現れたのは、ヨイハナNo.2


 橘マリン……日向先輩の情報曰く、宵川みやびに次ぐ売れっ子メンバー。

 欧米人と日本人のハーフであるが故に、整った顔立ちに高い身長。また特徴的な金髪碧眼。そして何よりもファンを虜にしているのが、帰国子女であるが故のカタコトな日本語だ。

 彼女なりに頑張って伝えようとしているところがファン的にはグッとくるらしい。

 なるほど、わかる。


「えっと、俺のこと覚えてるの?」


「モチロン! あの日は熱々coupleが見れて楽しかったヨ〜!」


「いや、あれは違くて……イテテ!」


 真尋さんはなぜか俺の背後に隠れている。そしてなぜか今思い切りツネられた。


「えっと……真尋さん?」


「しっ! 黙ってて!」


 どうしたのだろうか……まさかマリンちゃんと知り合いとか?

 ん? 待てよ……もしかしたら真尋さんも芸能人かもしれないんだよな。

 ってことは、マリンちゃんは真尋さんにとってライバル的な存在なのかもしれない。

 そうなると、ここでマリンちゃんと鉢合わせてしまうと、嫌な空気になってしまうかもしれないな……。

 ここはいっちょ、匿わせてもらおう。


「ンン〜?」


「う、うん? どうしたの?」


「その子……この間の子と、違う子だネ。もしかして……浮気?」


 いつもはふわふわした話し方のマリンちゃんが、少し冷たく感じる。

 碧眼の瞳が鋭く俺を睨みつける。


「は、はぁ!? 浮気とかそんなんじゃなくて……イテテ!!」


 弁明しようとした矢先、真尋さんが背中を思い切りつねってきた。

 それどころじゃないんだが。


「じゃあその女誰ヨ!」


「だからこの間の人はただのバイト先の……痛い痛い! ちょ、つねらないで!?」


 なんだこの面倒な板挟み!?

 ほんとよいしょやな!!

 最悪やーーーー!!!!

 タイムリープしてくれぇぇぇぇ!!!!


「やだ、痴話喧嘩かしら」

「最近の若者は女遊びがひどいのねぇ……」

「あの冴えない男があんな美女二人囲ってんの?」

「てかあの金髪の人どっかで見たことあるような」

「修羅場で草」


 ***


「いやぁ〜勘違いしちゃってゴメンネ〜」


「わかってくれて何よりだよ……」


 俺と日向先輩はただのバイト仲間であるということと、決して彼氏彼女の関係でも如何わしい歪んだ関係でもないということをマリンちゃんに説明した。

 まあでもあの日は完全に俺の独断で動いたのが悪かったからな……側から見たらそう見えてもおかしくはない。


 俺とマリンちゃんは人通りの少ない階段の方に場所を移した。

 マリンちゃんは見た目も相まって相当目立つからな……ヨイハナのメンバーだと気づかれるのも時間の問題だった。

 真尋さんは選んだ服のお会計を済ませるからと言い、店に残った。


「それで? 今日はあの子とデートなのカナ?」


「デート……なのかな? ただ二人で遊びに来ただけなんだけど」


「Boy&Girlで出かけるって、フツーはデートだヨ」


「まぁ、そうだよね……」


 やはり世間一般的にはデートだよな。

 しかしその実情はなんと、ただの荷物運びでした。今のところ荷物運びっぽいこと一切してないけれど。

 それに真尋さん、そんな爆買いするような人じゃなさそうだし。知らんけど。


「Amm……でも、な〜んかさっきの子、見覚えあるヨ……って! そろそろワタシ戻らないといけないヨ!」


「? なんかあるの?」


「雑誌の撮影ネ!」


「Wow、芸能人……」


「それじゃ、アナタとはまた会えそうだネ! See you!」


「See you~」


 マリンちゃんは手を振りながら、この場を後にした。

 なんというか、まるでハリケーンが過ぎ去ったような感覚だ。

 アメリカンな風の香りがするぜ!っと思ったが、きっとマリンちゃんがつけていた香水が香ってきただけだろう。


 ***


「なんだ……そういうことだったんだ」


 私は傑先輩とマリンの話を、隠れて聞いていた。

 まさかのマリンとの邂逅でびっくりしたけれど、この間の傑先輩とあのファミレスの女の子の関係がどうなのか知りたかったから、マリンが私の聞きたいことを代弁してくれている感じになって助かった。


「でもマリン……傑先輩と距離近すぎ……もうちょっと離れてよ」


 マリンは帰国子女である故か、誰れとも距離が近い。

 しかも、売れっ子のモデルになりつつあるのに、変装も何もしていない。普通にいつもの橘マリンのままだ。

 まぁ、それが功を奏して誰もマリンだって気づいてないみたいだけれど……。

 橘マリンという名前だって本名だし、色々とオープンな性格なんだよね。

 私みたいに変装したり芸名使ったりしてないし、なんだか憧れる。


「……そだ! お買い物済ませちゃお」


 私は先程の買い物を済ませるために、お店に戻る。

 さっきの白ニット、傑先輩が選んでくれたやつを買いに。

 でもやっぱり、アイボリーのニットも捨てがたいなと改めて思う。

 いっそ色違いを二つとも買ってしまおうか……。


 そこで私は思いついた。


「すみません、このアイボリーのニットって、メンズもありますか?」














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