新鮮なトマトジュースをお出し!.

 店員が騒ぎを駆けつけに来た時には、すでに決着がついていた。陽介は電機アンマで相手を舜殺すると、キン肉ムキムキの男は彼に恐れをなして逃げて行った。それこそ、大量にカゴに入れたトマトを買わずに一目散に店から逃げ出した。陽介はボロボロになった姿でトマトが入った袋を片手に勝利の笑みを浮かべた。


「フッ、ざっと俺の手にかかればこんなもんよ。何せ俺は無敵の主人公だからな――!」


 そう言ってキメ台詞を話す彼の横で、店員が口をポカーンと開けたまま硬直して呆然と佇んだ。


――その頃、トマトを買いに行ったきり今だに戻って来ない彼に対して、彼女は部屋の中で不満を愚痴にした。


「もう、遅いわね……! まったく何処まで買いに行ったのかしら!?」


 そう言って黒薔薇姫は、テーブルに置かれていた目覚まし時計をキッと睨んで苛立った。


「下僕2号の癖にして、この私を待たせるとはいい度胸じゃない。トマトを買いに行ったきり全然戻って来ないわ。まさか、今ごろ寄り道なんてしてるんじゃないわよね? そうだとしたら帰ってきたら只じゃ済まないわよ…――!」


 彼女は自分の爪を噛むと、イライラした表情で不満を言い続けた。


「大体、何故この私が、あんな人間ごときに待たされなきゃならないのよ。こんな時にエリオは一体、どこに行ったのかしら? 下僕1号がいたら今頃こんなひもじい思いもせずに済んだのに……! んもう、本当に頭にきちゃう!」


 彼女は怒りの途中で急に空腹に襲われると、お腹の虫が鳴った。そして、恥ずかしそうに顔を赤く染めると小さく咳払いをして黙りこんだ。


「ああ、もう限界……! 凄く憂鬱だわ……! もう耐えられない、一層こうなったら…――!」


 黒薔薇姫は空腹に我慢できなくなると、赤い瞳で空を見上げて呟いた。


「もうやるしかないわね、だって私はヴァンパイアですもの。下僕2号なんかに頼らないわ。頼ってたまるものですか。いいわ、みてなさい人間……!」


 そう言って彼女は何かを決意するとベッドから立ち上がった。そして、右手に大鎌を持った。


「この空腹を満たすには――」


――その時だった。玄関の扉がガチャっと開くと、陽介が買い物袋を両手に抱えたまま部屋に入って来た。


「ただいまっ!」


「ッ……!?」


「あ、あれ? 黒薔薇姫、なに手に物騒なものを持っているんだ?」


「陽介…――」


 彼女は彼の間抜けな表情を見て、不意に我に返った。


「ごめんごめん、ちょっと遅くなった! あっ、でもトマトは無事に買ってきたぞ!?」


 陽介はテーブルの上に買い物袋を広げると、中からトマトが入っている袋を取り出した。


「けっこうスーパーでトマトを買うと高いんだな。いつもは商店街の八百屋でトマトを買ってたりしてたから、値段を見て驚いたよ。まあ、高い値段の割りには案外このトマトとか美味しいのかもな?」


 彼はそう言って無邪気に笑って彼女に話した。黒薔薇姫は陽介の横顔をジッと見るなり、ボソッと呟いた。


「――…まったく、下僕2号の癖に買ってくるのが遅いのよ。あともう少しで別のやり方で空腹を満たす所だったわ」


「へっ?」


「なっ、何でもないわ……!」


 彼女は急に焦ると、口を接ぐんでツンと済ました顔でソッポを向いた。


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