彼女の名前は黒薔薇姫

 俺の一日は、彼女の一声から始まる。


「陽介、カーテンを閉めてちょうだい」


 命令口調で言われると、俺はヘイヘイと面倒くさそうに返事をしながら部屋のカーテンを閉めた。朝からカーテンを開くのが普通だが、この家では朝からカーテンを閉めるのがルールになっていた。そんな彼女は押し入れからドラ●もんのように出てくると、長い黒髪を片手でかきあげながら一声文句を言ってきた。


「陽の光なんて大ッ嫌いよ、太陽なんて消滅してしまえばいいわ。それにしてもホントに狭苦しい部屋ね、不便でしょうがないわ」


 彼女はそう言って文句を言ってくると、俺のベッドに座り込んだ。その姿は女王のようだった。そして、俺は部屋の隅っこにちょこんと座って距離を置いたのだった。彼女は女王様のように足を組むと、かなり上から目線で俺に話してきた。


「陽介、新鮮なトマトジュースを持って来てちょうだい」


 彼女の要求に俺は一声、無いとキッパリと答えた。そう答えた瞬間、彼女の顔がキツメの表情に変わった。


「なっ、何ですって……!? 新鮮なトマトジュースを出せないですって……!? 貴方はこの私に、朝からひもじい思いをしろって言う気なの……!?」


 彼女が大袈裟に言うと、俺は素直に言い返した。


「――すまん、昨日はバイトで忙しかったからトマトを買うのを忘れた。だから今日、トマトを買ってくるよ。だから今はカップラーメンで我慢してくれるか?」


 そう言った瞬間、彼女は右手から黒い大鎌を召喚すると、そのまま俺の方に向かって斜めに振り上げてきた。


「ヒィッッ!」


 突然、彼女からいきなり攻撃されると、俺は瞬時に攻撃を避けた。すると大鎌が壁にドカッと食い込んだ。その反動で住んでいるボロアパートが朝から大きく揺れた。あと少しで彼女に首を跳ねられる所だった。そう思うと一瞬、全身がヒヤッとした。そして、壁に食い込んだ大鎌を見るなり、俺は大声で彼女に怒鳴って抗議した。

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