ライブ後といったら、やっぱり打ち上げだよね。
ライブが始まって三十分ほど経ち、ヨイハナメンバーによるフリートークタイムに入った。
この三十分間、知っている曲もあれば知らない曲もあったが、どれもやはり生で聴くと迫力が違った。
メンバー一人ひとりのダンスもキレッキレで、本当に同じ年頃の女の子なのかと疑うほどのパフォーマンスを披露していた。
しかし俺が最もびっくりしたのは、宵川の生歌だ。
迫真の美声でありながらも、どこか懐かしい。そう感じたのは俺だけかも知れないが、少なくともヨイハナが国民的アイドルに成り上がる理由もわかる。
いや何様だよ俺。
こんなことをSNSに書き込んだらファンに大バッシングくらって、次の日には垢消しをしているまである。
「尾崎くん、どう?」
ひょこりと横から上目遣いで顔を覗かせる日向先輩。
完全燃焼したいのかと思うほど、日向先輩はライブ中の合いの手やコールに全力を注いでいたせいか、額には汗が滲んでいる。
……日向先輩に釣られて周りの客も加熱しててビックリだったわ。
「こういったイベント来たことないんで、まだついてけてないっす……」
「まあやっぱり最初はそうなるだろうね〜。私も最初はびっくりしたけど、ヨイハナのファンの治安が良いから直ぐに馴染めたよ」
「やっぱりファン同士の友達とかいるんですか?」
「いるよ〜。今日も何人か参戦してるみたい。あとで会えたら紹介しようか?」
「い、いや大丈夫です……」
ニワカファンがいきなり先輩レベルのファンと絡んでも話についていける訳が無い。
それに今後もヨイハナのライブに来るとは限らんしな……。
「あ! マリンちゃんが喋るよ!!」
先輩の推しメンであるマリンちゃんにマイクが渡ったようだ。
『Hey guys〜!! How have you been〜?』
「「「「SO HAPPY!!!!!」」」」←ファン大勢
「……」←傑
『今日もみんな元気で良かったヨ〜! ワタシもSo happy!』
……安定の地蔵!
しかし独特な挨拶だな……。日本人とアメリカ人のハーフで、テキサス州出身らしいな。先輩によると(倒置法)
確かに普通じゃ見られないようなスタイルの良さだ。身長は171センチらしい。……俺とほとんど変わらないじゃないか。
男なら180センチ欲しかったな……。
『みやびチャンも喋りなヨ〜!』
『え、ああ、そうね……』
マイクが宵川に渡る。
しかしライブ中の宵川って雰囲気違うのな。なんか誰かさんと似た雰囲気だな……。
『えっと、今日は来てくれてありがとうございます。今回のライブ、ここ武道館で出来たこと、私たちの目標の一つでもあったので、素直に嬉しいです。ここまで来れたのは、ファンの皆さん一人ひとりのお力添えがあってのことです。本当に、心から感謝しています』
「「堅いよ〜みやびちゃ〜ん!!」」
「「どこまでもついていくぜーー!!」」
「「結婚してくれーーーー!!!」」
メンバーのトーク中に声を上げるのはライブの恒例だ。
しかし愛を叫んでるやつもいるが、恥ずかしくないか?
俺ならライブ終了後恥ずかしさで川に飛び込むまである。
しかし、今や国民的アイドルグループであるヨイハナだが、人気になるまで大変な努力をしてきたのだろう。
芸能界で、ましてやアイドルとして売れるのなんて並大抵の努力じゃ成し遂げられないことだ。
そりゃプロデューサーやレーベル的なブランド力も大事だろうが、最後はやはり彼女たち自身の振る舞い方次第だろう。
どんなに事務所から推されたところで、ファンの人気は比例しない。
日々の鍛錬の結果なのだろう。
本当に、素直に尊敬する。
この間宵川と隣の席で、ただの学生同士として会話をしたが、そんな彼女もきっと裏では相当な研鑽を重ねているのだ。
聴く人の心に安らぎと元気を与えるあの歌声は、そうそう出来ない。
「俺も、本気で打ち込める何かがほしいな……」
***
ライブは二時間ほどで幕が閉ざされた。
ツイッターなどでよく、「ライブ後の余韻が抜けないお!」などのツイートを度々見かけるが、これがその余韻というやつか。
ヨイハナが何故ここまで人気なのかもわかった気がする。
「あー楽しかった! 今日のライブ、来れないと思ってたから、尾崎くんには本当に感謝です!ありがとう!」
「いやむしろ助かりましたよ。俺一人じゃとてもじゃないですけど参加するの勇気いりましたし」
「うふふ!また一緒に来ようね!」
先輩の意外な一面に驚きの一日だったけれど、喜んでもらえて良かった。俺としても良い経験になった。なんとなく今後のモチベーションにもなった気がする。
何にこのモチベーションを注ぎ込むのかはわからないが……バイトか?
まずい!このままじゃ社畜街道まっしぐらじゃないか!
「そだ!打ち上げがてら二人で飲みに行かない?」
「あ、先輩が大丈夫でしたらいいですよ」
「ここらへんで隠れ家的な居酒屋知ってるんだ〜。落ち着いた雰囲気だし、行こ!」
「んじゃ、案内お願いします!」
落ち着いた雰囲気の店で打ち上げってなんかジワるな……
と思いつつ、俺は先輩に連れられるまま、居酒屋へと向かった。
***
先輩が案内してくれたお店はあまり目立たないような場所に位置していて、正に隠れ家風の居酒屋だ。
先輩が言うに、芸能関係の人たちも度々利用するようで、時折来店するらしい。
今の店内を見る限り、それらしい人はいない。
いるとしたらカップルにカップルにカッp……リア充ばっかじゃねえか!どうなってんだこの店!
はっ……!でも、おそらく俺と先輩も付き合っているように見えるんだろうな……。
なんてことを考えていると。
「それでさ!」
「はい?」
「良い子見つかった?上玉揃いだったでしょ?」
「なんすかその上司とキャバクラ行ってみたあとの反省会みたいなノリ」
周りの客も一瞬こっち見たぞ……先輩声おっきいって。
「あはは、確かにそうとも捉えられるね。ヨイハナに推しメンは見つかった?」
「推しメン……推しメンねえ……」
正直パフォーマンスに見惚れてて、メンバー一人一人に対して特別入れ込むような感想はないんだよなあ……。
一つの芸術を見たといったところだ。
まあそれでも……
「強いて言うなら宵かー……!?」
チリンチリンと、お店のドアが開く鈴の音が鳴った。
入ってきたのは若い女の子4人。それと大人の男女数人。
一瞬大学生たちがドバッと入ってきたのかと思ったが、明らかにその女の子たちの雰囲気ーーオーラが違った。
ヨイハナのメンバーたちが、まさかの同じ店に来店した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます