グラさん、今日も現る。
大学での授業が終わり、家に帰って課題に取り組んでいた。
俺が専攻しているのは英語英文学科であるがゆえに、米国史なるもののレポートをまとめなくてはならない。
こんなこと学んで何になるんだよ?笑 と思う人もいるかもしれないが、俺はそうは思わない。米国は今や世界一の国なんだ。そんな国の成り上がりが面白いとは思わないのだろうか?
ライトノベルでも、建国記だの、成り上がり系のモノが流行しているだろう?
それのリアルバージョンにどうして目がいかないのだろうか?
……と、自分に言い聞かしてコツコツと進めていく。
レポートが終わった頃には21時を過ぎていた。
本日の夜勤の開始時刻は22時なので、今から準備して行けば余裕をもって到着できるだろう。
何事も余裕をもってやるに越したことはない。
***
チャリを漕ぐこと十分。バイト先に到着だ。
従業員の通用口は店の裏にあるので、そこまでぐるっと回る。やはり店の裏側は料理の匂いが排出されていて、少しハンバーグくさい。思わずハンバーーーーーぐ!!!
と、どこかの芸人さんのようなボケをかましてやりたくなる。なるほど、レポートをやってだいぶ疲れてるな俺。
「おー尾崎くん、ちょうどよかった」
チャリをバイト先の駐輪場に駐めていると、店長が従業員口から出てきた。
片手にタバコとライターをもっているあたり、一服入れるところだったのだろう。
にしても店長、相変わらず死にかけた顔してるな……。
「お疲れ様です。……どうしました?」
どうせ良い話ではないだろう。
「いつもの人、きてるよ。今日は早いみたいだ」
「……まじですか」
この店の夜勤をする人ならば誰もが知るいつもの人……グラサン女のグラさんだろう。
「いやあね、さっきから吉岡さんが注文を取りに行こうとすると、睨みつけるだけで何も頼もうとしないんだよ……困ったねえ」
「いや店長追い出しなさいよ……」
あんたここの権力者でしょうが、アルバイトに嫌な思いさせたげるなよ!
「いやあ、怖いねえ」
40超えたおっさんが若造にビビるなよ!
「じゃあとりあえず、行ってきます」
「頼むよぉ。私は一本吸いきったら上がるから」
「うい、お疲れ様です」
疲れ切った店長を横目に苦い顔をしつつ、更衣室に着替えに行った。
はあ、今日は骨が折れそうだ。
***
「お、お客様……? 注文もなしに居座られては困ります……」
「……」
「お客様……?」
「……」
「……ッ!!!」
……うわー日向先輩めっちゃイライラしてる!
普段おっとりしてお淑やかだけど、キレたらめっちゃ怖いんだよなぁ……。
これでもしグラさんと日向先輩が口論にでもなったりしたら大変なことになりそうだ。修羅場という世界が完成するだろう。
行くしかないか……。
重たい足を引きづりつつ、グラさんと日向先輩の
「何かお困りでしょうか……」
一応トラブル時のマニュアル通りのセリフを言って、二人の間に入る。
「尾崎くん、この人さっきからずっと無視してくるの」
「遅いわよ、さっさといつものを持って来なさい」
「……」
あからさまに苛立ちが漏れている日向先輩に対して、グラサンは通常運転。グラさん……肝座りすぎじゃね?
てか毎回思ったけど、グラさんいっつも帽子にグラサンとか職質とかされないの?
「先輩それじゃあ俺代わります」
「ありがとう尾崎くん。……ごゆっくり!」
「ふん」
「……ッ!」
「……」←傑
……怖えええ! 女の戦いってまじ怖いのな。無言の圧力だけでこんな迫力出るものなの?
ほんと、出勤早々やってくれるなグラさん……。
まあいいや、気を取り直して業務を全うするぜ……。
「……御注文ございますか?」
「……いつもの」
「かしこまりました(変わらん人だなあ……)」
「失礼しま……」
「ちょっと」
「……はい?」
オーダーを受けてすぐ退散しようとしたが、呼び止められてしまった。
……普段注文とクレーム以外の会話なんてないはずなんだが……いやまたクレームか?
「あなた、ライブとか観に行ったりするかしら?」
「え、ライブ? いや、あんまり行かないですね……」
「そう……ならちょうどいい機会ね。これ、あげるわ」
「え……?」
グラサンがカバンから取り出したのは、何が入っているかわからない白い封筒。
「要件は以上よ。注文したのだから早く戻りなさい」
「いえお客様、こういったことは業務上よくないと言いますか……」
「何 か 言 っ た か し ら ?」
「いえ、何もございません……(本当はダメなんだけどなあ……)」
「プレゼントしたのだから、ちゃんと来るのよ……」
「はい?」
「い、いいから、早く戻りなさい!」
「し、失礼しまーす……」
ついつい流れで貰ってしまったが、なんなのだろうか?金一封だったら色々とマズイ気もするが……。
とりあえずバイトが終わったら開けてみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます