Chapter Ⅳ へ、変態ではない!【R15】
――雪月の誓いをした後、俺はカポンと風呂に浸かっていた。
「ふぅ……あったけぇ……」
あの後俺とアーシェはパーティー会場に戻ろうとしたが、途中で使用人に見つかって「ずぶ濡れじゃないですか」と怒られた。その後強制的に風呂の方へ向かわされたのだ。
(しかし……王宮内の風呂ってでけぇーよな。一人じゃ、勿体無いぐらいに……。おまけに王宮前大通りを一望できるようにガラス張りしているなんて……すげぇわ。これって所謂、室内露天風呂ってところか?)
なんて思いながら、湯船につかっていた。外に灯る淡い月光が差し込んで、光が無く暗い風呂場が幻想的に灯していた。そして湯船の鏡に満月が映し出されている。
「――ふぅ。夢じゃないよな……」
本当にアーシェと付き合う事が出来たなんて……夢ではないかと疑い始める。一応確認の為、ギューッ……と頬を抓った。
「……痛ぇ……本当に夢じゃない……」
つまり……これは夢じゃないって訳? それって――――
「うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! やってやったぜえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!! どうだぁぁッ! 俺をバカにした者どもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 見ているかぁぁぁぁぁぁッ! やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! やってやったぜぇぇッ!! きゃっほおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
とりあえず、遠い夢だと思われていたアーシェと付き合えた事に叫んだ。夢オチでもねぇ! すげぇ……! 俺、やってのけたぜぇぇぇぇぇッ!! 『アーシェ様と付き合うのは無理』? 『アーシェ様は高嶺の花』? そんな古臭い概念を俺はぶち壊してやったぜぇぇぇぇぇぇッ!!
「うっしゃぁぁぁぁッ! やってやったぜぇぇぇッ! 誰もいない風呂場で泳ぐぜぇぇぇぇぇッ!!」
じゃばじゃば……と誰もいない浴場でクロール泳ぎする。これは……そう、宴だ。泳いで宴を盛り上げよう。俺の夢が叶った宴の始まりなんだからな!
「ははははッ! いいぜいいぜ! 最高乗ってやんのぉぉぉッ! がハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
よっしやぁぁぁッ!! のぼせるまで泳いでやるぜぇぇッ! ヒャッハーッ!!
「――すいません! ちょっとよろしいでしょうか?」
こんこんと脱衣所からノックと使用人(男性)の声が聞こえた。その瞬間、俺は泳ぐのを止めくつろぐ姿に変えた。勿論、誤魔化すためである。こんな姿を見られたら恥ずかしいじゃん!
「あ、はいぃっ! な、なんでしょうがッ!?」
「えっと……濡れた服はこちらの方で洗濯します。着替えの方ですが、隣部屋の更衣室まで来てください。ご用意しますので」
「は、はい! わかりました」
「では……失礼しました――」と言って、使用人は立ち去った。
ふ、ふぅ……何とか誤魔化せた……。と言うか、見られなくて良かった。アーシェと付き合っている事がバレる発言しちゃったからな……。バレたら、アーシェとの繋がりが立たれてしまう……。
「――とりあえず、風呂から出て着替えよ」
とりあえず、宴は中止しよう。また叫んだら、今度こそバレてしまう。ザバン……と風呂から上がって、脱衣所へ向かった。
(ふぅ……気持ちよかった……。着替えは――そうだ、隣部屋に用意しているって言ったよな……)
しかしどうしよう……全裸で隣部屋へ行くべきか? それともタオル巻いて行くべきか? どうする?
(タオル巻くのもめんどくさいし、そのまま廊下に出て隣部屋へ行こう)
そう考えた俺は、何も纏わずに脱衣所から廊下へ出た。とりあえず、誰も気づかれずに隣部屋の更衣室へ向かわなければ……。
「ふぇっ!? なななななっ……なななななッ!?」
脱衣所から出た瞬間、アーシェがばったりと出くわしてしまった。しかも俺と同じことを考えたのか、彼女も豊満な果実が露わになった姿――つまり全裸姿で廊下を歩いていた。
(や、やべぇ……アーシェの体、エロい――!)
な、なんという滑らかなラインな体つき、豊満な果実、恥じらう顔――素晴らしいぃぃぃぃっ!!
「な、なななななっ! 何やっているのぉぉぉぉぉぉぉッ!? ぜぜぜぜぜ全裸ぁぁッ!!」
あわわっ……と俺の全裸姿を見て、アーシェは動揺していた。
(や、やべぇェッ! 恥じらう姿もかわぇぇぇぇっ! このままアーシェを襲いたい。ねぇ……襲ってもいいよねぇぇぇぇッ!?)
涎を垂らしてワシワシと胸をもむような仕草をしながら、アーシェを見つめる。
「や、やあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!! こ、こっちに来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! この――露出変態痴漢おっぱい星人がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
アーシェは裸体を隠していたタオルを丸めて、俺の顔面に向けて超速球で投げた。
「ぶごっ!?」
「ぜ、前言撤回ッ! アンタはやっぱり変態魔人だぁぁぁッ!!」
バコン……と丸めたタオルが顔面に直撃した。その後、アーシェは逃げるように隣部屋の更衣室へ逃げ込んでいった。
「――――」
全裸のまま彼女が立ち去る姿を静かな目で眺める。第三者からみると、変態的で勇ましい姿にドン引きされるところだろうか?
(なんか……すいませんでした、アーシェさん。でも、これだけは言わせてください。アーシェの(自主規制)最高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉでしたぁぁぁぁッ!!)
反省はしても、アーシェの裸姿を見られたことに感謝する俺であった。
「と、とりあえず、俺も更衣室へ行こう。さ、流石に隣部屋って言っても別々で分けられたるでしょー?」
今度こそ誰かに見られたら、変態だって思われてしまう。そう思われたくない……そう恐怖を感じた俺は颯爽に隣部屋の更衣室に駆け込んだ。
「ふ、ふぅ……これなら――――」
大丈夫だな……と言おうとしたが、その部屋は俺が考えた分かれている構造ではなくごくごく普通の更衣室だった。そんな訳だから、当然先ほど逃げ込んで入ったアーシェは目の前に居るわけで……あった。
「なななななっ! な、なんでまたレオくんがぁぁぁッ!?」
なんて驚くアーシェ。もう全裸を見ても動じないぞ――息子以外は動じないぞ!
「あーうん、ここに着替えがあるって言うから来たんだよ。それでここに来たんだ」
とりあえず、アーシェに説明する。覗きで入ってわけじゃないという事を証明しないといけない。これ以上、変態的な行動で破局になっちゃ洒落にならないわ。
「あ、あ、あわわっ!」
アーシェの顔がさらに真っ赤になって口をもごもごしながら動揺していた。
「お、落ち着けよ! 何もしないから、落ち着け!」
「あわぁぁ……わぁぁぁぁ―――――」
やばい……さらに動揺が強くなった。どうすれば彼女の動揺を止められることができる? 考えろ……考えろ――――そうだ、ライから借りた恋愛雑誌のような事をやってみよう。確か……動揺している時は、こう――抱きしめるんだよな?
顔を真っ赤に染めたアーシェに近づき、彼女の体を包み込むように抱きしめた。アーシェの体……大剣を振り回せるほど腕力あるのに細く華奢で、もっちりと柔らかく雪化粧のような白い肌。まるでアスタリア王国を授かる女神さまのような雰囲気だ。
(や、ヤバい……可愛すぎ!)
アーシェの顔が見れないのは残念だけど、こうやって抱きしめるだけでも最高の気分だぜぇぇッ!
「あわ……あわわわわっ……わ――――っ」
照れる表情も可愛い……で、でも、アーシェを落ち着かせないと……!
「ど、どうどう……どうどう……。落ち着け……落ち着いてぇ……」
ポンポンとアーシェの背中を優しく叩く。こ、これなら落ちつくだろう。
「落ち着いて……落ち着いて……」
「わ―――わ……あ……う……ふぅ」
よ、ようやく落ち着いてくれた。よし……次は――どうすればいいの?
(ど、どうすれば……いいの? その先の事、全く考えていなかった)
「――で、レオくん。落ち着かせてくれたのはいいとして、なんで女子が着替えているところに入ってくるのかなぁぁ~~?」
一旦アーシェの体を離すと、優しい表情で口調はめちゃくちゃ怒っていた。こ、怖い……優しい声音で怒るのは気味悪いんですがッ!
「ご、ごほん……えー、なんせ着替えがここにあるって言うもんでここに来たんだ。と、とにかくだ……文句は使用人にお願いします!」
とりあえず、使用人に罪をなすりつけよう。お、俺が間違えて入ったわけじゃないし!
しかし、アーシェの表情は不気味に微笑んでいた。何時でも追ってもおかしくない程、目元辺りを暗くしている!
「こ、このトーリでございます! ゆ、許してくださいましぃ! アーシェさん!」
こうなったら最後の手段……土下座しよう。そう考えた俺は、アーシェを崇めるように土下座をした。これで許されなかったらどうしよう……破局かなぁ……どのみち最悪な事になるのは間違いない。果たして―――
「――――分かった、貴方の言葉を信じます。後で使用人にみっちりと叱っておくわ。それと……さっき廊下で言った事――それも撤回するわ」
あっさりと許してくれた。俺は思わず「ふえっ!?」と驚きの声を上げた。
「なによ、許してあげているのに無にするわけ?」
「え……いや……その、ちょっと驚いちゃって――で、でもいいの!?」
「いいわよ……さっきの決闘の件もあるし、そ、それに――――(官〇小説に書かれてあった『自主規制』……見れたし……)」
アーシェは顔を真っ赤にして途中から声を小さめにして喋った。何言ったんだ? 後半全然聞き取れなかったけど……まあいっか。
「と、とりあえず、着替えましょう! 近くに仕切りカーテンあるからそれ広げて!」
「お、おう!」
言われた通り、シャーと目の前にあったカーテンを閉めた。と、とりあえず……これで大丈夫だよな。お互いの裸、これで見れないよな……。
「さーて……着替えよう。服は――あれ……」
脱衣所のような棚構造のロッカーを見渡すが、服が見当たらない。あれ……着替えがない……?
「ねーアーシェ、そこに男性用の着替えってないか?」
「んー? ちょっと待ってね……あれ? 女性用の衣装が二着……?」
おい……どういう事だ? なんで女性ものの服が二着あるんだ? まさか……間違えたのか?
「全く……誰だろう? 女用と男用の着替えを間違えるなんて――」
「ちょ……冗談でしょ? なんで女物……? こ、交換した方が……」
「そうね……使用人に伝えて交換――――って! そう言えば、ここの担当の使用人は今日風邪で休んでいるんだよねぇ……それに他の使用人たちはみんなパーティー会場の方で準備やバイキングの盛り付けなどしているんだよね……」
「じゃあ、早速パーティー会場から呼んできてもらえるか!?」
そうアーシェに提案するが、アーシェは「あぁ……うん」」と言葉を濁していた。
「えっと……その……呼ぼうにも、今日……日雇いバイトの使用人しかいないのよ……いつも慕っている執事とメイドさん……昨日から殲滅戦の方へ行っちゃったし……」
ブルブルと口を震わせながら答えた。な、なんという事だ……日雇いバイトという事は着替え用の服の場所を知らなかったんだろう。
というか、なんで女性用を二着? おかしいだろ……普通に男ってわかるでしょ……。どんだけおちょこちょいなんだ……その使用人はッ!
「じゃあ、どうすればいいんだよ! 俺、すっぽんぽんのままパーティー会場に行けって言うのか!?」
「そ、そんな事はないよ……」
く、くそぉ……どうすればいいの? 日雇いバイトしかいない使用人を呼んでも、男性用の着替えがどこにあるのか知らないだろう。こんな時にぃ……。
「あ、そうだ! いい事思い付いた!」
アーシェは何かひらめいたらしい。
「そ、それはなんだッ!?」
「ふっふっふっふ~~ちょっと待ってね~~着替えているから」
カーテン越しからアーシェが着替える影が見える……。ちょっとエロい……どこかの風俗店を連想させる光景だった。
「さて――いい案なんだけど……ちょっと失礼」
着替え終わったアーシェはいきなりカーテンを開けた。なんでカーテン開けるのぉぉぉぉッ!? ちょっ……俺全裸なんですけどぉぉぉぉッ!!
「ムフフっ……久々に腕が鳴るわねぇぇ……」
不気味な笑顔で、俺に近づくアーシェさん。ちょっ……怖いんですけど。先ほどの怒っている表情とは違う――何か愉しむような表情だッ!!
「アーシェさん? な、なにをするつもり……でしょう――――ぶべろしょっ!?」
アーシェはいきなり俺の頬を殴った。
「ちょっ……な、殴るなんてきいて――ぶばれっ……!?」
また殴った! ちょっとぉぉぉッ! なんで殴るの!? ホワイ!?
「殴ってごめんね……でもね、この状況を乗り越えるためには必要事項なの!」
必要事項って何!? 殴るなんて非人道的なんですけどぉぉぉッ!!
「ちょっ……やめっ……ぶごっ……べごっ、ぼべがっがあああああああああああっ!!」
バキっ、ボゴッ、ヅブシュッ、ベキッ、ドゴッ……。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!! た、助けてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!」
しばらくの間、アーシェにずっと殴られる羽目になった……。
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