新鮮なトマトジュースをお出し!.

 黒薔薇姫が思い詰めた様子でいると、陽介は然り気無く声をかけた。


「の、飲まないのか? 作りたての野菜ジュースは早めに飲んだ方がいいぞ。でないとほら! その、新鮮さが逃げちゃうからな……!?」


 そう言って彼は明るく振る舞った。彼女は一言『そうね』と返事をした。そして、新鮮なトマトジュースが入ったコップを手に取ると、両手で上品にひと口飲んでみた。その様子を陽介はドキドキしながら見守った。


「――ふぅ。さすがね」


「ん?」


「トマトは新鮮なうちにジュースにして飲むのが一番だわ。この野菜のフレッシュな感じが口いっぱいに広がるのと、濃厚な風味と、ほんのりとした甘い香りが堪らないわ……!」


 彼女は急に上機嫌になると、コップを両手に持ちながら饒舌に話した。陽介はホッと安心すると胸を撫で下ろした。


「えっと、つまり……。俺が作ったトマトジュースが美味しかったってことか?」


 陽介は安心した途端、自分の頭をかきながら照れた様子で彼女に尋ねた。


「何ですって?」


「えっ?」


「誰が貴方が作ったトマトジュースが美味しいと言ったのかしら?」


「えっ、あれ? そう言う意味じゃなかったのか……?」


「笑止! 私はこのトマトが新鮮だったから感想を言っただけで、誰も貴方が作ったトマトジュースが美味しいとは一言もいってないわよ!?」


 彼女のその言葉に陽介は思わず、ガックリと片を落として言い返した。


「まっ、マジかよ……!? そこは素直に褒める所だろ!? って言うか、フツーに褒めちぎれよ! ありがとう、美味しかったくらい素直に言えないのかっ!?」


「な~に? ムキになっちゃってバッカみたい。貴方って本当に面白いわね、退屈せずに済むわ」


『人をオモチャにするなーっ!!』


 そう言って冷めた目でバカにすると、陽介はますますムキになって言い返した。


「……そうね。強いて言えば、まぁまぁね。特に不味くもなく、普通に飲めるわ」


 その瞬間、陽介は両手を畳について彼女の前でガックリと頭を下げた。


「くっ、どうせこんなことだと思ったぜ……!」


 彼の想像の中では、彼女が素直に美味しいと彼に言って抱きつき。トマトジュースを作ったお礼に、ご褒美にキスされると言う安易なイメージだった。一人でガッカリしていると、黒薔薇姫は無言でトマトジュースを飲み干した。


「私が素直に褒めると思ったの? 貴方は私の下僕2号よ、下僕以外なんとも思わないわ。言っておくけど私に何か期待しないことね、坊や?」


「ッ……!」


 彼女はサラッと捨て台詞を吐いた。その言葉に陽介は、ピクッと固まった。



――もしかして俺の妄想を見抜かれていたのか!?



 陽介は自分の妄想を彼女に見抜かれていたことにドキッとすると急に黙り込んだ。


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