配慮
ソルヴェイお嬢様!とギュードゥルンが
その様を冷えた頭で僕は見下ろす。
少し、可哀想にも思うが、この様子と今まで得た情報からして、きっとこれがとどめになるだろう。
「ソルヴェイ、あるいはおとひひめこ」
ソルヴェイの視線が虚ろなまま、のろのろと左右に揺らぎながら僕の足元から這い上がる。
「君の言う、へびについて教えてほしい。ミルカも僕もそのへびというものを、
「ミルカさん?」
「……へびは……紐のような、縄のような、細くうねって、ぞろりと動く、足がなくて這いずり回る、鱗に覆われた、美しくも不気味な、
「そうか、なるほど……例えば、このような?」
そして僕は、鞄の中にしまっていた、解いたブックホルダーのベルトを、吊り下げるようにぞろりと取り出した。
ソルヴェイの目がぐわりと恐怖で見開かれ、ひっと一瞬引き
けれど、それもほんの数瞬で、ソルヴェイの目はすぐにぐるんと裏返り、身体はくたりと
「ソルヴェイお嬢様!」
「失礼、ギュードゥルン女史。可哀想だが、これしか手がなかった。
「ミルカさん……いえ、ミルカ・ハクリ、あなたは!」
激昂しかけるギュードゥルンを前に、僕はわざと喉奥で小さく笑った。
「人でなし、とでも言うかい? ギュードゥルン女史。残念ながら僕は僕で、同時に僕はミルカだ……真実を知ろうとするのにミルカは
「……」
「越界者は得てしてこうだよ、ギュードゥルン女史。どちらが主権を握るかの話だ。片方が片方を
「……その言い方は、それでは、まるでソルヴェイお嬢様は」
まだ気が付かないのか。信じたくないのか。
――普通はそうだ。
これはミルカにも言えることだが、真実とは如何にその人物にとって不都合だろうと、真実だ。
目を反らすのは構わないが、いずれ霧散するまやかしと現実の落差で無駄に傷を深くするのは、滑稽なほどに愚かだ。
「嗚呼、彼女はもう生きていく事は難しかろう。先回りをするが、勘違いしないでくれ、これは純然たる事実で真実だ。真実は真実であるが故に、常に好都合であることはない」
「……」
「嗚呼、やはり、
苦虫を
「遅かれ早かれ、ソルヴェイは自ら終わりを望むだろう。せめて、それが本人の望まぬそれでない事を幸いと思うべきだ」
「……よくも、よくもそんな事をぬけぬけと!」
今にも掴みかからんばかりの眼光が僕を睨みつける。
どっちにしろ、僕もミルカも、たどり着いた結論としては同じだ。
その伝え方の問題だとしても、下手な希望を持たせることほど
それなら、僕が悪目立ちする方がミルカにとっても都合がいい。
――余計なお世話でもか。
「そうだね、ミルカはともかく、僕にとっては他人事だからね」
「お前!」
「嗚呼、そうだ。思う存分、この運命に怒るがいい。それこそがソルヴェイ嬢の愛された証だからね」
そう返すと、ギュードゥルンは悔し気にぎりりと歯を食いしばった。
結局のところ、どうしようもない現状に対する八つ当たりだと気づいたのだろう。
実に賢い。個人的には好ましい人間だ。これ以上いじめるのはよしておこう。
――また都合のいいことを。
「……当初の鑑定士としての役割は
ぼくは一度目を伏せて、そしてギュードゥルン女史を見つめた。
「……残念ながら、それがぼくらの鑑定結果です」
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