EPISODE Ⅱ 『パーティーと雪月の誓い』
Chapter Ⅰ 初めての王宮内
――夜、王宮前大通り。
いつもなら居酒屋や屋台で盛り上がっている筈なのに、今日は――――それ以上に盛り上がっていた。屋台も普段より倍ぐらい出店していた。中には、普段居酒屋でやっている馴染みの店も今日は屋台でやっている。今日って何かあったっけ?
「まあ――今日はクリスマスだから、居酒屋も屋台も張り切ってやっているよな」
一緒に付いて来たライネスが、キョロキョロと王宮前大通りを見回す。
そう――今日はクリスマスの日。クリスマスだから飲みに行こうや……と考える人が多いのだ。たとえこんな雪が積もった場合でも客足は絶える事はない。家族と一緒に外食をする人もちらほらいた。
「まあ、な……」
「しかし、アーシェ様からクリスマスパーティーに誘われるなんてなぁ~~。スゲーよ、一体どうしたんだ?」
「言っただろ? たまたまアーシェから誘われたんだよ」
「ハイハイ、たまたまねぇ~~本当は盗んだりして…………」
「んなわけねーだろ! ぶっ倒すぞ!」
「へへっ、冗談だよ」
全く――冗談好きのライネスめ……今度こういう誘いがあったら二度と誘わないようにしよう。そう誓う俺であった。
「お、そろそろ王宮正面じゃないか?」
ライネスが指を王宮正面門に差して言う。「そうだな」と相槌を打って、胸ポケットにしまった招待状を取り出した。正面前にいる騎士たちに招待状を見せて入場するためだ。
「どうもお疲れ様です」
騎士たちに敬礼した後、アーシェから貰った招待状を騎士に渡した。
「――ん、招待状……。よし、通りたまえ」
騎士が招待状を確認すると、ぎぎっ……と不気味に唸らしながら正面の鉄格子の門を開いた。
「ほぇぇぇ……すげぇ」
ライネスが驚いた表情で言う。
王宮の敷地内に入ると、王宮へ通じる一本道の坂がある。その道の端に花壇があった。しかし、今は冬なので咲いている花は一輪もない。ちょっと寂しいけど、冬の時期だから仕方がないと思う。まあ、温かい時期になればきれいな花が花壇一面に美しく咲くだろうな。
「だなぁ~~王宮の庭ってすごいよな」
なんて俺も驚きの声を上げながら、坂道を進んでいく。
「ふぅ……ついた」
坂を登り終え、王宮の正面玄関前に着いた。そこにも騎士たちが警備にあたっていた。
「どうも、ご苦労様です」
警備する騎士たちに向けて軽く一礼をして、正面玄関に入った。
(ほへぇ……玄関もすごい豪華――)
入った瞬間、そこはまるで劇場のようだった。入り口から高級感あふれる壁とレッドカーペットが出迎えている。天井には玄関に置くのはもったいないシャンデリアが吊るされ、キラキラと華やかに輝いていた。そして、異常なまでの広さ――これはもう部屋と言ってもおかしくはないだろうか? だって、玄関って素朴なイメージじゃん! こんなに広々としていないじゃん!
「なあ、ライ……本当に玄関なのか? これ」
ちょんちょんと肩を指で突っついて、ライネスに質問する。
「玄関だろ? うちだってこの半分ぐらいの広さを持っているぜ」
なんて、答えを返した。そう言えば、ライネスって富豪の息子だもんな。このぐらいが基本的な玄関の広さなんだろう。
「それよりも、パーティー会場へ行こうぜ。俺腹減ってきたわ」
ライネスがそう提案する。そうだな……玄関の広さに呆気に取られているなら、早くパーティー会場に行って食事していた方いいな。
「そうだな。早く会場に行って飯食おう」
ライネスの意見に賛成し、レッドカーペットが広がる廊下を歩き始めた。
しかし――本当に廊下が広すぎだし、果ての無い程長いよな。無事にパーティー会場に着くのかな……? ちょっと不安になってきたんだけど……。
てくてく……。あれぇー会場の入り口どころかドア自体無いんだが。本当にパーティー会場があるのか?
「なあ、レオ。パーティー会場何処だ? 全然見当たらないんだけど」
「何処だろう……?」
「それなら、さっきの騎士になんで会場の場所を聞かなかったんだ?」
「――あっ!? くっそぉ……何てことだぁ……聞けばよかったぁぁ……」
ライネスの言う通りじゃん……なんで俺は会場の場所を騎士たちに聞かなかったんだろう……? まあ、まっすぐ行けば何とかなると思って聞かなかったんだ! あぁ……予想外だ。こんなにも廊下が広かったなんて……しかも部屋のドアすら見当たらないなんてぇ……一体どうすればいいんだぁぁぁッ!?
「何騒いでいるの? って、さっきのゲスヤロウ!?」
ゲスヤロウと言われたので、「あぁ?」と重い声音を発して背後を振り向いた。
そこにアーシェの侍女――レイシアが不機嫌そうな表情でこちらを見ていた。
「……えげぇ」
毒舌残念侍女――レイシアに会うなんて……はぁ、最悪だ。もう会いたくないと思っていたんだけど、また再開するなんてなぁ……。
「『えげぇ……』とは何よ! 私だって、アンタに会いたくなんて無かったわよ」
酷い言われようだ……。まだ俺の体にぶつけた事に対してまだ謝ってもいないのに、えばった態度をとるよな。
「お、なになに!? レオ、この子知り合いなの!?」
空気を読めないライネスが、俺の肩に腕を置いてレイシアの方へ視線を向ける。
「あーまぁ、そのだな……成り行きと言うか~~偶然と言うか~~」
あぁ……どうしよう。どう説明すればいいんだ……? アーシェの侍女とストレートに言うべきなのか? それとも誤魔化すべきなのか?
なんて難しく考えていると、「はぁ……」と溜息交じりにレイシアが先に口を出した。
「アンタ。このチャラ男、何?」
「あー俺の騎士学校の馴染みだよ。名前は――」
ポリポリと頬を掻いて彼女にライネスを紹介しようとした矢先、ライネスが「ハイハイ~~」と出しゃばってきた。
「ライネス・アーガリアと申します! もしよろしければ俺と付き合――――ぶべろしょっ!?」
ナンパしようとするライネスに向けて、腹に拳を放った。
「何ナンパしているんじゃ!」
「ごごごぉ……レオ……、これは……ナンパじゃない」
「じゃあ、なんだ?」
「これは――――友達申請じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ぼごろしょっ!?」
再びふざけたセリフにムカついた俺はライネスの胸倉を殴った。
「同じだろうが、この能天気」
「ごぉほ……ぉ……レオ、てめぇ……肺の方を殴っただろ――く、苦しぃ……」
「馬鹿に効く薬だ。しばらく我慢して――――」
ふと俺はレイシアの姿を眺める。出会った時の気品の礼服から薄手の漆紅のドレスに着替え、化粧映えで結構美しい表情、ロングヘアからサイドポニーテールに結っている。毒舌じゃなかったら、美しい女性なのになぁ……。
「何、アンタ? 変な目で見ているの?」
レイシアは嫌味交じりに、ぎろりと獲物を狙う目で俺を睨む。
「いやいや、全然!」
全力で首を振って否定する。変な目で見ているわけないだろ……美しいから見とれてしまった――いや、違う違う! 見とれているは変な目じゃない!
「はぁ……アンタたち、パーティー会場の方へ向かおうとしているでしょ?」
ため息を溢して、レイシアは話を切り替える。こんな話はもう付き合えない……と思っているだろう(勝手な解釈)。
「えぇ……まあ、ちょっと迷ってしまって――」
「そう――本当なら見逃してパーティー会場に行こうと思っていたけど、アーシェ様に招待された客人を遅らせてしまえば怒られてしまう。仕方がない、一緒についてこい」
毒舌交じりだけど、レイシアは俺達をパーティー会場まで案内した。
「お、おう……」
俺達はレイシアの後に付いて行く。
「おい、レオ! アーシェ様から貰ったってどう事なんだ!?」
ライネスが怒鳴るように言う。
「た、たまたまだよ……。参加する人が二人空いたから、どうかって誘われたんだよ」
「へぇ……たまたまねぇ~~勇者ぶって、貰ったんじゃないのか?」
「ち、ちげーよ!」
「はいはい、たまたま会って貰ったことにしておくよ――にしししっ」
絶対揶揄っているだろ……。
「アンタたち、早く来なさい。パーティーに遅れるわ」
「お、おう……分かった」
レイシアの言葉に頷いた後、彼女の後を追った。
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