絶望が浅い
冷蔵庫からブドウがなくなってしまった。
贈りものでいただいた種なしで皮ごと食べられるやつだ。
ひとつ千円とかするやつ。
毎日、朝、それを楽しみに起きていたのに。今日でもう終わりだった。七房もあったのに。ずっと食べられたらいいな、なんて淡くも期待してしまった自分がバカだった。食べたらなくなる。その現実も知らず、バカの極みだ。
最後の一粒を口に含んだとき、我慢できずに涙が溢れた。
もうダメだ。
生きていく希望が見いだせない。
明日はたぶん、起きれない。
私の目からこぼれた涙は、あっというまに滝のようになった。嗚咽が止まらない。呼吸が苦しい。もうブドウは買わないと食べられないんだ。スーパーに行って。買わないと。食べられない。そう思うと目の前の世界が真っ暗になった。
もう食べられないブドウ。
忘れようと思えば思うほど、ブドウの記憶は私の頭にこびりついた。
どうしてこんなに悲しいのだろう。
種がなくて、皮ごと食べられる、ブドウ。
しばらくの日々、私は泣き続けた。会社は休んだ。毎朝、ブドウのない冷蔵庫を開けるたびに、私の胸にポッカリと穴が開いて、それが大きくなっていくようだった。そして、その穴が私の心を覆い尽くしたとき、私の世界は終わりを告げた。
ブドウのない虚無の世界が私を覆い尽くすようになった。
一体どこにこの気持ちをぶつけたらいいのかわからなかった。これからブドウを食べることも出来ず、どうやって生きていけばいいのだろう。買わないと食べられないってことは、たまにしか食べられないってことだ。あんなにおいしかったのに。
もはや息をうまく吸うこともできなかった。ブドウが食べられない日々を考えることもなく、毎日、朝にブドウを食べていた私を思い出しては咽び泣き。疲れ切った体を抱え、私は部屋の隅でうずくまった。
私は窓辺に座り、雨が降り続けるのをずっと見ていた。
その間もブドウのことは頭から離れなかった。
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