新鮮なトマトジュースをお出し!.
「本当に男って単純な生き物ね――?」
「ああ、どうせ俺は男で単純な生き物ですよ~!」
「そうね。特に貴方は単純過ぎて分かりやすいわ」
彼女はそう言ってさらりと言い返した。
「少しは褒めてくれたっていいのに、なんか傷つくな……!」
「私に褒めて欲しかったら、もう少し早めにトマトを買ってくることね。貴方が買いに行ってから何時間待たされたと思うの?」
「んー、1時間くらい?」
「いいえ。1時間と30分よ、私はその間どれだけの空腹に襲われたか貴方には知らないわよね。そんな下僕を私が素直に感謝して褒めると思った?」
「かっ、可愛いげなっ……!」
まさかの言葉に思わず、陽介はその場で口走った。黒薔薇姫はツンとした表情でソッポを向いた。
「おっ、俺だって本当は早くトマトを買って来たかったよ! でも、変な奴がトマトを一人で買い占めようとして、それで……!」
「変な奴?」
黒薔薇姫はその言葉に反応すると目を細めた。
「あっ、こうしちゃいられん! 天気がいいし、お布団でも干そ……っ!?」
陽介は急に焦り出すと、その場で話を切り上げようとして立ち上がった。すると彼の首もとに鋭い大鎌の刃が触れた。
「何を急に慌ててるの? じっくりと話を聞かせて貰おうじゃない。隠しても無駄よ、私ってこう見えて勘が鋭い方なのよ?」
「くっ……!」
彼女の尋問に彼は観念すると、スーパーでの出来事を素直に話はじめたのだった。
「――そう、そんなことがあったのね。この人間世界には変な人間がいるみたいなのね。私だったら間違いなく邪魔者は排除するけど、陽介はその相手を取り逃がすなんて爪が甘いわね?」
「そっ、そんなこと言うなよ……! おっ、俺だってけっこう必死で戦ったんだぞ!?」
「そうかしら?」
「ああ、あの時は無我夢中で必殺技をだな……!」
「下品でセンスの欠片もないわ。まるで無様ね、私だったらもっと上手く退治してるわよ」
「し、仕方ないだろ……!? 俺だって喧嘩なんか普段からやらないし、って言うか相手はキン肉ムキムキのゴリマッチョだぞ!? 普通に相手をしたら俺が死ぬッ!」
「私の為にトマトを守って死ねるなら、下僕として光栄な最期じゃない?」
「……おっ、お前それ本気で言ってるのか?」
「ええ、本気よ。下僕としての忠誠心を主人に見せて死ねるなら光栄と思いなさいよ。そんな貴方に私は涙を流して、感謝するわ。――そうね、私の為にトマトを守ってくれてありがとうと言って、貴方の死を麗しく心から称えてあげる」
「嘘コケーッ! って言うか、よく人の目の前で平気でそんなことが言えるな!? 俺はまだ死んでねーし、それに勝手に人を殺すなよ!?」
陽介が怒り気味に言い返すと、黒薔薇姫は小馬鹿にしたような声でクスクスと笑った。
「やーね、冗談よ。まさか本気にしたの? 貴方って本当に面白いわね。こんなおかしな人間みたの、私はじめてだわ」
「うぬぬっ……!」
彼女はそう言って話すと、再び彼の前で可笑しそうに笑ったのだった。完全に小馬鹿にされると、陽介はテーブルの上に頭を凭れてガックリと心が折れた。
「あ~くそっ、もう好きなようにわらえ~っ!」
晴れた昼下がり、彼女の悪戯な笑い声が彼の住んでいるアパートの部屋に響いた。2人の間には穏やかな時間が流れて行った。そして、不意に彼は視線を彼女に向けるとそこで顔を赤くした。可愛いげなく、憎まれ口を言う彼女が不意に見せた笑った表情が何だか急に可愛く見えたのだった。陽介は、そんな彼女の前で顔を赤くしたまま黙り込んだ。そんな時、ハッと我に返った。
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