結果

ランヴァルド・リンドフォーシュ伯爵


この度は鑑定の依頼をいただきまして、誠にありがとうございました。

また、先日はご息女に大変無礼をいたしましたこと、誠に申し訳ございません。


ここに謹んで貴方様のご息女であるソルヴェイ・リンドフォーシュ嬢の鑑定結果をご報告いたします。


鑑定結果

 ソルヴェイ・リンドフォーシュ嬢が越界者であることは、真実であり、なんの疑いを挟む余地もありません。

 また、その証言より、その元の世界については世界体系におけるY8ヤー・アシュタの系統の黎明期と類推されます。

 懸念点につきましては、付記をご参照ください。


付記

 その越界に至る事象は類を見ず、またその記憶がソルヴェイ・リンドフォーシュ嬢ご本人の精神に多大な負担をかけ、以下の症状を発症しているとみられます。

  ・前世との記憶および意識の混濁

  ・紐状のものに対する恐怖症および強迫観念

  ・精神高揚による五感過敏


 これらにつきまして、すでに重度と呼べる症状を呈しております。この事実を考慮いたしますと、誠に残念ではございますが、ソルヴェイ・リンドフォーシュ嬢の先は長くはないと思われます。どうか、少しでも彼女の意向に沿うよう、彼女の苦痛が少ないように過ごしていただければ幸いです。


越界鑑定士

 ミルカ・ハクリ 


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あの後、ギュードゥルン女史にの行為を謝り倒し続け、どうにか納めてから、ぼくはそそくさとその場を後にした。

そして帰りの汽車で書き上げた鑑定結果の書状をリンドフォーシュ伯爵に出して一週間後、ソルヴェイ嬢の訃報がぼくの元に届いた。

――予想通り。むしろ、よくもった方ではないかな。

死因は自殺。

自室の布団のシーツを細く裂き、り合わせて繋いだ即席のロープで、首をくくったそうだ。

あの時、好奇心のままに主導権を奪ったの質問に、彼女が返した言葉を思い出す。


『紐のような、縄のような、細くうねって、ぞろりと動く、足がなくて這いずり回る、鱗に覆われた、美しくも不気味な、さかしい、固執と、貪欲のむし


彼女の死に様に、見も知らぬという存在の影がうごめくのを、湿った土と生臭さの入り混じった匂いがぞろりと鼻腔をおかすのを、心なしか背筋をひやりとしたものが這いずるのを感じて、ぼくは思わず身震いをした。

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