Chapter Ⅳ 貰ったメダルをペンダントにしよう!
――懐かしい夢を見た。それは俺がアーシェに告白してやると誓った夢だ。周りがアーシェと付き合うなんて無理だと否定的に言われながらも、俺はあきらめない日々……。
「――あぁ……ん」
夢の続きを見ようとしたが、レム睡眠によって目が覚めた。なんで……目が覚めたんだろう……?
「う……うぅ……? さ、さぶうぅぅぅ……!!」
レム睡眠って、確かライネス曰く――眠っているのに脳は覚醒状態になっているんだよね……。また夢の記憶が残っているらしいとかなんとか……。
「そんな事言っているんじゃねぇよ、俺……顔がくっそ寒い……ふぇっ……べっくしょい!?」
とりあえず、顔を温もりがある布団に潜り込む。俺は寒いのが苦手だ。そう言えば、昨日雪が降ったんだよな……そのせいで寒くなっているのか。
「あぁ……そうだ、今日メダルをペンダントにしようって考えたんだよな……仕方ない、起きよう。寒さのせいで眠気なんてふっとんじまった」
むくりと体を起こし、ベッドから降りた。
「ふわぁぁぁ……ねみぃ……」
大きな欠伸をうならせ、ぼりぼりと尻を掻く。
「ごおおおおおっ……がががっ……ぐわッ……!?」
な、なんだ……腹に響かせるような鼾をかいているのは……。背後からだったので後ろを振り向くと、熟睡しているライネスだった。
「なんだ、ライネスの鼾か……相変わらずうるせぇな」
と言うか、朝日が差し込んでいるのにまだ寝ている事に驚きだわ。
「うう……サブぶぶぶっ……。毛皮のコート残っているかなぁ……?」
ライネスの鼾はさておき、俺は洋服棚から毛皮コートがあるか探し始める。
「何処だ……。あ、あった!」
よかった……まだ一着残っていた。冬場の戦争でいっつもボロボロになって着れなくなるから、もう家にコートの在庫がなくなっていたと思っていたけどもう一着残っていたんだ。あぁ……これで防寒着なしで出かけるという自殺行為しなくて済んだわ。
早速毛皮のコートを纏って、寝癖を整え、メダルと金をポケットに突っ込む。
「よし、そんじゃ行ってくる。ライ」
寝ている彼に行ってきますの挨拶して、部屋を後にした。
「ふぅ……」
ギシギシと唸る木製の階段を降り、玄関を通り抜ける。
「うわっ……雪が結構積もっているな……。そりゃ、昨日吹雪いていたからなぁ~~」
そこは一面冷たい白銀の世界が広がっていた。穢れていない雪景色だな――と思ったけど、目の前に子供たちが雪合戦して感動の光景が一瞬にして崩れてしまった。
「うん……そうだよね。普通に考えれば子供たちが遊ぶよな」
なんて銀世界の景色が子供たちによって壊した事に嘆いた後、俺は昨夜行ったばかりの王宮前大通りの方へ向かった。
※
王宮前大通りに到着――昨日は大雪だったにもかかわらず、大通りにある店舗は買い物客で賑わっていた。
「そう言えば、雪の日の大通りを見るの初めてだな……。大雪になっても通常通りに店はやっているんだ」
寒いのが苦手で、雪の日に出かける事なんて滅多にない。だから、雪の時大通りにある店はみんな閉まっているって思っていたけど、そうじゃないんだ。折角の雪で家から出ない人が多いんだから、店を休業してもいいんじゃないか?
「雪の日でも出かける奴が居るって事だな……ふぅぅ……さっさと用事済ませよう。こんなクソ寒い中、外に居たくねぇ……」
それに――久々に戦場から一旦離脱して休暇に入ったんだし、しっかり体を休ませないと……。少し前に休まず休暇中ずっと遊んだら、戦争の真っ最中に過労でぶっ倒れちまった苦い出来事があったからな。
「えっと……行きつけの鍛冶屋は――あった、今日はやっているな」
大通りにある噴水交差点付近に、行きつけの鍛冶屋がある。古めかしいレンガ造りの建物で、所々亀裂が走っていつ崩れてもおかしくはない外観だ。まあ、それは外から見た人の感想だけどね。
「オルベア! 入るぞ!」
一度声をかけて鍛冶屋に入ると、伽藍とした冷たい空気が流れ込んだ。
(おい……寒いぞ……今日は窯稼働してねぇのか……?)
ここに行けば少しは温まれると思っていたのに、なんで今日は溶解炉の窯が作動していないんだよ……こっちは寒い雪道を歩いてきたんだぞ!
全く……と溜息をついて、この鍛冶屋の職人を呼んだ。
「――うーっす。オルベア、居るか~~?」
店内はこの通り――外観のぼろいとは裏腹に亀裂もなく綺麗に改装されていた。なんでも、この鍛冶屋は誰もいなかった古民家を職人――オルベアが買い取って自分で改装工事をやったとか。鉄に溶かすのに必要な溶解炉の窯も全部手造りで微妙な熱の反射加減を調整するために内部を細部まで造り込まれている。実はその窯の作製に俺も参加したのだが、そこ削りすぎだ――とか、もっと削れ――とか、やたらネチネチ言われながら窯の内部を削ったんだよな。もうあいつの手伝いは二度しないって決めたわ。
「――チッ、レオ……何だよ、こんな寒い朝っぱらからよぉ……」
がらら……と隣部屋の引き戸が開くと、むっつりした表情でオルベアが俺を睨んでいた。たたき起こされたのが気に食わなかったのか?
紹介しよう――こいつは鍛冶職人のオルベアだ。濃い緑茶色のショート頭髪に、気怠そうな瞳が特徴の鍛冶職人である。こいつとの付き合いはもう九年でライネスと同じく長く付き合っている友人の一人だ。
「寝ているところ悪いな。チェーンあるか?」
「チェーン……? あぁ……目の前の棚にあるから勝手に持ってけよ」
ふわぁぁぁ……と欠伸をしながら、棚の方に指を指した。説明が遅れたが、こいつが営む鍛冶屋は剣や包丁を錬成・手入れ・販売以外にチェーンや釘など大工工事で使われる金属製品を販売したり、メダルをペンダント化する際のメダルの型枠を作ったりと鍛冶以外の事もやっている。経営上、鍛冶だけじゃ食っていけないってオルベアが言っていたが。
「おう」と相槌を打って、目の前にある棚からグルグル巻きで置いていたチェーンを適当な長さを出し、金属切断機を使ってバキン……と大きな音を響かせると同時にチェーンが綺麗に切断した。
「こんなものか……お~い、オルベア! 起きろ!」
彼が寝ている寝室へ向かって引き戸を開くと、まるで猫の威嚇のように布団の中で唸るオルベアが俺を再び睨んだ。
「今度は何だ……レオ」
「メダルをペンダントにしたいから、メダルをはめ込む型枠作ってくれねーか?」
「――はぁ……分かった。クッソッ寒い……ぶぶぶっ……!」
オルベアは布団から這い出てブルブルと凍えながら、工房の方へ向かって行った。金属加工をするから窯を起動しに行ったんだろう。着火して完全に溶解炉が熱するまで時間かかるからな。隣の工房の方へ視線を向けると、丁度溶解炉の窯を着火させて薪をくべていた。
「おめぇ、なんで今日は窯付いていなかったんだよ」
窯が付いていなかった事に対してオルベアに嫌味をぶつける。
「昨日は仕事が早く終わったから飲みに行ったんだ。そんときに全部消火したんだよ」
「お前も飲みに行っていたんかよ……。はぁ~~昨日は吹雪いていたのに呑気に飲んでいたもんだねェ~~」
「呑気に飲んでも、俺は吹雪く前に帰宅したからな。まあ、帰った時はくっそ寒かったけどな」
にっしし……とオルベアが自慢げに笑った。
「けっ……おめーはこの大通りに住んでいるからだろ」
「だったら、こっちに引っ越せばいいだろ? 自炊出来るんだから」
「引っ越ししたいのは山々だけど、王宮前大通りの賃貸住宅高いんだよ……。下級騎士の年給とボーナスを入れても半年持たずに家賃でふっとんじまうわ! そのぐらいなら、オルベアの家で住む方がまだマシだ」
「言っておくが、住むならその賃貸住宅の二乗分の家賃を払ってもらうからな」
「げっ……」
「まあ、それが嫌なら諦めろよ。安い賃貸なんて殆ど街はずれ以外無いんだからさ」
「だよなぁ……」
はぁ……と溜息をつく。下級騎士の俺は王宮前大通りに住むのは贅沢だもんなぁ……。大富豪家出身のライネスですら、王宮前大通りに住む事を嫌っているんだよな。理由聞いたら、家賃が高いし夜の飲み会などで騒がしくなるのは嫌だとか。
「うぅ~~あったかけぇ……」
寒かったので窯の前に寄って暖を取った。
「あぁ……そうだなぁ~~あったけぇ」
オルベアは俺に同情するようにオウム返しに言った。
「な~~オルベア、鉄が溶ける温度になるまでどのぐらいかかるんだ?」
「まぁ、雪のせいで気温低下しているし、最短でも一時間半ってところかな。ペンダントにするメダル見せろ」
「ん」とポケットに突っ込んだメダルを取り出し、チャリーンとメダルを弾かせてオルベアに渡した。
「ん~~ん? お、おめえええええええええええええええええええええええッ!」
メダルを見た瞬間、オルベアは仰天した表情で俺の襟首を掴んだ。
「おめええええッ! ここここここここここここ、ここ、こ、これぇぇぇぇぇぇぇッ! どどどどどど、何処で手に入れたんだぁぁぁぁッ! しかもおめえぇの名前が刻まれているだとぉぉぉぉぉぉッ!!」
そしてぶんぶんと俺の体を激しく揺らされた。よ、酔う、酔う! 気持ち悪いィィ!
「ちょッ! オルベアッ! 止めないかッ! ぶろろろろろッ!? こ、答えるからぉぉぉぉぉぉろろろろろろろろろろろろ……!?」
「何処だ! 何処でぇぇぇぇッ!!」
「あ、アーシェにもらったんだよッ! 似顔絵メダルは恥ずかしくて要らないって!」
「なッ……お前ぇぇッ、アーシェ様に貰ったのかぁぁぁぁッ!?」
「ごおおおおおっ!? ちょ、止めろ、やめろ! ごぉぉぉぉろrぽろろえれ……」
グラグラと視野が暗く歪み始める。あぁ、ダメだ……完全に眩暈が起こって――
俺はオルベアに体を揺さぶられ続けて数分後、そのまま気を失った。
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