彼女の名前は黒薔薇姫

 黒薔薇姫は居候する前に俺に一言言ってきた。『今日から貴方を私の下僕2号にしてあげる』と、そしてついでに俺に『変な気は起こさないことね。でないとその体をバラバラして、二度と戻らない体にしてあげるわよ?』と、物騒なことも言ってきた。


 可愛い顔して結構えげつなことを言われると、この俺でさえビビってしまった。そして、俺は彼女に指一本触れられずに謎の下僕2号としてこき使われている。普通だったら出て行けと言いたい所だが、そんな事は彼女には言えない。言った瞬間、自分は生きていない気がするからだ。それに黒薔薇姫は可愛い。性格はワガママだけど、不思議と憎めない奴だ。それに長い間ずっと独り暮らしだったから部屋にもう一人、住人が増えても俺は平気だった。黒薔薇姫が部屋にいることで、俺の気分は同棲生活だ。


 同棲生活……へへへっ……。


 俺は黒薔薇姫は見ながら急に顔がにやけてきた。そして、ヘラヘラした顔で玄関に立っていると、彼女は再び俺に本をぶつけてきた。


「バカな顔をしていないでさっさといきなさいよ!」


「ヘイヘイ、言われなくても今行きますよ~」


 俺は彼女に急かされると、ニヤケタ顔を堪えて靴を履いたのだった。


「なあ、黒薔薇姫。最後に質問してもいいか?」


「何を?」


「その……もしあのとき俺があの道を通らなかったら、他の男にキスしてエナジーを貰っていたか?」


「――愚問ね、おバカさん。そんな質問に私がワザワザ答えると思っているの? 貴方は私にとって歩く自動販売機よ。さあ、早くいきなさい!」


「自動販売機~? ひでぇ、人を自動販売機呼ばわりかよ。俺は結構……」


『さっさといきなさいっ!!』


 黒薔薇姫はシビレを切らすと怒鳴り付けてきた。俺は彼女に怒鳴られると、足早に玄関から外に出て行った。そして、ボロアパートの前に停めてある自分の自転車に乗ると、彼女の為にトマトを買いに朝から街に繰り出したのだった――。


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