2月

第2話始まりの日①

見渡す限り山に囲まれたこの町。生活に困らない程度の店は揃っているが、最近はコンビニとチェーン店しかない。もう、この街はうんざりしている。いい思い出もない。

だから、特徴もないこの街から脱出するには、大学に入学し大手企業に就職するしかなかった。でも、地元で一番稼げ、かつ仕事が楽なこの定食屋を選んだことは正解だと感じる。ちなみに、近所ラーメン店が一番稼げたが、先輩からの罵声、長時間の労働の可能性がとても高かったので断念した。

キッチンとホールが完全に分かれていてキッチンだと人に接することも少なく良かったと感じる。

ただ、デメリットもあるそれは朝礼だ。朝礼は最後に全員に握手しなければならない。


他人の未来はその人が今一番選ぶ可能性のある未来が見える。経験からすると、ある程度の年齢になると未来を大きく変えることはない。

今まで能力を自分でコントロール出来たことがない。

つまり握手するたびに他人の未来が見えてしまうわけだ。

握手のたび同じ未来を見せられるのはコバエが顔の周りを飛ぶくらい鬱陶しい。まあ、そこは我慢するしかない。

その日もいつも通りの朝礼のはずだった。

ところが、いつものメンバーの中に見慣れない女子がいた。長髪にいかにもモテそうな美人だ。

今日は新人が入ってこない日のはず。

その時、僕は動揺した。

「今日から働いてくれるバイトの田中さん。はじめ分からないことは、先輩に聞いて仕事になれていって。ベテランの人は仕事を教えていってね、よろしく」

「今後、よろしくお願いいたします!」

店長に続いて女子の元気な声が店内に響く。

「じゃあ、今日も元気に声を出して明るい接客と…」

店長がいつも通りのカンペでも読んでいるかのような心無い閉めの挨拶が耳に入ってこない。

いや、いつも聞き流していたが。

今まで小石に躓く様な小さな出来事は、見逃してきた。

しかし、こんな大きな出来事を見逃したつもりはない。

彼女は未来に存在しないはずだ。

「どうしたんだ、声だしもしてなかったし、ボーとして、大丈夫か?」

店長が声をかけてきた。

どうやら、考えている間に朝礼が終わったらしい。

「だ、大丈夫です・・」

いつも通り順番に握手をしていく、最後に彼女、番がきた。

直接触れれば、見えくるかも、しかし握手しても何も見えない。どうしてだ。

顔を上げて彼女の顔をみると、何故か彼女も驚いた顔をしていた。

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