《おとひひめこ》の話

は、地方の豪族……権力者の、娘として生まれました。

権力者の娘ですから、それなりの教育と躾をされて、それでもその水準としては、極々平凡に育ったのだと、そう思います。

ええ、あれは、きっと、世界の始まりにほど近い頃だったのだと、今となってはそう思います。

春は禊をし、夏には薬草を摘み、秋には実りを言祝ことほぎ、冬には己や神々を奮い立てるためにをする。

そうして巡る世界でした。


え?

ああ、というのは、活力を呼び起こすとされる、まじないです。

こう、衣服の袖を振ったり、という飾りを振ったりするのです。

揺らすことで活力が呼び起こされると、わたしたちは信じていたのです。


ある時、わたしのいた国から海を隔てた向こう側の国で、戦争が始まりました。

そこで、中央から――ああ、ええと、あの頃は、そうですね、連邦と言ってよかったのかもしれませんね。

中央は、ええ、お察しの通り、主として統括していた国です。

そこから、その戦争へと軍を差し向けたわけです。

国はその途上にあったので、船が出るまでわたしの父をはじめ、一族がその逗留のお世話をさせていただきました。

その軍をひきいていたのが、でした。

年の頃の近かった彼とわたしは恋に落ち、彼が船に乗るその日まで、互いに愛を育んだのです。

そして、とうとうやって来た彼の出立のその日、わたしは、わたしは、彼の船を見送って、それでも耐えられなくて、山を駆け上がったのです。

そして、山の上から、遥か海原わたつみを行く船が見えなくなるまで、ただずっと、身につけていたを、彼の、のために、たまふりをした振ったのです。


たまふりを、してしまった振ってしまったのです。

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