文章の意図が拾えなくて怖い
「遠い昔のことは大抵、きれいに見えるものだ」
僕はソーダの注がれたコップにコインを一枚放り込む。
彼女はそれを見てふふふと笑う。
人差し指で自分のおでこから鼻筋を沿わせるように優しく触る。
「僕は未来なんていらないと思ってたよ」
「ねぇ、どうしてジョージはあんな風に街を去ったのかしら?」
「夢でも見てたんだよ。遠い遠い楽園の夢を」
「私ね、時々、さむくて堪らなくなるの」
彼女はドレスの裾をゆっくりとつまみあげ、そして離した。ドレスの裾はふわっとした空気をまとい、地面へ落ちた。
「君を暖めてくれる何かがあればいい」
「それは簡単よ。抱き合えばいいの。でもほんの僅か、一瞬のこと」
僕は新しいウイスキーとナッツを注文する。バーテンダーは細長い指でウイスキーをダブルで注ぐと、僕の前に静かに置く。僕はそれを持ってつま先立ちをする。
明後日の天気のことを考える。
「コッペパン・コッペパン」
僕は言いながら覚えたてのフラメンコを踊る。
彼女は携帯電話にハンバーガーのソースをかけている。真剣に。鼻血を出しながら。
「黄昏って知ってる?」
「夕暮れと夜のあいだ」
「そう、もう君の顔も見えない」
心のなかで鉛筆を削る。それはHBだ。がしがしと音がする。心が削れる。まるで鉛筆のように。たしかにそれはそこにあったのに。不遇さが僕をめくるめく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます