前置
越界者は言うなれば、
それ故に、それを判定する第三者、ぼくのような鑑定士が存在する。
越界者だという者の証言を聞き取り、この世界の規範に照らして、その証言の内容の逸脱性を判定する。
それのみならず、過去の数多の越界者の証言を元に構築された別世界の体系とその証言から考えられる世界像とを照合し、体系に記されていれば、その世界の見当をつける。
もし体系から見当を付けられなければ、さらにその世界の情報を引き出し、新たに体系に付け加える事になる。
だから、得てして鑑定士は研究者を兼任する。
せいぜい、どちらに重きを置くかが違うだけで、ぼくは後者に重きを置いているだけだ。
それでも、適当にホラを吹いてもどうとでもなるが故に、信用できる鑑定士は多くはないし、名誉のために越界者を
だから、ぼくらのような信用に足る鑑定士は世界を飛び回っているのが現状なのである。
――いや、本当に嘆かわしい。
「こちらがソルヴェイお嬢様のお部屋です」
ギュードゥルン女史に案内され、ぼくは
「ミルカさん」
「はい」
ギュードゥルン女史は
「私も、同席して構わないでしょうか。今のソルヴェイお嬢様は落ち着いておられますが、その、また昂ぶってしまった時の事を考えると、私も共にいた方が」
「……そうですね」
それが良いかと言うと、難しいところだ。
真か偽かでの偽だった場合、問題となるのはソルヴェイ嬢の精神的負担の原因だ。
彼女はソルヴェイ嬢の
ぼくと話している感じからは、やや神経質なところがなくもないが、穏やかで知的な人物だ。
――それでも、他人が己に見せるそれがその全てと見るのは愚策であり、ギュードゥルン女史がソルヴェイ嬢に対して厳しい態度を取っている可能性がないとは言い切れない。
ぼくの長考にギュードゥルン女史は困ったような顔をしている。
仕方ない。
「そうですね、必要であればぼくから退出をお願いするかもしれませんが、それでよければ」
「……ありがとうございます。あと、その、可能であれば、その本のブックホルダーを外して、見えないようにしてくださると……
それを聞いて、リンドフォーシュ伯爵から聞いていたソルヴェイ嬢の狂乱のさまを思い出す。
――確かに、このブックホルダーは
「失敬。確かにそれはそうです。失念していました」
ぼくが
「ソルヴェイお嬢様。失礼いたします。お客様をお連れいたしました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます