんな…。じゃあ、どうすれば…。」


アメリアは困惑した顔で俺から体を離し頭を抱え始めた。俺は手を握りアメリアを見つめる。


「落ち着いて。何を知ってるのか話して。」


「来年の終わりにエルフの国はなくなるの。」


「え!?無くなる?滅ぶってこと?なんで?」


「魔力をまとった動物の群れに襲われるの。今のこの世界には魔力を持つ動物はいるんだけど武器さえあれば大人で倒せない害獣はほとんどいないの。だけど桁違いの魔獣たちが誕生するの。そしてエルフの国壊滅させて、それをカワキりに世界中に拡散していくのよ。気性は暴力的で荒く力も全然違う化け物達が。何万といる化け物達が。」


「それはまた…厳しいな。でもあそこには俺の叔母もいる。会ったことはないが家族だ。どちらにせよ、このままだと俺はいつか敵に回る。間違いなく。選択肢はないな。だけど、対策はうてるはずだ。今日知れたのは大きいと思った方が良いな。連合軍を動かせるかどうかだな。」


「………。」


アメリアは目をうるわせながら見つめてくる。俺は再度抱きしめた。


「大丈夫。俺は強いよ。自分で言うのもなんだが、簡単には死なないよ。それに向こうでも学園に通い更に強くなるつもりだ。ゼハルの弟子として諦めたりなんかしない。信じて。」


「…関係ない。」


「え!?」


「…心配するのにクルトが強いかどうかなんて関係ない。」


参った。マジで参った。俺は抱きしめる力を優しく強くした。


「確かにそうだね。ありがとう。…じゃあ、まずは目を閉じて。おまじない!」


「え!?…うん。」


俺はネックレスをアメリアにかける。


「見て良いよ。」


「…うん。これ……綺麗。これがおまじない?」


「うん。そう!!…良かった。気に入ってもらえたみたいで。俺と母さん、キリカで作ったんだ。」


「レイチェルとキリカも?…ありがとう。」


嬉しそうに、ネックレスを見つめてる。俺はそんなアメリアに見惚れていた。


「これのツガイ作ってくんない?再来年に王子と引き離したらもらいに行くからさ!」


「…約束守れるの?」


「ああ、もちろん。」


俺は小指をアメリアにだした。


「…懐かしいね。それ。」


アメリアは俺の小指に自分の小指をかけてくれた。そしてゆびきりげんまんをして約束して2人で笑いあった。


「良かったー。前世は可愛い日本人女性だったんだね!」


「それどう言う意味よ?まさか、変な想像してた?それにかわいかったかわからないでしょ?」


「いや、そんなことないよ。きっと可愛かったしほぼ100%日本人女性だと思ってたよ。」


「ほぼ?クルトこそ日本人男子で間違いないみたいね。最初は外人かなって思った事もあったけど。」


「なんで?バリバリ日本人だったよ。」


「いや、なんか口説く時のノリがなんか日本人じゃなかった気がしたから。」


「そっかな?素直に気持ちを伝えただけだよ。…そうだ。キリカから伝言があるんだ。」


「キリカから?そっか。すぐ帰る約束したのに連絡もしてないや。怒ってたでしょ?」


「ああ、泣くほどに。」


「うっ!!」


アメリアは気まずそうな顔になった。申し訳ないが微笑ましく見つめた。


「キリカから怒ってるし、心配でどうにかなりそうだってさ。」


「それは…また悪い事したわ。学園で会ったら必ず詫びるし償うって伝えてちょうだい。」


「ああ。わかったよ。アメリアは無理してない?」


「私?…私は闇落ちする心配ないし、大丈夫よ!」


「いや、そうじゃないって聞いたから来たんだけど。」


「ああ。そう言う事!あれはもう1人の私よ。本当のアメリアよ。アメリアが私だとすぐに感情が出るからって。」


「え!?まだ一緒になってないの?」


「???どう言う意味???」


んーなんて説明すればいいんだろう?


「魂が融合っていうのかな?今だって俺はクルトだし。」  


「何それ?私たちは好きに入れ替わりしてるだけよ。まあ、クルトといる時は一緒かな。ゲームの話をすると私だけになるけど。あー!!その感じってこと?」


「多分、そう。それが普通になる状態かな。」


「そんな事できるんだー。まあ、試してはみようかな。アメリアも同意してくれたし。」

 

「そっか。…そろそろ座ろうか。」


「うん。」


2人は寄り添い手をつなぎながら座った。するとアメリアが頭を俺の肩にもたれてきた。ドキッ!!って俺の心臓が跳ねた気がした。アメリアは恥ずかしそうに笑った。


「どうしたの?」 


「この恋人繋ぎこの世界あるのかな?って思ったらなんか嬉しくて。ないならクルトとだからできるって事でしょ!」


俺と繋いでる手を見つめながら笑いかけてくる。反則だ。…その笑顔は反則だ。


「どうしたの?クルト!!恥ずかしいの?」


アメリアがニヤケながら俺の顔を覗き込む。おれはちょっと顔を背けながら、ちょっとイラッとした。俺だけやられた感にだ。その瞬間頬に嬉し恥ずかしい感触がした。


「アメリア!!?」


「だって、クルトが可愛いい仕草するからつい。」


「可愛いってなんだよ。あそばないでよ。」


俺は肩にもたれている頭に俺の頭を乗せた。そして繋いだ手をアメリアの肩に置き抱きついた。


「何かな?これは。」


「少しでもアメリアにドキドキして欲しくて。俺ばっかズルい。」


「そんなことしたなくてもドキドキしてるんだけどな。」


なんかアメリアには余裕があるように感じた。


「アメリアってそんなに意地悪だったっけ?」


「これが素よ。本当の。ちょっと疲れてはいたから…。今はクルトの前で気に入られるようにしてたのをやめただけ。」

 

「そっか。…なら仕方ない。ってか素でいてくれたほうが嬉しいし。」


「……っ!!…次会えるのは再来年の2年生の1学期?」


「どうかな?さっき言ってたのが本当に起きたら後、半年は動けないんじゃないかな。」


「…そうだね。ちゃんと無事の知らせの手紙書いてよ。ヴィッシャー伯爵に送ってもらえたらどうにかしてくれるはずだから。」


「ああ。わかってるよ。そうだ!アメリアの知ってるゲームの流れだけでも教えて。大きな事件や俺やアメリアが関係するところを中心で。」


「うん。わかった。まずは戦争の流れが、まずはさっき言った魔獣の発生。そこから年を追うごとにスパイがいろんな国で事件を起こすの。そして闇落ちする人間が増えていって、私たちが19歳の年に闇落ちした国全てが1つになり魔闇連大国を建国。すぐにこちらに攻めてきて戦争が開戦する。これが前編の流れ。」 


「戦争!?そうか戦争になるんだね。」


「そうよ。因みに前編の中心である学園だと、まずゲーム自体が17歳の時から始まるの。その17歳の時に主人公が聖女として召喚されてくる。そして私は彼女を陥れようとする。クルトは同じ時期に編入されてきて、その年の冬休み中に闇落ちして姿を消す。後は魔闇連大国の将軍としてでてくるまではでないよ。私は聖女を陥れようとした事で卒業前に婚約破棄と罰として最前線の部隊に配置される流れかな。後、大きな事件だと18歳の実施訓練の時にも魔獣大発生があったな。」


「んーなんかいろいろあるんだな。主な流れでそれか。先ずは魔獣発生の阻止とスパイだな。そういえば、俺が暴走する前に王城内で誰かに何か刺されたんだ。痛みだけで跡が無かったんだけど、確かに何かされた。そこからおかしくなったんだ。」


「え!?…「その話詳しく聞かせていただけないでしょうか?」


「うぉ!!!」


「きゃ!!!」


俺らの後ろにバサっと音と共に突然見知らぬメイドがはえてきた。そう見えたんだよ。


「マ!マリッサ!?なんでここに?って私たちの話し聞いてたの?どこから?」


「最初からです。それよりもクルト様、先程の話本当ですか?」


「さっ!最初から……!!!」


キスした事とか、あのやり取りとかも見られてた?2人はうつむいてしまった。


「じゃあ、私たちが訳ありなのも聞いてたの?」


「意味が理解できない言葉やお話もあったので、ちゃんと理解できたかわかりませんがおおよそは。アメリア様が預言者とは理解いたしました。」


2人して引き笑いしながら見合う。……ちょい違うな〜

と。


「はじめまして、クルトです。今回協力してもらい助かりました。さっきの話はあれがすべてです。兵士の顔を見る前に逃げられたので。連行中だったので確かめることも出来ませんでした。」


「そうですか。それでもクルト様を暴走させ隊長が死んだ原因を作ったスパイは王城内にいることは間違いないようですね。貴重な情報ありがとうございます。」


マリッサさんの顔が暗く黒い笑顔で笑った…怖い!!


「マリッサ。今の話は聞かなかったことにしてもらえる?」


「そうおっしゃるならそういたしますが、公表すればアメリア様は聖女として崇められます。そちらの方が動きやすいかと愚進いたします。」


「そうかもしれないけど、それをしてしまうといろいろ争いの種になりかねないの。だからお願い。」


マリッサさんしばし考え込み、


「かしこまりました。アメリア様が良い方向に行くことが最優先ですので従います。」


「ありがとう。ではこれからいろいろ私の事知られたから専属メイドにしてもらって相談役をお願いするわ。」


「見に余る光栄!隊長に変わり誠心誠意尽くさせていただきます。」


マリッサが頭を深く下げてお辞儀をした。


「隊長?」


「ああー。アメリアは知らないんだったね。ザハルの事だよ。母さんとマリッサさんは軍にいた時にザハルの部隊にいたんだって。」


「え!?軍にいたのは知ってたけど、ザハルって隊長だったの!?それもレイチェルもマリッサも!!?部下ってことか。知らなかった。ゲームじゃあ何もでてなかったかし。それならマリッサを信頼して私もマリッサの前だけは気を抜いても平気そうかな。どうせ知られちゃったしね。」


マリッサが身震いしながら喜んでる…。


「それがいいね。マリッサがザハルの代わりをしてくれるなら俺は全力で戦争を止める為に動けるよ!」


「クルト!!!だから闇落ちを治しに行くんだから、無理しないで。それに魔獣の力も正直わからないんだから。」


「ああ。アメリアの為にも無茶はしないよ。マリッサ、アメリアのこと頼むね。基本はいい子だけど、感情表現の上げ下げが激しいのと、自分の事は自分でしたがるから苦労はかけるだろうから。」


「クルト!!あなたはいつから私の保護者になったの!?そんなお願い恥ずかしいからやめてよ!!」


「いいじゃないか。もう名目は婚約者じゃあなくなっちゃったんだから心配なんだよ。アメリアが。」


「そ…それは嬉しいんだけど。」


マリッサは微笑みながら俺たちのやりとりを聞いていた。


「お2人は本当に愛し愛されてるのですね。クルト様。かしこまりました。貴方様に婚約者に戻るまでアメリア様をお守りいたします。そしてこれから先誠心誠意尽くさせて頂きます。…申し訳ないのですがそろそろお時間になります。」


「…そうか。アメリア。」


俺とアメリアは立ち上がり、抱き合った。


「クルト。長い間会えないのはとても辛いですが、どんなに長くても貴方のものになれるなら頑張ります。」


「ああ。必ず向かいに行く。どんな手を使ってもアメリアは取り返すから。」


「はい。」 


「マリッサ。アメリアの話も含めると、魔獣誕生と俺が暴走したのは無関係ではないかもしれない。俺の方でも調べるけど、マリッサも調べてくれ。」


「かしこまりました。」


「1つだけ俺たちに約束をして欲しいことがあるんだがいいか?」


「はい。なんでしょうか?」


俺はアメリアと目線をかわし微笑み、


「私たちの為に命をかけるのは許しません。あなたはこれから私の専属メイドです。どんな結果になろうと私たちはこれ以上誰かを失うのは耐えられない。約束しなさい。命をかけるのはしないと。」


「…尽くすとは身命も投げ捨て身を捧げる事。失言申し訳ありませんが、アメリア様もクルト様も甘いかと。」


「ああ。知ってるよ。だけど理想は高くしないと。それが俺たちの望みでその為なら強くなる努力が出来るんだ。俺もアメリアも。」


「…かしこまりました。約束いたします。」


マリッサは困惑した顔をしながらも了解してくれた。


「ありがとう。」


「そろそろお時間になりますので、その前に、アメリア様失礼いたします。」


マリッサがアメリアのピアスにふれる。


「え?何を…。」


マリッサが目を瞑り書き込んでいく。


「アメリア。今マリッサがしてくれてるのは、あげたネックレスに透明になる魔法陣がかけられているのをアメリアだけ見えるようにする魔法陣をピアスに書き込んでいるんだよ。」


「そうなのですか!?なら、外さなくてもいいんですね!?」   


「ああ。大丈夫だよ。どうしても外さないといけない時は、触れてる間は見えるから探すときにピアスに魔力を入れながら探せば見えるよ。」


「わかりました!!」


アメリアは嬉しそうに笑いかけてくれた。


「お待たせしました。できました。では行きましょうか?」


「はい。ありがとうございます。」


行こうとするアメリアに俺は咄嗟にアメリアにキスをした。


「愛してる。」


「はい。私も愛しています。」


手を離し2人は草陰に消えていった。俺はただ見続けた。


「まったく。時間ギリギリまで使うとは。やはり娘はお前の前では別人だな。いや、あれが本来の娘か…。」


聞き覚えのある声がして後ろを振り向いた。


「カーティス公爵。ご無沙汰してます。この…。」


「すまない。時間がない。これをお前に私にきただけだ。」


カーティス公爵は日本刀を俺に渡してきた。

日本刀?俺は受け取り鞘を少し抜く。やはり日本刀だ。この世界に日本刀がなぜ?


「これはゼハルの愛刀時雨だ。遺言でお前に渡すようかいてあったそうだ。私はこれで行くぞ。時間がない。お前も早く門に戻らないと出られなくなるぞ!」


「わ…かりました。ありがとうございました。」


カーティス公爵は急いでその場を離れていった。俺ももらった日本刀を持って門を感謝の言葉を伝えて無事に出てきた。そして母さんと一緒に家に向かった。


「それは!?隊長の?」


「ああ。形見としてもらった。」

 

俺は刀を力強く握りしめてザハルに感謝した。



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悪役キャラ!?なんの話? クロロロ @kysas10

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