時系列や関係性に混乱がある

これは二年前の話だったと思う。

記憶が定かじゃないので、もしかしたら三年前かもしれないが。


どちらにせよ、時間については大した問題じゃない。


そう、それは五年前。


事件は起こったのだ。


私の父がまだ若かりし頃、唐突にそれは起きた。


今日の午後である。いきなり誘拐犯が現れ、子どもをさらっていったのだ。そのとき母はまだ幼子で記憶はうっすらとしかないらしい。


私はリビングで寝転がっていた。六歳だ。そこに庭から知らない男が現れ、私を担いで逃げ去って行ったらしい。家族は突然のことに最初、呆然と立ち尽くしてしまった。


あとから聞けば男はだいぶ酔っ払っていて、自分の家だと勘違いしていたようだ。私のことを自分の子どもだと思い、イタズラで笑わせようとしていたらしい。昭和の話だし、昼から酔っ払う男の人がいても不思議じゃない。そういうのもあるのかもしれない。


しかし今は令和だし、そんなことはまかり通らない。10年前じゃないのだ。だから私は必死になってもがいた。男は最初、気づかずに口笛なんかを拭きながら「こらこら」と微笑んでいたが、私が10分近く暴れるものだから、だんだんおかしいと思ったらしい。


半日も経つ頃には、これは俺の子供じゃないぞと思って、慌てて顔を覗き込むと、昨日担いだときとはまったくの別人だったというわけだ。


そこに小学生だった父が現れて、誘拐犯がいると慌てて男にタックルしたわけだけど、コンマ数秒の差でかわされてしまう。だけど父のタックルはすでに当たっていたのでなんとか逃さずに捕まえられた。父は男にしっかりしろと説教した。昼間から酒を飲んで、と。


それで誘拐犯の男も観念した。

月がきれいに出ていたし、父の説教にも感心する部分があったのだろう。蝉時雨のさなか男は泣き出してしまった。


結局、まぁ、その男の人が会社を立ち上げて、私のおじいちゃんがそこに勤めてたってわけなんだけど、今となっては笑い話だよね。


四年前の昔話でした。

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