第19話無意味なこと②
彼女が言っている事故は、母親が亡くなってしまった事故のことだろうか。
だけど、出来れば思い出したくもないことのはずだ、なぜなのだろう?
「どうしてそう思うの?」
「……それは、事故で、お母さんが死んだときに思ったんです。
どうして、お母さんはなにも悪いこともしてないのに、意味がわからないって。
理由もなく、理不尽に死ぬなんて、神様なんていないし、いいことをしても報われない…そう思ったら、他人の人生、私の人生なんてどうでもいいものなのかなって考える様になったんです。」
「そ、そうなんだ」
今の彼女だとそんなこと考えそうもないのであっけに取られてしまった。
さらに、彼女は話を続けた。
「そしたら、今まで使えてた能力も一時的に使えなくなったんです」
「どうして使えなくなったの?」
「…さあ。でも、人生なんてどうでもいいって、心を閉じてたからだと思いますよ
同時に、車をぶつけてきた人は一生、許さないと思うぐらい恨んでました
だって、あっちが信号を無視してぶつけて来たんですよ」
「それは…そうだろうね」
「……でも、実際に裁判所で証言した人は想像していた姿と違った。
死んでたんです。加害者の方も。
でも、それは…そうですよね。相手の方も同じだけの衝撃がかかってるんですもんね。
証言台には、加害者の奥さんが立って証言してた。
“夫は、田中さんにとんでもないことをしてしまった。許してもらわなくてもいいです。本当に申し訳ございません”って」
「でも、それじゃあ、納得できないよね」
「そうですね。確かにその時はそう思いました。
でも、よく見るとその人ものすごくやつれていて数日何も食べてないし寝てなさそうだった。その当時の私から見てもかなり衰弱してた。
その姿を見ていたら、この人も同じ様な状況に立たされているような気がしたんです。
“どうしてこうなったんだろう”って言う状況。
そしたら、どうしても事故を起こしてしまった人のことが知りたくなったんです」
「でも、その時は能力が使えなくて知ることもできないよね…そのそも、もう会う機会がないか」
「そうなんですよね。でも、裁判が終わった後、その人が直接、家に謝りに来たんです。
お父さんは“あんたに謝られてもなんの解決にもならない、もう二度とくるな!”って言って追い返そうとしました。
その時、この人に能力を使えなかったら、この機会をのがしたら二度と事故を起こした人のことを知れない。
“もう、一回だけでいいこの人ことが知りたい”と思ってその人に触って引き留めたんです。
そしたら見えたんです。ぼんやりと40歳くらいで優しそうな男の人が、“子供を探してくる”って言って急いで家を出るのが」
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