最初

「わたしは、わたしの最初は……


当初よりもはっきりとした声と顔つきで、ソルヴェイ嬢はそう言った。

途中取り乱しかけもしたが、声をかけるだけで正気に戻った。

最初の状況から想定していたよりは順調だ。


……というのは、普通に国土という意味の国ですか?」

「……ええ、そうです」


ソルヴェイ嬢の区切り方から考えれば、その後ろのどちらかが姓で、残る一方が名前か。


「ええと、名前ファーストネームだけを聞いても?」

、です」


であれば、『』が姓と考えるべきか。


「ありがとうございます。では、その最初の人生について、そこで何があったのかお聞きしてもよろしいですか? もしかすると、貴女あなたの逃亡のお手伝いができるやもしれない」

「……ええ」


それでも、幾分いくぶんか声は震えている。

途中で無理矢理にでも止めさせる必要性もあるかもしれない。


「無理はなさらず、話したくないのであれば、大丈夫です」


けれど、ソルヴェイ嬢はかぶりを横に振った。


「いえ、どうやっても、振り払うことのできない記憶ですもの」


憔悴した顔にわずかな笑みを浮かべて、ソルヴェイ嬢は一筋のわらにでもすがるように口を開いた。

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