ルビふりが自分勝手

制服姿のまま、私は急いで約束の地へ入る。


坂道を全力で駆け上がる。


急がねばならない。

すでに私の髪が森の中に漂う微風わずかばかりの狂気を感じとっている。


せかいが泣いている……」


ザワザワと木々が揺れ、そこには邪悪なる影ダークネス・シャドウの気配が充満している。


「くそっ、もうこんなところまで……」


私はいい。

でもこの森がやられてしまえば家族が危ない……。


非道ひどい臭気がする。

けがれた漆黒の幻影ダーク・ファントムによるものだ。


「これが……虚無の深淵あってはならぬ世界……なのね」


私は深く溜息をついて、覚悟を決める。


もう戦うしかないのだ。

現世うつしよの束縛から放たれる必要がある。


「できるなら……これはやりたくなかったけれど……」


私は大地にひざまずく。超自然的な波動スーパーナチュラル・ビブレーションと体を共振シンクロさせるため眼帯邪気眼を秘める聖具を外す。邪気眼的呪縛エビルアイズリストリクションを一時的に解放させ、私の内に秘めたる神力ちからを現世に放出させるのだ。


私は制服私を束縛する呪縛を脱いで一糸いっしまとわぬ姿になる。


狂気に血塗られた幻影ルナティック・ブラッディ・ファンタズム!」


呪われし舞いを踊り、私は聖霊ありのままの私になる。

真実永久的霊力トゥルーエターナルフォースと共にせかいむしば虚空ぜつぼうを切り裂くのだ。涙が止まらない。現世悲しみに溢れるこの世界が泣いているからだ。


「静まれ……世界よ……静まれ……」


お願い。

私の祈り鎮魂歌よ……届いて。



そこに椎茸しいたけりにきたおじいちゃん祖父が現れた。



私は演舞祈りの途中でポーズをとったまま静止した。大丈夫。私は今、聖霊化し真実永久的霊力トゥルーエターナルフォースと共にいる。エネルギー体となって森羅万象の共振的存在に因り守森にうまいこと隠れられている。だから動かなければ私の姿はおじいちゃんには見えていない筈だ。大丈夫。見えてない。見えてない。ほら。


「んだ、まち子か? おめぇ、素っ裸すっぱだかで何してっだ? みぃっぺよ」


「……」


「まだ蚊がいっど。食われんよう気ぃつけぇ。」


「……」


見えていないはず


「おい! まち子おめぇ聞いてんのか?」

「聞こえてます……」

「素っ裸でシェーのポーズしてなんだおめぇ? 服着ろって言ってんべよ」


私は静かに制服私を束縛する呪縛を纏い、現世悲しみのパトスへ再び降り立つ。おじいちゃんは「ばっちゃんが夕飯は自然薯やまいもにするって言っでだど。おめぇ好きだっぺ?」と言いながら、そのまま椎茸を採りに山へ消えていった。


私はどうしていいか分からず、まだ虚無の残留思念と闘って戸惑っている。


おわり

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