Chapter Ⅱ 食事タイム
レイシアの後を追って、数分が経った。広々とした廊下をうねりくねり……と歩き回っている。何時になったらパーティー会場に着くんだ? もしかしてレイシアの奴、俺を揶揄ってぐるぐると廊下を回っているのか!?
「着いたわ。ここがパーティー会場よ」
そんな事は無かったな。普通に歩いたら、金属で出来た装飾のある二枚扉の前に着いた。なんというか豪華な装飾の扉だな……とそう思った時、レイシアは扉をぎぎっと重々しく開いた。
「おぉ……すげぇ!」
扉の向こうに待っていたのは、パーティー初参加の俺にとってすごい光景だった。華やかなドレスや礼服を纏った招待客と王族たちが食事と酒を楽しみながら会話をしていたり、雰囲気を和ませるかのようなクラッシックの生演奏を流したりしていた。そして、近くにはバイキング形式で滅多にお目にかからない食材を使った料理が振る舞っている。
「あぁ……なあ、これって全部食べてもいいのか!?」
だら~~と涎を垂らしながら、レイシアに質問した。
「そうよ。あと涎垂らしてキモイ」
なんて毒舌交じりで答える。あっ……涎垂らしてキモイって言われちゃった。イケナイイケナイ……こんな豪華な食事なんてした事無いからなぁ……涎垂らしてしまうのも仕方がないもん!
「こ、これが食べてもいい――ゴクリ」
豪華な食事が――食べられる……やべぇ……早く食べたい。しかもバイキング形式だから、実質食べ放題じゃん。あぁ……庶民の俺には刺激が強すぎる! 食べたい……食べたい……食べたい……。
「よ、よし……行くぞ」
まるで戦場に赴くかのような気持ちで、俺は高級食材が並ぶバイキングへ向かった。
お盆と皿を持ち、バイキングに盛られた食材を皿の上に盛りつける。あぁ……これも、あれも、それも……全部大量に盛り付けよう。
「おぉ……これはアスタリア高原で作られた牛ステーキ!? 普通なら五千メドルする高級牛が、たくさん食べられるなんてぇ……すげぇェェェ!!」
ポンポンとステーキを皿の上に盛りつける。こんな高級牛、二度と食べられねぇーぞ……こういう時に沢山食べなきゃ!
「おい、レオ。そんなに欲張らなくてもいいだろ……」
「シャラーップ!! 高原牛なんて二度と食べられない代物だぞ! こういう時にがっついて食べるんじゃッ!!」
ライネスの言葉を無視する。こんな食事二度と来れないかもしれない。そうなるぐらいなら、欲張ってでも沢山食べるぞっ!!
そう考えた俺はステーキ肉を六枚ぐらい欲張った。
因みにこの高原牛はアスタリア高原と言う場所で作られている。その近くに聳えるアスタリア山でろ過された湧き水と牧草、高原で作られた野菜などを牛に与えて育てられた。食べ応えもよくトロリと甘さのある牛油が締まっているので、一度食べたらフォークとナイフが止まらなくなるという程とびっきり美味いのだ。ただこのような味のある味になるには四年の歳月をかけているので、生産と流通は少なく高級牛として知れ渡っている。
「これも……あれも……」
サラミ、サラダ、キャビア、トリュフ……高級食材をどんどん皿の上に載せるぞぉぉぉぉッ!
(よし、このぐらいでいいかな?)
沢山の料理を盛ったら、テーブルの方へ置こう。
近くに人のいないテーブルを見つけ、そのテーブルの上にお盆を置いた。
「よーし、いただきまぁーす」と言った後、山盛りの高級食材を使った料理を食べ始めた。まずアスタリア高原で作られたステーキ牛を一口――パクリと口に入れる。
そして――びしりと体中に雷が打たれたかのような電流が走り、俺の目玉が飛び出そうになった。
「う、う、ウマあああああああああああああっ!!」と、内心で叫んだ。しかし、この肉旨い! まるでトロのような甘い牛油が口の中で広がっているぅ~~肉は柔らかくて噛みちぎれやすく食べやすい。それに油でギトギトすると言った口の不快がそれほど感じない。どちらかと言うとさっぱりしているのか? 油なのにさっぱりっておかしいと思うけど、普通の安い肉と比べたら本当に脂っこくないんだってばッ!!
え、なんで内心で叫んだかって? 流石にこんな豪華なパーティーで発狂するわけにはいかないからな。マナーをしっかりと守ろう、うん。
「少なくとも食べ放題の量を考えろよ……マナーだろ」
ライネスが俺の心を読んだのか、軽くディスった。
「あぁ? いいだろ、折角の食べ放題だしさぁ~~こういう時に食べねーとダメだろ」
「まるで貧民がはじめて高級料理を食っている姿だぞ、今のお前は」
「いいだろ、俺は高級料理の食べ方の作法を知らねぇーんだから」
「はぁ……こういう料理はな、がっつかないで上品に食べるんだ。こういう風にな」
ライネスの方を見ると、ステーキ肉を物音立てずにナイフで切断してフォークでパクリと一口食べた。
「流石、富豪育ちのお坊ちゃま! フォークとナイフの扱いうめぇなぁ~~」
ライネスに誉め言葉を言いながら、ステーキ肉をがっつく。うん。美味い。本当にフォークが止まらなくなるわ、この高原牛。もう、安物の牛肉に戻れなくなっちゃうぜ。
「はぁ……まあいいか、これ以上言ってもレオの耳には入らねーし」
俺の事を放って食事を取ることにしたライネス。
「うま、うま、うまっ」
ライネスの言葉を聞き流して、ステーキ肉をがっつく。
「って、お前――さっきから肉だけしか食ってねーじゃん!」
「いいだろ、肉好きなんだし。しかも食べ放題だし、がつがつ食べるし」
「あ、そ……」と、ライネスは相槌を打った後、再び礼儀正しい食事をしていた。
「お、国王様とアーシェ様がご来場したぞ!」
一人の客人がそう大声で言うと、一斉に国王様たちを探し始める。そして国王様たちが入り口の方から来場し、一斉に視線を向けて拍手で出迎えた。
「おぉ……国王様、アーシェ様――」
「素晴らしい――アーシェ様の衣装、天使のようだ……」
――などと二人の来場に素晴らしい感想を言う招待客。同感だ……まるで妖精と天使が舞い降りたかのような雰囲気を醸し出していた。
「アーシェの衣装――」
一人の招待客が発した言葉を傾け、アーシェの姿を見る。絹のような長いブロンドを網状に編み込み、冠のようにぐるりと巻いている。そして穢れを知らぬ真っ白な生地と黒いラインが入ったドレス衣装を身に纏っていた。
「――――可愛い」と、呆然とした表情でドレス姿の彼女に見惚れていた。今朝出会った時とは違う雰囲気がある。うまく説明できないけど、凛々しい大人の女性というモノを醸し出している。
なんてアーシェの姿を見つめているうちに国王様とアーシェは入り口の近くにある席に着き、テーブルの上に置かれたワインを手に持った。
「皆様――本日はお忙しい中、クリスマスパーティーにご参加くださりありがとうございます。今晩は楽しいパーティーにしましょう――では、乾杯!」
国王様が乾杯の合図を出すと、招待客全員「乾杯!」と言ってグラスを鳴らした。
「ライ、乾杯」
「おう、乾杯」
俺とライネスも周りに合わせてカンとワインの入ったグラスを鳴らし、ゴクリと一口飲んだ。うん、美味い――ブドウの甘さがぶわぁっ……と口の中に広がってくる。後にやってくる絶妙な酸味がブドウワインの味を際立たせる。
「うめぇな、このワイン」と言う。
「だな……これはアスタリア高原で作られたブドウかな?」
「おめぇ、ブドウの産地でも分かるのか?」
「まあ――ちょっとな……最近ワインに凝ってね」
「酒の弱いおめーが? 珍しいに」
「ま、まぁな……紳士の嗜みとしてな」
酒が弱いのに紳士の嗜みとはねぇ……ライネスにしては似合わない嗜みだな。一体どんな風の吹き回しだ?
「隣、よろしいかしら?」
「えぇ、いいで――すっ!?」
可憐な女性の声音が聞こえて振り向くと、アーシェが居た。
「あ、アーシェ――様!?」と、思わず驚いて声が裏返った。
「さっきぶりね、忙しい中パーティーに来てくれてありがとう」
「あ……はぁ、どうも……」
ぺこぺことお辞儀する。や、やっぱ……アーシェが前に居ると緊張しちゃうな……。それにキスもしちゃった事だし――――むっ!?
今朝のキスシーンを思い出した俺はボンと急に顔が熱くなった。な、なな……き、キスってむむ……あ、アーシェの唇柔らかった。それに……いい香りしたよな……。
「どうしたの? 熱でもあるのかしら?」
心配そうにアーシェは俺の顔をじっと覗き込んだ。あ、あれ……か、可愛く見える。アーシェってこんなに可愛い顔していたっけ?
「い、いえ……大丈夫です」
「そう――大丈夫ならいいわ」
ポンと俺の胸を軽くたたいた後、バイバイと手を振って去った。
「――アーシェさ……ん?」
あれ……胸元のポケットに何か入っている?
ゴソゴソとポケットから取り出すと何重にも折りたたまれた一枚の紙が入っていた。こんな紙胸ポケットに入れていたっけ?
(なんの紙だ?)
とりあえず、胸ポケットから取り出して紙を開く。その紙には英語の文章が緻密に書かれていた。なんて書いてあるんだ……この手紙は。
『今すぐテラスの噴水に一人で来て。少し話したい事があるわ。ただし、誰にも気づかれずに来ること。アーシェ・ジュリエット』と言う文章と王宮内にあるテラスへ向かう地図まで書かれてあった。
(アーシェから呼び出し……? 俺に? なんで?)
アーシェに呼び出されるような事でもしたのか? そうは言っても、心当たり無いんだけど……うぅん。
(まぁ、とりあえず行ってみよう。行かなかったら怒られそうだし……)
そう考えた俺は先ほどの手紙をぐしゃりとポケットに突っ込んで、パーティー会場から立ち去った。
「おい、レオ。何処に行くんだ?」
早速ライネスに気づかれてしまった。こっそりと行きたかったのになぁ……。
「あ、あぁ……ちょっとトイレにな」
「そう、腹でも下したのか?」
「ま、まぁ……そんなところかな?」
「ふーん、まあ迷うなよ」
「お、おう」と相槌を打った後、俺はパーティー会場を出てバタンと扉を閉め寄りかかった。
(あっぶねぇ……ライの奴気づかれていないよな……)
誰もいない事にキョロキョロと視線を回した後、俺はアーシェが待つ王宮内にあるテラスへ向かった。
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