文章の意図が拾えなくて怖い

「遠い昔のことは大抵、きれいに見えるものだ」


僕はソーダの注がれたコップにコインを一枚放り込む。

彼女はそれを見てふふふと笑う。


人差し指で自分のおでこから鼻筋を沿わせるように優しく触る。


「僕は未来なんていらないと思ってたよ」

「ねぇ、どうしてジョージはあんな風に街を去ったのかしら?」

「夢でも見てたんだよ。遠い遠い楽園の夢を」

「私ね、時々、さむくて堪らなくなるの」


彼女はドレスの裾をゆっくりとつまみあげ、そして離した。ドレスの裾はふわっとした空気をまとい、地面へ落ちた。


「君を暖めてくれる何かがあればいい」

「それは簡単よ。抱き合えばいいの。でもほんの僅か、一瞬のこと」


僕は新しいウイスキーとナッツを注文する。バーテンダーは細長い指でウイスキーをダブルで注ぐと、僕の前に静かに置く。僕はそれを持ってつま先立ちをする。


明後日の天気のことを考える。


「コッペパン・コッペパン」


僕は言いながら覚えたてのフラメンコを踊る。


彼女は携帯電話にハンバーガーのソースをかけている。真剣に。鼻血を出しながら。


「黄昏って知ってる?」

「夕暮れと夜のあいだ」

「そう、もう君の顔も見えない」


心のなかで鉛筆を削る。それはHBだ。がしがしと音がする。心が削れる。まるで鉛筆のように。たしかにそれはそこにあったのに。不遇さが僕をめくるめく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る