Chapter Ⅶ ライネスのナンパと王命(ライネス視点)

 ――二人が会場へ向かおうとしていた時より十分前、パーティー会場。


 そこに二人の男女が何か話し合っていた。そして女性がペコリと一礼をした。


「ごめんなさい、私――昔からの思い人がいるの」


「あ、……そ、そうなんだ」


「ごめんね」と言って、背中を向けて立ち去った。


「ち、ちくしょぉぉぉぉッ! パーティー会場ならいい出会いあると思っていたのに全部空回りじゃねーかぁぁぁッ!」


 と発狂する男性――ライネスがいた。

 そうライネス――俺はレオがいない間、ずっとナンパしていたのだ。

 なぜって――そりゃ、彼女欲しいからだよ! 現実逃避レベルの恋物語しているレオとは違って、俺はナンパや偶然な出会いとかで恋愛したいんだよッ!! 

 なんて心の中で叫びつつ、手あたり次第可愛い子と接近してみたのだが、結果は全部ノーだった。思い人が居る、彼氏いる、ナンパはタイプじゃない……そんな理由で全部断られてしまったのだから。


「ちくしょぅ……パーティーのセレブどもッ……脳がとろけるほどの美男子がここに居るっているのに、なんでタイプじゃないって言うんだッ! 昔の幼馴染と付き合っている人もッ、そんなブ〇な奴になんで惚れたんだよッ! ちくしょぅ……」


 むぎぃぃっ……と嫉妬してハンカチを噛み締めながら、先ほど振られた女どもを睨んだ。クソクソ……リア充〇ねッ! なんだよッ……なんだよッ! 


「くそぉぉぉぉぉっ……」と嗚咽を溢す。睨んだって女どもはこちらの方に向いてはくれない。もう……諦めよう。好みの女だったのになぁ……と思いながら、てくてくとバイキングの方へ向かった。ナンパしているうちに何故か腹が減ったのだ。もうヤケ食いして、この事を忘れよう。その方が一番いいんだ。


「牛ステーキ、十枚……」とバイキング皿に置いたステーキ肉を欲張って、お皿の上に盛りつけた。あと、鶏肉炙り焼き、豚トロの焼肉、ローストビーフ……もう肉系全部寄越せっ!


「モグモグっ……モグモグッ! あー美味しッ! モグモグ……」


 貪るように食べる。めっちゃ美味しい! もうナンパの事なんて忘れてしまおう。


「モグモグ……モグモグ……モグ――――グッ!?」


 忘れてしまおうとがっついて食べていた瞬間、どっごんと言う爆発音が響いた。


「ヴぁ……ヴぁんだぁぁぁっ!?(なんだぁぁぁっ!?)」と、爆発の衝撃で驚き、食べ物を喉に詰まらせてしまった。


「ばばばっ……!? 水水ッ!」


 咄嗟にテーブルの上にあったコップ一杯の水を手に取りがぶ飲みした。


「な、なんだ?」


「爆発――?」


「おいおい、一体どうなって――」


 ザワザワ……ザワザワ、とパーティーの招待客は不安そうな表情になっていた。


「――何が起こったんだ?」と、俺は入り口の扉へ向かい、ゆっくりと扉の向こうの廊下を覗くと、靄がかった白い煙が広がっている。そして、誰かの声が聞こえる。一体誰の声だ……少なくともレオの声音じゃないよな?


「ゲゲゲッ……王宮二ノリコメタッ!!」と言う声音が広い廊下に響かせていた。


(この片言口調は――――まさか、邪竜洗脳者!?)


 そうなると、さっきの爆発音は邪竜洗脳者がやったのか。マズイな……邪竜洗脳者がこちらに来れば会場はパニックになりかねない。その混乱に乗じて国王様とここに居るみんなは皆殺しにするつもりだろう。

 まあ幸い先ほどの爆発の瞬間に比べたら動揺はする人は少なくなっている。多分花火が上がったんだろうと気楽な考えをしているかもしれない。まあ、気楽な考えのままパーティーを続けて欲しいのだが……。その方がパニックにならずに済む。


「えーご来賓の皆さま!」


 そう考えていた時、国王様は席を立ち皆の注目を浴びるように声を上げた。


「先ほど爆発したという報告がありました。あの爆発は我々が用意した花火が爆発です。パーティーの最中、こんなご迷惑をかけてしまって申し訳ございません」

 

 国王自ら謝罪の言葉を述べていた。一体なぜだ……? 邪竜洗脳者がすぐそこまで来ているのに、なんで嘘をつくんだ? 

 嘘だという事がバレたら、国王の責任になってしまうぞ。本当にそれでいいのか?


「――ライネス・アーガリア様でしょうか?」


 考え事をしたとき、突然背後から男性の声がかかった。一体誰だろう……と振り向く。その声の主は大柄な男でパーティー礼装を身に纏っている。スーツのバッチ付けに一つ星の模様が入ったバッチを付けていた。


「あ、貴方は……王宮警備騎士の方ですか?」


 王宮警備騎士――ざっくり言うなら王宮を警備する騎士の事である。けど、王宮警備騎士になるには勉学と実績は当たり前の事はもちろんだが、もう一つ――国王からの騎士としての優秀表彰を貰わないと警備騎士になれない。因みに優秀表彰と言うのは、最も国に尽力を注いだ人物、国民に対して色々やった人物など……それほど国王様に信頼してもらえないと受賞されないらしい。

 そんな人物が下級騎士の俺に一体なんの用があるんだ?


「えぇ……そうです。ここからは耳打ちしますので――」


 と、王宮警備騎士の男は俺の耳に合わせるように腰を屈ませた。


「まさか、パーティーに来ていたなんて思ってもいませんでした」


「たまたまですよ――国王を慕えるエリート様が俺に何の用でしょうか?」


 嫌味交じりに男に質問する。


「国王様からの言伝があります」


「国王様から俺に?」


 一体何の事だろう?


「『まさか、富豪アーガリア家の息子の君がパーティーに参加していたとは……。まあ、それはさておき――王の命にて、王宮内に侵入した邪竜洗脳者を討伐せよ。ただし、パーティー会場の招待客に悟られないように注意する事』と言っておりました」


 ……なんだよ。国王様、あの爆発は邪竜洗脳者の仕業だって知っていたのかよ。

 まあ、邪竜洗脳者が王宮内に侵入している事を知っていてよかった。それと――王の命令は絶対だしな……。


「――了解。あと、国王様に言伝を頼めるか?」


「何でしょう?」


「パーティー会場の出入口を塞いでくれ――と」


「わかりました。では、討伐の方をお願いいたします」


 ぺこりと一礼した後、男は国王様の方へ向かって行った。


「全く――人使いの荒い国王様だな……」


 なんて愚痴を溢しながら、廊下へ向かった。

 バタン……と扉を閉めて広い廊下を眺める。白い靄と煙たい臭いが充満している以外、変哲の無い普通の廊下だ。


「さて……行きますか――」と言って、レッドカーペットの上を歩き始める。今の俺は警戒心むき出しだ。邪竜洗脳者がいつどこで現れるか分からない……。


(討伐しろとはいえ、誰もいないよな?)


 キョロキョロと見回すが、俺以外誰一人と人の気配がない。まあ、もう少し先に進んでみよう。もしかしたら――一人ぐらい入るだろう。

 そう考えていると、うねりくねりと挙動不審の黒いローブを纏った人影があった。


「いた……か」と、ぼそりと呟く。


「ゲゲゲゲゲゲ……ッ! ダレカイタゾッ!?」


 案の定見つかってしまった。さて……どう始末しよ――――


(しまった――武器、持ってこなかったんだ)


 早速しくじった。どうする……武器は持っていない。仕方がない……相手の武器を奪うしかない。

 幸いな事に邪竜洗脳者の手に剣がある。それを奪う!


「シネシネ! リュウノゴカゴヲシラヌオロカモノォォォォォッ!」


 大雑把に剣を振り回す邪竜洗脳者。乱雑すぎるんだよッ!

 ブンッ……と振り回す剣戟を躱し、邪竜洗脳者の背後を付く。


「グゲッ!? ナ、ナンダ……!?」と、驚いた口調で背後を振りむいた瞬間、顔面に向けて殴りかかった。


「グホッ……!?」


 殴られた衝撃でふっとばされて壁に激突し、カラン……と握った剣を落とした。


(いまだッ!)


 再び剣を握らされる前に急いで拾う。そして拾った時のスピードの勢いを止めず、片足を地面に押しつけるように踏み込んだ。


「くたばれッ!!」


 ザシュッ……とバットを振り回す原理を使って、邪竜洗脳者の首を落とした。壊れた噴水のように噴き出た血がシャワーになって、俺の体を真っ赤に染め上げていく。

 死んだ事を確認した後、先に進んだ。いったい何人いるのか想像できないけど、二桁居るか居ないかってところかな? この誰もいない空気になると……。


(さて……どこにいる?)


 たたたた……と廊下を駆け抜ける。しかし、さっき邪竜洗脳者を倒して以降、一人も見かけなくなった。一体なぜ……?


「ギャァァァァァッ!?」


「くたばりやがれッ! このクソどもがぁぁぁッ!」


「後ろ、一体――――」


 先を進むと、悲鳴と咆哮が混じったカオスな声音と鈍い音が廊下中に残響させていた。


(誰か、戦っているのか!?)


 そうなら応戦しなくては……と思い、急いで現場へ直行した。

 突き当りへ着き右の曲がり角を曲がると、「うっ……」と呻き声を発する地獄絵図の光景が広がっていた。


「な、なんだ……し、死体の山が……」


 そこには夥しい数の邪竜洗脳者の死体の山が積み重なっていた。温かな色の壁紙が真っ赤に染まって、まるで殺人現場を連想させるような光景だ。


「クソったれぇぇッ!」と誰かが咆哮を轟かせていた。真っすぐ視線を向けると、二人の人物が多数いる邪竜洗脳者と戦っていた。


「あれは……」と目を細めて人物の顔を確かめる。


「――あ、アーシェ様ッ!?」


 アーシェ様が戦っているのか!? それともう一人は――誰だ?

 髪が白くて、レオと同じようなキレのある攻撃方法で、少し華奢な体付きの……。



「―――――メイドさん?」と呟いた。

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