Overture ~みやび目線〜

 

 今日は私たち『ヨイハナ』の一つの目標であった武道館でのライブだ。

 ここまで長い道のりだったけれど、ようやく来れたことに感慨深い気持ちになる……。


 兎にも角にも、来てくれたファンの人たちに最高のパフォーマンスと夢をお届けする。それが私たち『ヨイハナ』としての、そして、宵川みやびとしての唯一出来るみんなへのプレゼントーー……。




「なんて……そんなこと考えてる場合じゃないしーーーーーー!!!!!」



 だって!だってだってだってだってだって!!!!


 今日は傑先輩が来てるんだよ!?

 何万人の観客の人たちに見られるよりも緊張するよ!!!!


 今日だってほら!

 あんまり寝付けなくて少し目の下に隈出来てるし!!!

 朝の日課の飲むヨーグルト飲み忘れたし!!!

 靴下の色よく見たら両方違うし!!!!


 ああああ……大事なライブなのに……



「オヨヨヨヨ……ダメだ……こんなじゃ先輩に良いところ見せられないぃ……」


「Hey!みやびgood morning!」


 後ろから能天気な……言い方を変えれば朝から元気な声ーーマリンだ。


「マリンは朝から元気だねぇ……」


「Amm……そんなことないヨ? ワタシ、いつもなら朝ごはんいっぱい食べるのに、今日なんてライスバーガー三つしか食べれなかったヨ〜〜」


「Wow……ガッツリ……」


 こんな大舞台で、たった一人の観客に対して緊張しているのはおそらく私くらいだろう。

 普段のライブ中はクールビューティーとして売っている『宵川みやび』だが、果たして今日のライブではクールさを保つことが出来るだろうか……。


「マリンもみやびも、そろそろ衣装に着替えて〜」


「みやちゃんにマリちゃん、今日も可愛いですな〜」


 楽屋に入ってきたのは穂村二火ほむらふたひと、夏目なつめ千尋ちひろだ。

 大人っぽい色気漂うリーダーの二火。相変わらずオタク口調なギャップ受け美少女千尋。


「Thank you千尋〜!」


 金髪ハーフの超売れっ子モデル、橘 マリン。


 そして私は、みんなを統率するセンター『宵川 みやび』


 みんなが今日まで積み上げてきたものを、センターの私の私的な感情で壊すわけにはいかない。


「……衣装着替える前に、ちょっとお手洗い行ってくるね」


 私はを持って、トイレに行った。


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「みやび、いっつもライブ前にグラサン持ってトイレいくネ?」


「あれはみやびなりの精神統一なのよ」


「精神統一を終えた後のみやびはもはや別人!クールな歌姫にヘ〜んし〜ん!!」




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