ライブに行こうと思うのだが……
グラさんをチンピラから助けてから数日、明後日は土曜日なので、待ちに待った(?)ヨイハナのライブが間近だ。
チケットは二枚あるのだが、仕方がないから喜一でも誘おうか。仕方ない仕方ない。本当に仕方ない。
まあ一人参戦とか絶対嫌だからね! ガチヲタって思われるしガチヲタに見えて合いの手もなんもしてなかったら「あいつなんなん?」って顔されちゃうからね!
さて、明日にでも喜一を誘ってやろう。
しょうがないしょうがない♪
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「わりぃ、その日彼女とデートだわ」
「裏切ったなブルータス!」
一人参戦は嫌だっつってんだろ!!!
仕方ないとか偉そうに思ってたけど本心は「お願いします一人参戦とか心細いので一緒にライブ行ってください」まであるんだぞ!
「な、なんだよ〜。しかも『ブルータス、お前もか』だしな〜」
「そんな細かい訂正は要らんわ! 別に彼女のデートとかいつでも行けるんだからいいだろ? ライブはその日しかないんだぞ?」
「いやいや……げっ……! す、傑、一旦落ち着け」
喜一はなにやら俺の後ろを気にしているが、俺は気にも留めず続けた。
「それにほら、あれだぞ? 確かにお前の彼女の美琴ちゃんも可愛いと思うけど、いまや天下の『ヨイハナ』のメンバーに比べたらー……」
「 傑 さ ん …… ? 」
「……!!!!」
背後からその声が聞こえた途端、俺は戦慄した。
まるで首元にナイフを突きつけられたかのような、そんな恐怖が俺の心を抉ぐる。
俺はゆっくりと、なるべく背後にいる
「や、やあ美琴ちゃん。今日も可愛いね……」
「……」
橘 美琴。
喜一の彼女である。ルックスは街を歩いていれば数人は振り返るであろう美少女だ。まあ俺のタイプではないけれど。
この子は基本的には温厚であるが、ヤンデレという突発性の凶暴性を兼ね備えている地雷美少女だ。
「傑さん、喜一さんに要らぬことを吹き込んでいませんでした……?」
「いえ、滅相もございません……」
「それと、私の容姿に対しても何かほざいていましたよね……?」
「いえ、あの……」
「……」
こええ!怖すぎる!
まじでナイフとか出てくんじゃないかと思うほどの恐怖!
まじで美琴ちゃんの目、人を何人か殺してる目だぞ!?
「……行きましょう、喜一くん」
「傑……わりぃな!」
そして俺は取り残されてしまった。
あんだけ威圧されたら、無理に決まってんじゃん……。
「はあ、しかし……」
誰を誘おうか?
***
深夜、バイト先にて。
「……え! ヨイハナのライブ!? いいよ行こ行こ!」
「いいんですか先輩!」
日向先輩を誘ってみたところ、まさかのオーケーだった。
しかし何だろう……厨房の奥から店長の『僕も行きたいんだけど……』みたいな表情が伺えるが、まあ気にしないでおこう。だってあなた土曜日仕事でしょ! 稼ぎ時だぞ!
「でも、尾崎くんってヨイハナ好きだったんだねー。誰推し? ちなみに私はマリンちゃん! 私ハーフ顔のスラッとした子好きなんだよね〜。憧れてるからかもしれないけど」
ここは俺もテンション合わせて、『あーわかるぅ! マリンちゃんいいよね! やっぱりハーフ顔でスラッとしてるよね! 憧れるぅ〜!(同じこと言ってるだけ)』とファントークを繰り広げたいところではあるが、残念ながら俺は宵川みやびしか知らないというニワカ中のニワカだ。
SNSでヨイハナについてニワカ発言しようものなら、ファンから助走をつけて殴られるまであるだろう。
「あー俺実はこのチケット貰っただけで、全然ヨイハナのこと知らないんですよね」
「え、そうなんだ! じゃあ、ライブ行ったときに推しメンを探そう! 大半の人がやっぱりセンターのみやびちゃん推し何だよねえ。やっぱりテレビとか雑誌にたくさん出てるっていうのもあるけど。でも、私が好きなマリンちゃんはファッション雑誌のモデルで最近人気になってきて、今流行ってるファッションブランドの専属モデルにも抜擢されるほどー……」
「へ、へえーそうなんですねー……」
まさかのヨイハナのガチファンだとは思わなかった……。
それからお客さんが出たり入ったりする時は中断するものの、勤務中は常にヨイハナトークに花を咲かせた。いや、一方的に咲かされた。
しかし、今日はグラさん来なかったな……。
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